見出し画像

雨の記号(rain symbol)

「朱蒙」から⑤朱蒙と召西奴

 このドラマは81話におよぶ長い歴史時代劇である。歴史物を正史とつき合わせて正直に描こうとすれば、偏見、愚見、硬直のかたまりとなって現代人には見るに耐えないドラマとなったことだろう。このドラマは正史といわれるものを参考にしつつもそこから自由に羽を伸ばし、伸び伸びと現代人の心を織り込んで描いたところで血湧き肉踊る壮大なロマンを発生させてくれたようである。
 朱蒙と召西奴はこのドラマの主役であるが、歴史の中に名を残す人物でありながら現代ヒーローやヒロインの姿が
そこに二重投影されているのはいうまでもない。いや、ここで描かれるエピソードの大半は現代人の感受性に沿って用意されていると言っていいだろう。随所に出てくる男女の機微の場面はことごとくそうだといっていいだろう。
 20話過ぎあたりで朱蒙は自分がクムワ(金蛙)王の息子でないことを知る。自分の犯した罪とともにそれを当人に告げるのは夫余の神女ヨミウルだが、その後、朱蒙は悩んだ末、太子の後継者争いの辞意をクムワ(金蛙)王に伝え、配下のマリたちを伴って諸国の見聞視察に飛び出して行く。
 弟妹を連れ夫余を去ったプヨンの貧しくつつましい行動から、朱蒙は父ヘモス将軍の駆け回った地と朝鮮流民たちの現状に思いを向けるきっかけを得る。朱蒙とプヨンの二人は人間的に未熟な時期に出会い、男として女として共に苦労を重ねていく。人間としてほぼ成人に達した時、プヨンは去り、朱蒙は新たな地平に立った。二人にとっての人間形成期の終章である。
 まだ拙い若者だった頃の朱蒙を知るプヨンはこのステージから去った。しかし、去ったからとて別のステージに移っただけで、若い頃の朱蒙をどこかで語り継ぐ資格を有していることには違いない(僕は個人的に彼女には再登場してほしかったと思っている)。
 プヨンの存在を気にかけ、朱蒙に対し遠慮がちに振舞っていた召西奴がこの辺から表面に登場しだす。しかし、長丁場のヒロインだから、そうそういい場面を続かせるわけにはいかない。そこで朱蒙の辞意で太子の有力候補にのしあがった帯素の横槍が入りだすという仕掛けである(現代劇でもよくある。たとえば金持ちのボンボン(冷血インテリーでもいいが)がしゃしゃり出るって形で)。ここからまた召西奴の板ばさみの苦悩が始まるわけである。この波がドラマの魅力をいっそう引き立てていくことになる。
 この帯素がしゃしゃり出るまでのほんの一時、召西奴に至福の時間が訪れる。一大決心をし、苦悩の中から新しい道を切り開こうとする朱蒙は、自分はしばらく夫余を離れると伝えた後、生きる支えとして召西奴に意中を告白し、指輪を贈る。つつましい表現だが、要は求愛である(今で言えば、三年くらい外国に出張する年頃の青年が意中の人に待っていてほしいと指輪を贈るのと同じだ)。
 プヨンのために太子争いから降りたと思っていた召西奴にすれば、嫉妬に似た思いがひっくりかえって胸がいっぱいになる。朱蒙の厳しい決意を感じ、嬉しさが表情に追いついていかないほどだ。しかし、意中の告白は嬉しいが、太子の座を捨てた朱蒙の真意がどこにあるのかはわからない。嬉しいけれどモヤモヤのある心理状態をハン・ヘジン(召西奴)は上手く演じている。ペ・スビン(サヨン)が嬉しさとモヤモヤの心理状態にある召西奴の気持ちを問いただす場面などは(二人のかけあいが上手くて)秀逸である。
「何か言いたいことがあれば言ってみなさい。・・・朱蒙王子のことでしょう?」
「ええ。太子争いから降りたことを聞いたのでは?」
「何も聞いてないわ」
「でも、気になってるんでしょう。淡々と振舞っていてもわかりますよ」
「なってるわ。なってるけど仕方がない。朱蒙王子の身には、私の協力なんか意味がないほどの事態が起きているかもしれない。待つしかないわ」
「それ、指輪ですか?」
「関係ないでしょう、これは」
 朱蒙の帰りをただ待つしかない・・・帯素の出方も気にかかる・・・召西奴の嬉しさと心配が半々の心理状態を見事に浮かび上がらせた場面である。
blogram投票ボタン
名前:
コメント:

※文字化け等の原因になりますので顔文字の投稿はお控えください。

コメント利用規約に同意の上コメント投稿を行ってください。

 

※ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

  • Xでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

最新の画像もっと見る

最近の「韓国ドラマ「朱蒙」」カテゴリーもっと見る

最近の記事
バックナンバー
人気記事