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つかさはジホの言葉を待っている。
「まずは白鳥のお母さんに」
「・・・」
「そして、生んでくれたお母さんに」
つかさは泣きそうな表情でうなずいた。
白鳥プロレスに戻ってきたつかさを見て、梓は駆け寄った。
「つかさ・・・！」
ジホは訊ねた。
「お母さんは？」
梓は首を横に振った。
「ああ、そうですか」
謝りたい気持ちがあるのに、つかさはそれを言葉にすることが出来ない。梓は黙ってつかさを抱きしめた。
つかさは梓の直接的な愛情表現に戸惑いつつも心は和んでいくのだった。
「つかさ・・・お帰り」
つかさを抱きしめたまま梓は言った。
梓の母親のような深い愛情に触れて、つかさはやっとそれを口に出来た。
「ごめんなさい」
つかさを抱きしめたまま梓はうなずいた。
つかさはグスンとした声で言った。
「わたし・・・おかあさんにひどいこと言っちゃった・・・！」
「だいじょーぶ」梓はつかさを慰めた。「だいじょうぶだよ」
こうして梓とつかさの心の絆は一段と深まった。
つかさは疲れて眠りについた。
そんな彼女に梓は囁いた。
「ごめんね・・・」
「いいですね、つかささん」とジホ。「二人もお母さんがいて」
「・・・」
「つかささん、お母さんと仲直りできますかね？」
梓はジホを見た。
「できるよ、きっと」
「・・・」
「離れていても、親子ならきっと分かり合えるはず」
梓はジホを見た。
「私はそう信じてる」
「はい。僕もそう信じたいです」
やってきたプロレスファンに梓はていねいに説明をくわえた。
「本日はつかさのバースデーマッチとなっております。応援、よろしくお願いします」
そこへ郷原とスカル杏子がやってきた。
「あのおチビちゃんがメインとは・・・いよいよ白鳥も、ネタ切れですか？」
皮肉まじりで入場券を差し出す郷原。
荒々しく入場券を切り半券を返しながら梓は応じた。
「つかさはおチビなんかじゃないです。メイン試合、目ン玉、よ～く見開いて見ていってください」
つかさの出番は確実に近づいた。
「自分はメーンイベントにふさわしい試合が出来るだろうか・・・」
彼女は出番を前に緊張していた。
その時がきた。
つかさは大きな決意とともに目を開いた。
梓はリング上でマイクを握った。
「本日のメーンイベント、須藤つかさバースデーマッチ、無制限一本勝負を行います」
つかさはリング上に向って登場した。大きな拍手と歓声が彼女の背を押した。
「いけいけ！」
「待ってました、ハイティーン女王」
「ガンバレ、つかさ！」
「ガンバレーッ！」
女の子の声援も聞こえる。
凶器を持っているかどうかを形式的に調べ終わったジホにつかさは言った。
「キム、わたし・・・本気でぶつかる・・・！」
ジホは頷いた。
「ファイト」
ゴングが鳴った。
つかさはいきなり飛びげり攻撃に出た。相手はゲストで招いたレスラーだ。リングサイドでは梓以下、白鳥プロレスの面々が声を枯らして応援している。その応援を受けて、つかさの先制攻撃は続く。
しかし、敵も然る者、すかさず反撃に出てきた。つかさは身体を振られ、リングに投げ飛ばされてホールの態勢にはいられてしまう。
ジホはカウントを取り始める。
「ワン、ツー・・・」
郷原はこの様子を不敵な笑みで眺めている。スカル杏子が言った。
「視察するまでもなかったですね」
梓は祈る思いでつかさの戦いを見つめている。
ジホは再びカウントを取り始める。
「ワン、ツー・・・」
この時、一枚の布切れがリング上に投げ込まれた。
豹柄の袖手だ。これを見てつかさに気力が戻った。彼女は渾身の力を振り絞った。袖手を握り取った。相手の身体を押しのけてつかさは立ち上がった。
「いいぞ、つかさ」
大きな声援と拍手が沸いた。その中につかさの母親もいる。彼女も手を叩いていた。
それから今までと違うつかさの戦いが始まった。ファンを沸かす攻防が続いた。
しかし、相手を追い込むものの一歩力及ばすつかさはフォール負けした。
スリーカウントを取って残念そうにするジホ。フォール負けしたつかさをリングに倒れたまま起き上がれなかった。
そこに叱咤の声が飛んできた。
「立ちなさい、つかさ！」
つかさは声を方を見た。梓のきびしい表情があった。
「メインを張る一人前のレスラーなら、負けても堂々と顔あげなさい！」
つかさは気力を振り絞って起き上がった。
ファンから温かな声と拍手が起こった。
「いいぞ」
「やったぞ」
「弾けたぞ」
