サッカーの中田英寿選手が引退を表明した。二十九歳の若さである。
各地で賛否両論が渦巻いている。どっちがいい、というのは多分に思い入れが入ってしまうので控えるが、引き際がじつにすがすがしいと僕は感じている。
日本サッカー界をリーダー的な役割で牽引してきた選手である。その彼が、他にやりたいこともあって引き際を考え始めていたというなら、今回のワールドカップを最後の舞台としたのは間違っていないだろう。予選リーグの最終戦の後、ピッチに長々と寝そべって立ち上がれなかった彼の姿がそれを象徴していよう。まさに精も根も尽き果てたというのがあの姿だった。
今回のワールドカップ日本代表選手の中で、その存在をアピールできたのは川口選手と玉田選手くらいのものだった。他の選手らはよく言えば持ち場にいただけ、悪く言えばあまり輝いていなかった。中田選手も往年の豊富で鋭い運動量に比べれば劣っていたように思う。本人にすればモチベーションだけではどうにもならぬものを感じ始めていたのではないだろうか。
彼が引くことで世代交代による新しい潮流を生むことにもつながるだろう。彼はそこにまで思いを向けていたかもしれない。
正直な感想を言えば、代表選手からの引退を宣言し、一選手として今後も現場にとどまりサッカー界に尽くしてほしいところだが、それは理想に過ぎるというものだろう。
語学の才などに秀でた彼には、他にもやりたいことがあると聞く。学問でもビジネスでも何でもいいが、別の世界を経験し、大きな視野に立って活躍する中田英寿をもう一度見てみたい気がしている。