雨の記号(rain symbol)

ときわ荘のぼんくら談義④

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  KARAの解散④


「貴君の話に水を差すのも何だが、俺はラジオで話すジヨンの声を聞いてすぐに彼女とわかったなんてひと言も答えてないよ」
「ん?」
「ラジオで話すジヨンの声を聞いたことあるか、と訊ねてきたから”ある”と答えただけだ。FM東京に出てきてDJやってるのをたまたま聞いたんだ。女性が二人で喋っていたが、一人は滑らかな口調からアナウンサーだとすぐ知れた。しかし知らない声だ。もう一人はタレントだろうとなった。こっちはどこかで聞いた声で喋っている。しかも懐かしさが感じられる。たぶん、一度は自分の胸に刻んだタレントに違いない。なのに誰だか分からない。思い出せない。それってすごくイラつくじゃないか」
「ああ、分かる」
「だろ。で、誰か調べるためにラジオの番組表を探した。しかし番組表探して開く前にジヨンがMCを務める”ジヨンの季節”だって知った。本人があっさり口にしたからだ。正確にはカタカナのジヨンでなく知識の”知”に英語の”英”をあててジヨン(知英の季節)だったけどね。今から思えば、ひょんなきっかけをもらって彼女に再会したようなものだったかもしれない。KARAで誰がいちばん気に入っていたかといえば、やっぱり彼女だった気がするからね」
「ほほう」
 ボンタはクラヤの顔を覗き込むようにする。
 クラヤはコーヒーカップを握り、残りをすすった。
「ふふふ、その心は(?)って顔だな…。ラジオで誰かが話すのを聞いてね…今しゃべってるのは、誰だっけ(?)、なんて深く考えることがさ…俺にはあんまりないんだ」
「…」
「嘘じゃない。ちょっと考えて思い出さなければ気持ちは次に移るよ。それが本来の自分だ。だけど、あの日は違ってたな。公開放送なのか録音なのかは分からなかったけど、スタジオに押しかけたファンのテンションがやけに高くてね。聞いてるとどうやらその女のせいらしい。これはもう彼女が誰かを知るほかなかったわけさ」
「それってひょっとしてリターン宣言?」
「リターン?」
「ああ。彼女が誰かを知るではなくて、彼女のファンに戻ろうってわけでさ」
「うむむむ」
 クラヤは唸った。
「それ、鋭い指摘かも。以来、”知英の季節”を聞くようになった。KARAとは遠のいていたが、彼女のファンには戻りつつあるみたいだ」
「なるほどね」
 ボンタは腕を組んだ。クラヤに皮肉っぽい目を投げた。
「ジャイアントベイビーがいたな、だって? すっとぼけの伏線など張って、ニコルもジヨンも忘れた振りをする。俺の前でお宅もつまらん芸をするね」
 クラヤは平然として言った。
「KARAを出た三人がどんな活動していくかは知らんが、女優として日本からアジアや世界を目指すなんて、ジヨンは若い分だけ勇気ある行動を取ったと思うな」
 柱時計が10時を告げた。
 ボンタは柱時計を見て腰を上げた。
「続きは次週にやろう」






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