老い生いの詩

老いを生きて往く。老いの行く先は哀しみであり、それは生きる物の運命である。蜉蝣の如く静に死を受け容れて行く。

人は昔鳥だったのかもしれない

2022-05-22 17:22:45 | 読む 聞く 見る
1880 空を飛ぶ



いま書店の棚に福永武彦 の小説を目にしなくなった
自宅に眠る文庫本の中から福永武彦『廃市、飛ぶ男』を手にした
10年前に読んでいた

「君は夢の中で空を飛んでいることはないかい」( 『廃市、飛ぶ男』180頁)
自分は月に1、2回空を飛ぶ夢を見る
両手を広げ鳥のように羽ばたきながら飛んでいる
大海や大河の上を飛ぶ夢は最高に気持ちがよく、このまま夢の世界であって欲しい、と願う

彼の身体は半ば死んでいるのだ
彼の両脚は、腰から下は、痺れたまま何の感覚もなく、歩くことができなくなった
ベッドの上で仰向けになり、かろうじて寝返りはできる

ベッドで寝ているだけの生活
それは「生活」と呼べるのだろうか

彼は身体の左側を下にして、病室の窓の方を見ることが好きだった
窓ガラス越しではなく、窓を開け、空や白い雲などを見る

空は黄昏になり薄暗くなると夜勤の看護婦が様子を見に
病室のドアを開き、この窓を締めて行くだろう

「彼は窓の外を見つめていた眼を室内に移した眼は部屋の中を暗く、そして狭く感じた。
鎖された部屋の中で、ベッドに固定されたまま、彼は一人だった。彼はぼんやりと壁に出来たしみなどを見ていた」。

彼は空を飛ぶこと夢を見続けながら、臨終の日を迎えた





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