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NO-MA美術館の展覧会の案内文には“空飛ぶ車にロボット、宇宙旅行・・・かつて人々が空想した遥か先の未来は、そう遠くない現実世界として私たちを迎えようとしています。”と書かれてあります。(一部略)
近年よく「AI・ロボット・IOT」などのキーワードが日常的に飛び交っていますが、子供の頃に想像した「未来世界への憧憬」とは少し違うようにも思います。
これもNO-MA美術館の言葉を借りると“閃きを生み出してきたのは、宇宙冒険譚や平行世界、時空間移動など、サイエンス・フィクションの世界で繰り広げられてきた、夢に満ちた「空想科学」ではないでしょうか。”となります。
感じてしまう違和感は、「夢」と「産業」の言葉のニュアンスの違いからきているのかもしれませんね。
『夢に満ちた「空想科学」』という言葉にとても魅力的に感じてしまいます。
「空想の惑星ノマ」へと向かう6名のアーティストの冒険譚ともいえる作品が展示されているのが今回の『惑星ノマ――PLANET NO-MA』という展覧会といえると思います。
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◇土屋正彦
1946年生まれの土屋さんは、「アンドロメダ星雲にある星の大総裁として正義のために戦い続ける自分の亡き父が彼の中で全能の男性像として神のように存在し続けている」と長期にわたる精神科病院での生活の中で現実として見ていた世界を描いたもの。
絵はさながら宇宙にいる誰かとの交信によって描かれているのでは?と思えてしまうような絵で、スタートレックのナレーションの「『宇宙..それは最後の開拓地である。そこには人類の想像を絶する新しい文明、新しい生命が待ち受けているに違いない。」を思い起こさずにいられません。
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土屋正彦「エイリアン」
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土屋正彦「夜ふけのオレ」
「はるかなる思い出」はどこかにある惑星に暮らす恋人達がいて、衛星では出産のイメージの絵が描き込まれています。
これは父母の思い出とも受け取れますが、どこかに存在しているけど、どこにも存在しない惑星での一幕なのでしょう。
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土屋正彦「はるかなる思い出」
◇河原田 謙
河原田さんの作品は写真でしか展示されていなかったのですが、茨城県で「ケネディ電気」という家電修理業を営んでいる方だそうです。
写真で見ると、工事現場にあるようなプレハブ数棟の中にはガラクタなのかスクラップなのか分らない物がぎっしりと詰め込まれてあります
空地にはロケット(ドラム缶製?)が並び、架空のロケット基地の様相を呈しているのでインパクトがあります。
家電リサイクルが本業のようですが、「唯一無二の超科学的開発研究所、ケネディー電気」のコピーは言い得て妙です。
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河原田謙「ケネディ電気」
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河原田謙「ケネディ電気」
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河原田謙「ケネディ電気」
◇具志堅 誉
具志堅さんは、1998年生まれですので10代のアーティストです。
煙を吐き上げる工業群の前に巨大なキノコ(?)がそびえ立っていますが、よく見ると車やタイヤの写真をコラージュした作品になっています。
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具志堅誉「朝」「昼」「夜」
「病室から見える我が家」の動機は、「病院は宇宙にいるようだ。近くに見えるのに絶対に行けないから」と病室のお母さんが窓から見える自宅を見て話したこと。(東京新聞より)
お母さんが、早く治ってほしい。宇宙から家に帰ってきてほしい。大好きな自動車のエネルギーで完治してほしい。(東京新聞より) と願う具志堅さんの想いのこもった作品なんだろうと思います。
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具志堅誉「病室から見える我が家」
◇設楽陸
設楽さんは“シェアスタジオ「タネリスタジオビルヂング」運営代表”の肩書きを持つ画家さんです。
小学生の頃から『架空の歴史ノート』という架空の国家・人物・想像上の歴史などを精密に描かれていたそうで、そのノートは出版物として発表されている方です。
またゲーム世界のビジュアルの影響も受けて、独自の世界を築いてこられた画家だそうです。
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設楽陸「羽ばたこうとする」
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設楽陸「マーメイドステージをゆく」
◇川埜隆三
NO-MA美術館は、民家を改造した美術館で、中庭を挟んで倉が建てられています。
この古い蔵の中でも毎回展示が行われますが、今回は川埜さんの作品が倉の中に展示されていました。
蔵に入った瞬間に驚いてしまうのですが、作品は何と埴輪です。
川埜さんは私たちが存在する「さいたまA」と並行世界である「さいたまB」のパラレル・ワールドを表現されていて、並行世界で発掘・出土された埴輪が並べられています。
パラレルですから何が現実なのか分からなくなってしまいます。
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川埜隆三「UFO型埴輪」
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川埜隆三「烏帽子型埴輪」
川埜さんは、埴輪世界の造形作家をしての一面と、現代美術の造形作家としての両面を持つ方です。
NO-MAに置かれていた川埜隆三パンフレットを見ると、埴輪世界とは全く違う造形作品が掲載されていて驚きましたが、とても奥の深い作家さんだと思います。
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オーソドックスなSF小説的な空想世界・空想科学による冒険譚には今でも心躍らされるものがあります。
その冒険譚は“楽観的であり希望に満ちたストーリー”でもありますが、反面で“アイロニカルな絶望の中で見る夢のよう”とも言えるのかと思います。
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