雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(44)




韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(44)


 ジェヒがATMで金を用意する間、クムスンは終始浮かない顔だった。ジェヒの頑なな言い分に屈服してでも借りなければならなかった自分に惨めさを覚えているからだった。
「どうぞ」
「ありがとうございます」
 クムスンは目も合わさずに礼を言った。
「できるだけ早く返すようにしますので・・・」
「ゆっくりでいいよ。使う予定はないから」
「はい・・・」
 ジェヒは携帯電話を取り出す。
「電話番号教えろ」
 クムスンは顔を上げる。
「番号を知らないと逃げられたら困る」
「・・・入力するからこちらに」
 クムスンは携帯を受け取り、入力してジェヒに戻す。
「こういうのはまず保存しないと・・・白菜・・・150――」
「万単位まで入力しないと150と勘違いするわよ」
「シラけるな、もう」
「・・・」
「よし」ジェヒは携帯を閉じる。「では何か食べよう。朝食前なんだ」
「私はもう行かないと・・・」
「行くのか?」
 本能的に言い寄られてる気分のクムスンは無愛想に頷く。
「はい、行かないと。美容室の開店時間なんです」
「じゃあ、10分・・・」
 クムスンはジェヒを見る。
「も、ダメ? 牛乳とサンドイッチだけでも食べてさ」
「行きます。ごめんなさい」
「お前、ほんと分をわきまえないヤツだな」
 クムスンはキーッとジェヒを睨み返す。
 ジェヒは不満の態度を引っ込める。
「分かった。いいよ。行きな」
「じゃあ、行かせてもらいます。ありがとうございます」
 クムスンを見送った後、ジェヒは首をかしげた。
「どうしてだ? なぜ怒ったんだ?」
 顔を上げた。
「あいつ・・・俺が何をしたというんだ?」

 クムスンは次に院長と会った。
 院長は書類をクムスンの前に差し出した。
「ここに名前とサインを書いて」
 クムスンは言われた通りにサインした。
「ありがとうございます、院長」
 そこにウンジュが姿を見せた。
「本当はダメなのよ。事情があるし大目に見るわ。その分、頑張って頂戴。いいわね」
「ありがとうございます。頑張ります」
 ウンジュは怪訝そうに二人のやりとりに見入っている。

 スンジャの家に向かう坂道は疲労のたまったクムスンの身体を痛めつけた。クムスンはゼイゼイ息を荒げながら家にたどり着いた。
 すぐ後からスンジャも帰ってきた。
 金を全額工面できたことは伝えてあったらしい。スンジャはクムスンに何度も礼を言った。クムスンの努力が期待以上だったことにも感激したようだった。
 クムスンはフィソンを連れてようやく帰宅した。金の工面で一日動き回り、神経もすり減らした。疲れてクタクタだった。
 部屋に入ったクムスンはフィソンをおもちゃで遊ばせ、ふとんに潜り込んだ。泥のように眠った。
 フィソンがリビングに出ておもちゃを散らかした頃、ジョンシムとテワンが帰ってきた。散らかった部屋を見て、ジョンシムはすぐクムスンを呼んだ。返事がないと怒り出した。
 ジョンシムらの声を聞き、クムスンは目を開ける。フラフラしながら起き上がる。リビングに出ていく。
 出てきたクムスンをジョンシムは叱り付けた。
 クムスンの弁解をジョンシムは聞き入れない。
 熱が出て疲労のたまったクムスンに、細かい作業は思うようにならない。気力を集中できない。はかどらない。
 ジョンシムの目にはそれがだらしなく見えるようだった。ジョンシムはさらに声を荒げて叱り付ける。言われた通りにしようとするクムスンだが、身体がいうことを利かない。その場にうずくまり、泣き出してしまう。
 ジョンシムは泣き出したクムスンをさらに咎める。体調が悪いとはそれでも気付かないようだ。
 嫁と姑には血のつながらない分、そういうところがあるのかもしれない。
 そこにピルトが帰ってきた。彼は、
「少し熱っぽくて・・・」
 とのクムスンの言葉と仕草を見逃さなかった。
「や、これは・・・熱はだいぶ高いぞ」
 ピルトはジョンシムを睨みつけた。
「こんなに熱があるのに何をさせようとしてるんだ!」
 
 ジョンシムらはクムスンを休ませ、自分たちで部屋を片付けた。

 シワンはソンランに電話して会った。ソンランの結婚生活がどんなものでどうして離婚に至ったか、などを知りたいと思ったからだった。相手のことをすべて知った上でというのは彼の人生観、女性観のようであった。
 ソンランはシワンの質問を受け入れた。シワンに対し、構えることはもうないと思ったようだった。
 ソンランは憧れの相手との馴れ初め、結婚から子供、人生観の相違から離婚に至るまでの経緯を正直にすべて話した。
「まだ、訊きたいことある?」
 シワンは首を振った。
「すまない。辛い話をさせてしまって・・・」
「そうね。でも――時は経ったのに思い出すと・・・つまらないわ」
「・・・」
 二人は店を出た。
「車は?」
「いや」
「送って行こうか?」
 シワンは立ち止まった。ソンランを見た。
「どうしたの? 返事もなく」
 シワンは黙ってソンランを抱き寄せた。髪を撫で、強く抱き寄せた。
「あたたかい・・・」ソンランはつぶやいた。「寒かったんだわ」

 悪質な取立てから解放されたスンジャは、鶏モモを焼き、ビールでお祝いをやろうとジョムスンとクマを呼んだ。
 しかし、二人はスンジャほどは乗らない。ジョムスンは負担がクムスンに移っただけだと考えているし、クマはちっとも貢献できなかった自分を惨めと思っているからだった。

 ノ家も夕食が始まろうとしている。
「クムスンはまだ寝ているのか?」
「見てくるから先に召し上がって」
 ジョンシムはクムスンの様子を見に部屋へ入った。
 クムスンは寝息を立てている。
「クムスン」
 ジョンシムはクムスンの額に手を伸ばした。
「あら、凄い熱! クムスン、起きて。しっかりしなさい」
 身体を揺さぶられ、クムスンは目を開ける。
「お義母さん・・・」
「大丈夫なの? 凄い熱よ」
「そうですか。病院に行くわよ。このままじゃダメ」
「いえ、お義母さん・・・このまま寝ます。とても眠たいんです。寝不足だと思うんです。寝れば治ると思います」
「だったら何か食べて、薬を飲んでから」
「熱さましは寝る前に飲みました。お義母さん、少し寝ますね」
「・・・」
 ジョンシムは布団をしっかりかぶせてやった。

 ウンジュはキジョンに独立を申し出た。
「小規模のマンションかワンルームでもいいですから、私に用意してください」
「・・・」
「部屋さえあれば、あとは自分でやっていきます」
「行きなさい」
「・・・」
「行きなさいと言ってる。最近、気ぜわしいのに怒らせるつもりか」
「きちんと考えたのよ」
「きちんと考えた結果が、こんなもんか?」
「こんなもんだからよ。こんなもんに生まれたんだから仕方ないじゃない」
「ウンジュ、やめなさい」
 たまりかねてヨンオクが言った。
 二階から降りてきたウンジンは階段のそばで足を止めた。
「それより、あなた結婚しなさい。結婚すればいやでもここを出れるわ」
「結婚って、一人でするのか?」
「あなたもですよ。ちょっと待って」
「・・・」
「ウンジュ、ジェヒと結婚しなさい。院長とあなたたちの結婚を・・・」
「こいつが、何を言ってるんだ」とキジョン。「わしはジェヒはダメだと言ってる。ダメだ」
「・・・」
「ダメと言ったらダメだ。何度も言わせるな」
「何でダメなの?」とウンジュ。「ジェヒさんがダメ?」
「ああ、ダメだ」
「なぜ?」
「ひと言で、お前みたいに分別がない。2人とも同じでどうする。ダメだ」
「・・・」
「ジェヒは品がなさ過ぎだ。人を包み込む力もない。そんな男では一生苦労する」
「亡くなったママみたいに?」
 二人は緊張した。
 ウンジンは聞き耳を立てた。
「驚きだわ。今までジェヒさんをそんな風に? なのに愛弟子だと?」
「黙りなさい! 関係ないことだ。あいつの品性を話してる」
「彼のどこが悪いの? パパよりはマシよ」
「ウンジュ、やめて」

 思い出すと腹が立ってくる。顔を思い浮かべるとムカムカしてくる。
 ジェヒは口に含んでいた割り箸をテーブルに叩きつけた。
「俺が何したというんだ!」
 割り箸を口に戻す。
「まさか・・・しょっちゅう、白菜って言ってるからか? まったく・・・大金を無利息で貸したというのに・・・」
 後輩二人は目を見合わせる。
「感激しても足りないのに・・・白菜の切れ端みたいなチビのくせに」
 気付くと後輩らがじっと見てる。
「何を見てるんだ」
 後輩らはあわてて食事の姿勢を取る。
 ジェヒはカップめんを一口すすって割り箸を投げ捨てた。

 ジョンシムのクムスンへの介抱は朝方近くまで続いた。冷たいタオルで何度も額を冷やし、流れ出る汗を拭いてやった。クムスンの額の熱は徐々に下がってきた。
 ピルトが様子を見に顔を出した。
「どうだ?」
「少し下がったわ。寝てなかったの?」
「目が覚めたんだ。ずっとここに?」
「はい。熱が下がったら何か食べさせないと。寝てばかりではダメよ」 
 ピルトは何も言わない。
 この時ばかりはジョンシムの甲斐甲斐しさに感心したようだった。
「じゃあ、先に寝るよ」

 クムスンが目を覚ました時、ジョンシムはおかゆをつくって運んできた。
 ジョンシムが一晩中、自分を看病していてくれたのをそれで知った。
「お義母さん・・・ありがとうございます」
「・・・」
「泣き虫ですよね。良くても悪くても泣いてばかり」
「分かればいい」
 ジョンシムは何か思い出したようだ。
 後ろから引っ張り出したのはフィソンの春服だった。
「気に入って買ったの」
「かわいい・・・かわいいです。でも――フィソンはあなたの子、と言ったのにどうして買ったんです?」 
「そんなに悲しかった?」
「そうですよ。とても悲しかったです。私を好いてくれなくても・・・フィソンだけはと信じていましたから」
「・・・」
 ジョンシムはクムスンの額に腕を伸ばした。
「前髪がおりてきたわ。・・・あなたは額がきれいで、形もいいから出した方がかわいい。好きに決ってるでしょ。好きだから、一緒に暮らしてるの」
「・・・」
「でも――時々、憎らしい時があるわ」
「言ってください。直しますから」
「言ってもわからないわ。あなたに言っても・・・私の切ない心の中までは理解できないでしょ。いつか分かってくるわ。子供を育てながら、フィソンが成長し、小学校に通い、中学校、高校、大学まで育てたら、その時に分かる。きっと」
「・・・」
「さあ、早く食べなさい。私の怪我で苦労だったでしょう。家事に仕事に、朝晩のフィソンの送り迎えと、ほんとに大変だったわね。それで病気になったの。これを食べて、ゆっくり寝なさい。義母の手料理を食べて、しっかり休みなさい」
「・・・」
「早く食べなさい」
「・・・」
「本当にいうことを聞かないんだから。食べないの? 食べないなら片付けるわよ」
「いいえ、食べます」
 クムスンはスプーンでおかゆを口に運んだ。
「おいしいです」
「私がつくったの。当たり前よ。たくさん食べて」
「お義母さん・・・親孝行します。彼の分まで、私が精一杯お義父さんとお義母さんに親孝行しますから」
「当然よ。しないつもりだった?」
「いいえ・・・お義母さん」
 二人は目を見合わせた。
 おかゆを食べ始めたクムスンの髪を愛おしそうに撫でるジョンシムだった。 





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