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平方録

だるまさんが転んだ

梅の花が香るこの季節、それも三連休とあって鎌倉駅を中心とした一帯は観光客で大変な混雑をしているらしい。

昨日、用事があって鎌倉駅近くまで出かけた山の神が「相変わらずだったわ」とその混雑ぶりに呆れていた。

東京辺りから日帰り出来て、静かな寺々を回り、馥郁たるウメの香りがかげて、腹が減れば小腹を満たすのに不自由はしない…そういうところだからデートに散策に格好の場所なのである。

だからボクの行動範囲は当然限られ、観光客が近寄ってこない尾根歩きとか、寺を回るにしても平日の午前中にするとか、人気の寺には絶対に近寄らないとか…ということになる。

ただ、京都辺りは平日も含めて大混雑が続いているようで、その混み具合は鎌倉の比ではないようだから、京都市民はどれだけ大変な思いをしていることか。

そういう鎌倉の寺々にあって、ウメの名所として知られる寺の中に境内の写真撮影を禁じている寺がボクの知る限り2つある。

覚園寺と東慶寺。

いずれも見どころの多い、観光客にも人気の高い寺である。

覚園寺はずいぶん昔から入場さえ制限しているから、これは別格として、東慶寺が撮影禁止の看板を掲げたのは最近の事で、カメラを抱えた連中が入らないでほしい所にまでズカズカ入り込み、あるいは植栽を踏み荒らして困る…というのが理由だという。

それはそれで寺側の主張はもっともで、悪いのはカメラを手にした見物客の方だから文句は言えない。

言えないし、言うつもりもないが、この際、独り言ならつぶやいてもかまわないだろう。

2年くらい前だったか、まだコロナの影を引きずっていたころのこと。

イチョウが色づき始めた平日の昼下がりの事だった。

円覚寺から横須賀線の線路をまたいで東慶寺の境内に入ると小学生の遠足が来ていて、それぞれ数人のグループに分かれて境内を散策していた。

すると、そのうちの一グループ6、7人が「だるまさんが転んだ」を始めた。

元気のいいボーイソプラノなど闊達で軽やかな声が境内にこだまする。

すると、やや間が開いて土産物などを売っていた寺の女性が出てきて、近くにいた若い男の先生を捕まえて説教を始めた。

それほど離れていなかったので聞き耳を立てていると「ココはお寺の境内です。しかも禅寺で学校の校庭ではありません。何を考えているんです。静かにさせてください」などなどと結構な剣幕である。

若い男の先生はびっくりしたのか、そういう手の苦情を受けるのが初めてだったのか、黙って下を向いたまま小さくなっていた。

それからしばらく経ったある日、「境内は静粛に」ではなく、なぜか「境内写真撮影禁止」の立て看板が張り出されたのだった。

 

あの時、若い男の先生がこっぴどく叱られているのを見て、よっぽど口出ししようかと思った。

「良寛さんは自分の寺で村の子たちと毬つきをしたりして一緒に遊び、子どもたちだけで元気に遊ぶのを目を細めて見ていたそうじゃないですか。良寛さんも禅僧ですよ」「昔からお寺の境内というところは、子どもたちの元気いっぱいな声の響くところじゃなかったでしたっけ」と。

そもそも、東慶寺の本山である円覚寺は境内で幼稚園を運営していて、子どもたちの元気な声が響いている。

ボクも高校生のころだが、居士林というところに10日ほど泊まり込み、坐禅に打ち込んだことがある。ほぼ一日中、坐禅をしているのだが、横須賀線の踏切の警報機がカンカンなる音がたまに耳に付いたことがあったが、そんなことで気を散らして集中が途切れてしまうようでは、山門から放り出されるのがオチである。

まして「チヨコレイト」だの「パイナツプル」などと子供たちが大声を張り上げたところで、長時間続くわけもなく、いちいち気にするような修行ならさっさとやめて家に帰った方がいい。

「場所をわきまえてください」なんて、ちゃんちゃらおかしく、ほとんど笑えるほどだったが、余計な口出しは止めておいた。以来、足は遠ざかったままである。

いい雰囲気の佇まいの寺で、好きな寺の一つだったんだけど…

 

f1ブリズルシズル ブルーという品種

 

「f1」のタネは一代限りなので、花後にタネを採取しても同じものが咲くかどうか…

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