韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(35)
「無断外出とはどういうことなの?」
ユン室長は店に戻ってきたクムスンを叱り付けた。スタッフのいる前だった。
「すみません、室長。急用がありまして」
「いくら急用でもひと言あるべきでしょ。基本じゃないの」
「すみません・・・」
ヘミはクムスンが叱られるのを愉快そうに眺めている。
「何があったの? どんな理由か話しなさい」
クムスンはうなだれた。
「何があったのよ」
「私は美容の仕事を簡単に考え、適当に学ぼうとする人は許せないの」
クムスンは頭を振った。
「先生。私はこの仕事をそんな風に思っていません。思ったことは一度もありません」
「だったら理由を話しなさい」
「話さなきゃダメですか? 本当に仕方なくて・・・」
「話したくない?」
「はい」
うつむいた。
ヘミは呆れた顔になる。
「わかった。では辞めなさい」
「先生!」
「あなたは必要ない。来なくていいわ。みなさん、お疲れさま」
ユン室長は他のスタッフに声をかけて行こうとする。
クムスンは室長を呼び止める。室長は振り返る。
「話します。その代わり2人だけで話をさせてください」
少し考え、ユン室長の話を受け入れた。
みなに帰るよう促し、室長はクムスンを部屋に連れていった。
「”二人だけで”? 何様なの?」
クムスンを見送ってヘミは呆れた。
「ユン先生も許さなきゃいいのに」
「…」
「何よ。何か間違ってる? 公平性に欠けてるじゃないの」
休憩室でユン室長は訊ねた。
「話してみなさい」
「私は母親なんです、先生。子供がいます」
「!」
「2歳になる子ですが、いなくなったと連絡があり――気が動転し、思わず飛び出していってしまいました」
「じゃあ、結婚してるの?」
「はい。子供は無事でした。フィソンという男の子です。ミルクを飲んで寝たので急いで戻ってきました」
「なぜ隠していたの?」
「隠すつもりはなくて、経歴や年齢の問題もあるのに、子供までいたら採用されないと」
「それで隠したの?」
「このようなことは2度としません。明日からもっと頑張ります」
「だけど、また起こるかもしれないわ。その時どうするつもり? 育児は何かと大変なのに―結婚してるなんて想像もしなかったわ。旦那さんは?」
「…」
「それも話したくないの?」
「この世にはいません。先に逝ってしまいました」
「亡くなったの?」
「はい。だから――辞められないんです。生活がかかってるのにいい加減な気持ちではやっていません」
「…」
「美容師は長年の夢でしたが、今は――それ以前に生活なんです。憧れから、絶対に必要な仕事になりました」
「…」
「これからもずっと精一杯働きます。教わったことは何度でも練習して、先生の期待に応えます。中途半端な気持ちでは絶対に挑みません。だからここに置いてください」
クムスンの必死の願いはユン室長の気持ちを動かした。
「子供のことは私たちだけの秘密にしましょう。院長にも内緒にしなさい」
クムスンは室長に何度も頭を下げた。
「時間がないわ」
ユン室長は立ち上がる。
「早く練習しましょう」
ユン室長がドアを開けると外にはヘミがいた。聞き耳を立てていたのだ。
「何してるの?」
「忘れ物が」
ヘミはごまかしの弁解をする。
ユン室長は不快そうな表情を残して階段をおりていく。
クムスンはヘミを無視して階段を降りだす。
「ちょっと」苛立ったようにヘミ「ロット洗いなさいよ」
「ご心配なく。言われなくてもちゃんとやりますから」
答えてクムスンは降りていった。
ウンジュはジェヒを紳士服売り場に連れてきた。
「予約したものを」
「わかりました」
ジェヒの服を買ってやるつもりなのだ。
「ただ(無料)だろうな」
「もちろんよ。初めてのプレゼントよ」
ジェヒは面倒くさそうに試着室に消えた。
ジェヒが試着している間、ウンジュは独り言で愚痴を並べた。
「本当に偉そうなんだから。買ってもらう立場なのに――なんであんなに傲慢な態度なのよ。あきれちゃうわ」
とはいえ、ジェヒが服を着て現れるとその姿にうっとりである。
「いいわあ。まるで別人じゃないの」
「モデルがいいから当然だろ」
ウンジュの気持ちは常にジェヒの心を得るために動いている。
買い物をすませ、宝飾売り場を通りかかった時、ウンジュは足を止めた。ショーケースを覗き込んでウンジュはため息をもらす。
「このヘアピンかわいいわ。これ、いくらですか?」
「5万ウォンです」
「そうですか」
出された品を手にとり、ちらとジェヒの方を見る。シゲシゲと品物を眺める。
「本当にかわいい」
「欲しければ買えよ」
ジェヒはぶっきらぼうに言う。
彼氏らしいのを伴いながら自費で買うのはウンジュのプライドが許さない。
「いいわ。行きましょう」
ジェヒの腕を取りながらもウンジュはどうしてもヘアピンを買ってもらいたくなった。で、一計を案じた。
「私、お手洗いに行ってくるからちょっと待ってて」
「…」
ウンジュは宝飾売り場に目をやった。
「それにしても、あのヘアピン、ほ~んと、気に入ったわ」
と強調してお手洗いに消えた。
ウンジュの露骨なアピールにジェヒは苦笑した。宝飾売り場に戻ってヘアピンを買い求めた。
エレベーターでは乗員がすし詰めになり、ウンジュはジェヒとぴったり身体を重ねることになった。
恋情をあおられたウンジュは地下の駐車場でつま先立ってジェヒにキスをした。
フィソンの迷子騒動以降ジョムスンは寝込んでしまった。体力の消耗もさることながら、クムスンの言葉と迷惑をかけてしまったショックが尾を引いている。
「こんな日に出かけていく人がいる?」
ジョンシムはピルトを相手にクムスンへの愚痴を並べた。
「子供がいなくなってやっとみつかったのよ。私たちが行けといっても”今日は子供のそばにいる”と答えるのが普通じゃないの」
シワンがコーヒーを入れてくる。
帰ってきたテワンはいきなり仕事の話を切り出す。しかし、家族はそれを聞く気分じゃない。シワンがちょっと静かにしろといさめる。
今日はフィソンの迷子騒動で大変だった。家族はフィソンのために走り回ったのに、テワンは不在で頼りにもならなかった。
騒ぎを知らなかったテワンはコーヒーに手を伸ばす。口をつけたとたん、ぷっと吐き出す。熱かったのだ。
こいつは何やってるんだ、とばかりピルトは顔をしかめた。
するうち、フィソンが部屋で泣き出した。
「あっ、フィソンはもう帰ってきてるのか? どうしたんだ?」
「何も知らないくせにうるさいわね」
「何かあったのか」
誰もテワンの質問に答えない。
ご飯の準備もまだのようだ。
フィソンが起きてから、家族はようやくふだんのリズムに向かって進みだした。
キジョンが病室に顔を出した。
「起きたか? どうだ?」
「ショックの後、目覚めると生き返った気分だわ。この気分に慣れてるから――死を前にしても怖くないかも」
「…」
「冗談よ。医師が患者の心理もわからない? 強く生きたいってことよ」
「…」
「でもそう思うの。手術直前の患者は――麻酔から覚められるか不安がるでしょ? 私はショックが来ると気を失う前に不安になるの。今回のショックからも目を覚ませるのか。そう考える度にとても怖くなって生きたいと思う」
「お前だけじゃない。俺もお前が透析で意識を失うと不安に駆られ、心臓が止まりそうに思える」
「…」
「酸素供給が遅れれば脳にも影響する。なぜ意識が戻らないか大丈夫かと――お前が目覚めるまで不安でたまらない」
「…」
「目覚めないのではと思うと恐怖で息も詰まる。・・・そんな時、俺も終わりだと思う。もう生きてゆけないとな。お前が必要なんだ」
「あなた、私は大丈夫よ。甘えてみただけよ。私は大丈夫だから」
「…」
「そうだな。今日は病院で様子を見て、また明日、透析をする」
「聞いたわ」
キジョンはオ院長の話をした。
「友達の見舞いで来たようだが、ここにも顔を出したいそうだ。いいか?」
「いいわ。ご無沙汰してるもの。あなた、ごめんなさい。もう弱音は吐かないから」
「分かった。休んでろ」
キジョンが病室を出たら、オ・ミジャから声がかかった。
「ちょうど目覚めたところです」
「私が顔出したら、失礼じゃないですか?」
「話をしたら喜んでいました。ぜひお会いしたいと」
「では、ちょっとだけお邪魔します」
ソンランはシワンの態度が気にかかっていた。
気にすまいと思いながら、彼の態度のいちいちを気にかけてしまう自分にも苛立ちを覚えていた。
やってきたクムスンにクマは言った。
「昼間にあなたが怒ったせいで落ち込んでるみたい」
「私の言葉、そんなにひどかった?」
「そうよ」
スンジャが出てくる。
「何しにきたの?」
「おばあちゃんに会いにきました」
「私が寄るよう電話したの」とクマ。
「入りなさい」
「さっきは気持ちも動揺してて挨拶もできず、すみませんでした」
「そうよ。反省が必要だわ。謝りなさい」
「すみません」
「言わせてもらうけど、婚家で面倒を見れないからと預からせておいて、感謝どころかおばあちゃんや私たちを悪者扱いするのはどういうことよ」
「余裕がなくてすみませんでした」
「そうよ。悪いのはあなたよ」
「ママ、それくらいにして」とクマ。「クムスン、入って」
クムスンはジョムスンの寝ている部屋に入った。
ジョムスンは身体を起こした。
「こんな遅くにどうしたんだい」
「体調が悪いと聞いて。どうなの?」
「ちっとも悪くなんてない」
「じゃあ、なぜ食事をしないの?」
「食べたよ。それよりフィソンは大丈夫かい?」
「大丈夫よ」
「婚家で何か言われただろ? 私が連れて出たせいで迷子なったって?」
「面倒を見てもらってるのにそんなことないわよ」
「私はお前が嫌な思いするんじゃないかと心配だ。私にはもう預けられないから、お前に仕事をやめろ、という話になって・・・言われてない?」
「…」
「そうなの? どうしたの、顔をあげなさい」
「そんなこといわないわ。そんなのひどすぎるじゃない。おばあちゃん、ごめんね」
「どうしたんだ?」
「私より、おばあちゃんがもっとつらかったでしょ? 私、おばあちゃんの気持ち、ぜんぜんわかってなかったわ。フィソンを見失ったことばかりを
恨んでた。ひどい話でしょ。こんなひどい孫娘はいないわよね」
「子供を心配するのは当然だよ」
「違うわ。ただの恩知らずよ。おばあちゃん、傷ついたでしょう?」
「大丈夫さ」
「おばあちゃん、ごめんなさい。私が悪かったわ」
クムスンはジョムスンに言った。
「おばあちゃん。だんだん痩せていくし、病気にならないで。その手は何よ」
「失礼ね。この年の手にしてはましな方なのよ」
「おばあちゃん~、病気にならないで。おばあちゃんが病気になるとつらいわ。だから元気でいてね」
「分かったよ。私は大丈夫だ。お前は謝ってばかりいる。こんなに心優しい孫娘だ」
「心配ばかりかけて――辛い思いをさせてばかりね」
「そんなこと言わないの。お前のおかげでここにいる。お前を守る一心で今日まで生きてこられた。そうでなければとっくに逝ってたさ。お前の父親は若くして死んだ。叔父さんも悪い状況で、お前がいなかったら私はもう死んでいたよ。だから謝らないで。お前がいるから私は生きるんだ。お前がいればいいんだ」
ジョンシムは自分の胸を叩いた。
「おばあちゃん」
「泣くんじゃない。泣くのは1番嫌いだ」
クムスンは涙を拭った。
「そうさ。こんなにいい孫はいないさ」
二人は抱き合い、お互いを慈しみあった。
「おばあちゃん、元気でいてね―クムスンが親孝行できるようになる日まで、ずっと元気でいるのよ」
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