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雨の記号(rain symbol)

風の絵師第19話から

 御真を破いたユンボクとホンドの二人に刑が言い渡される。
 キム・ホンド、画員剥奪。シン・ユンボク、斬首刑。キム・ホンドは王に直談判し、あの者に責任はない、責任のすべては自分にある、とユンボクの救済を願い出る。しかし、正当性復活の宿願はあの画工によって一瞬にして消え去ったと、王はにべもなくホンドの願いをはねつける。
 あきらめきれないホンドは、宮廷の門前で座り込みを始める。
「あの者を助けてください」
 王の苦しみもホンドと同じだった。しかし、王の立場からしか二人を処すことができなかった自分を悔いていた。
 座り込みを続けるホンドに宮廷から引き揚げる重臣らは、あの画工のために命でもかけるつもりか、と口々にからかう。
「命をかけるというのはどういうことか」
 長時間の座り込みで脚のしびれたホンドは、その脚を引きずるように立ち上がる。かがり火の前に立った。
「この手は画員にとって命よりも大切なもの」
 そう言って彼は右手をその中に押し込んだ。
「若い画工を助けてください!」
 愛弟子を救いたい一心の行為だった。重臣らの一様の驚きが彼らの倦怠さとホンドの信念の強さを好対照させて感動的だった。(第12話)
 
 処刑の前夜、ホンドはユンボクに面会する。ホンドは失意に暮れていた。すべての思いをチョンジェにぶつけたが、いい返事を得られなかった。御真を破棄したユンボクを救う手立てがないからだった。重臣らを納得させる大義名分がないからだった。
 二人は牢獄の外と内から抱き合い、今生の別れを悲しみあった。抱き合い、愁嘆する二人の姿には師弟を超えた愛情が通じ合っていた。(第13話)

 ホンドとユンボクを呼び寄せたチョンジェ(正祖)は、二人に辛い目に合わせたことをわびる。
 チョンジェ、ホンド、ユンボクの三人はそれぞれ、十年前のある事件によって心に深い傷を負っていた。しかし、御真騒動によって三人は相手を思う純な気持ちで互いの絆を深めた。立場上、身動きの取れない正祖は、ホンドとユンボクに自分に代わって思悼世子の睿真を探すよう命を出す。思悼世子復権のため、先王が信頼する最高絵師に命じて描かせた絵のことだった。しかし、その絵を描いた絵師は何者かの手で殺され、真相は闇に葬られたままとなっていた。
 10年前にはそのような画事は無かったはずだとホンドは言う。
 あったのだ、とチョンジェ(正祖)は断言した。事の真相を質そうとの強い思いでチョンジェも自分なりに調べ上げてきていたのだ。思悼世子がなくなったのは14年前、世子の復権に向けての作画だったが、これに関わった絵師らは変死を遂げた。絵はそのまま行方知れずになった。チョンジェ(正祖)の命は、その絵は必ずどこかにある、二人で手をつくし、探し出してくれ、というものだった。
 二人は絵の行方を追い始める。ここに何らかの手がかりがあるかもしれないと書画保管室に入って調べだした。そこでユンボクは、十年前、世子の復権に向けての作画に関わった絵師の一人イ・ウォルタンがソ・ジンなる人物であるとホンドから聞いて筆を床に落としてしまう。
(第14話)

 ユンボクはチャンヒョンの協力を得て、キーセン(妓生)に変装する。きれいで、初々しいキーセン(妓生)姿だった。
 チャン・ビョクチュ(別堤)の誕生祝の場は活況を呈していた。それは貞純大妃一派の威光を示すものでもあった。
 お祝いの席に乗り込んだユンボクの変装は、顔見知りらしいキーセンも見抜けないほどの変貌ぶりであった。
 一方、ホンドもめでたい席での踊りを生業とする舞踏集団の一人としてその席に乗り込んできたが、ユンボクに似たキーセンを見つけて不安をよぎらせる。
 チャン・ビョクチュ(別堤)はやってきたキーセン(妓生)らの中から、かわいいユンボクを選んで手元に呼び寄せるが、身近にいてもその娘がユンボクだとは気付かない。
 しかし、チャン・ビョクチュ(別堤)のそばにあって酔狂の相手をしているだけではらちもない。ユンボクは厠に行きたいと願い出て、行動に移る。その様子をそれとなくマークしていたのは、父ビョクス(別堤)と同じように面食いの血を引く息子ヒョウォンだった。彼は機会を得て彼女(ユンボクとは気付いていない)を拐かさんものと後をつける。人気の絶えたところでチャンスとばかり声をかける。女装してきた(?)ユンボクにとってこれは渡りに舟であった。どうしたら絵の保管室に紛れ込めるかが暗中模索の状態だったからだ。女を一目で気に入ったヒョウォンは、自分が将来を嘱望される画員であることの自慢話を始める。その粋がりぶりがおかしかったが、ユンボクは笑いをこらえた。
 ヒョウォンが自分に気付かず、自分への下心まるだしと見たユンボクは、精一杯の誘惑と媚でヒョウォンを逆用しにかかる。相手がその気なら、何も暴力に訴えるまでもない。気にいられるならこの女の願うことは何でも聞き入れてやろう。そう考えたヒョウォンは、五竹の最後の絵をユンボクに見せてやる。
 おりしもそこへやってきたホンドともども絵の入手に成功した二人だったが、脱出寸前で発覚し、追っ手をかけられる。大事な絵だけ握って家を逃げ出そうとするが、追っ手の追撃が急で二人は逃げ出せない。ついに二人は捕まってしまう。
(第15話)

 ホンドはここで一つの件を正祖に願い出る。一服の絵を携えてきていた。ここに顔のない絵がある。師匠とともに睿真製作に関わった親友が描いたもので、ここに親友の死の謎が隠されているのではないか。それをぜひに解き明かさせてほしいというのだった。
 その絵を見て、ユンボクは驚く。それは自分の記憶の中にも残っている絵だったからだ。
 正祖の許しを得たホンドはユンボクをしたがえ顔のない絵の謎の究明に乗り出す。
 ユンボクはホンドにその絵を描いた人物について訊ねる。その人物が自分の父であることを確信していたからだった。

 ユンボクの胸で広がりだす父との記憶。楽しくも忌まわしい記憶。
 障子張りの職人を見て、ユンボクはふと呟く。
「紅葉」
「何だ?」
「あの紅葉」
 紅葉の上に重なった障子紙。
 ホンドの親友、ユンボクの父、その人物の描いた絵にはなぜに顔がないのか。二人は方々を訪ね歩き、ある紙作りの作業所にたどり着く。そこの光景にユンボクは見覚えがあった。
 二人の前で謎は少しずつ具体性を見せ始める。
(第16話)

 液にはがされ、浮かび出てきた絵にユンボクは驚く。最後の目が表れた時、ユンボクは正視できずに気を失う。
 町医者のもとに運びこまれ、ユンボクは意識を取り戻す。意識を取り戻すなり、外へ駆け出していく。ユンボクが向かった先は、幼い頃、両親と過ごしていた粗末な家だった。そこにユンボクはたたずみ、歩き回りながら、両親との思い出に浸った。
 ホンドは町医者とともに、あっけにとられながら、駆け出していくユンボクを見守った。
「おたくの愛人だろう」町医者はホンドに向けていう。「やぶ医者でも、あの子が女であるくらいすぐわかる。――しかし、あの子はどうして男のなりをしているのだ?」
「男のなり?」
 そう言われて、ホンドは疑問の念にかられだす。
「なぜ?」「なぜ?」
 ホンドの脳裏にいろんな場面が戻ってき始める。ここでようやく自分の大きな過ちに気付く。
 町医者は一目でユンボクを女だと見抜いた。身近にいながらこれに気付かなかった自分の節穴ぶりを彼は悔いた(しかし、ホンドは町医者に言われたからユンボクが女であるのに気付いたわけではない。とうに気付き始めていたが、ユンボクが親友の娘ユンに思い至らなかった自分に悔いたのだ)。
 ユンボクのたどってきた運命の不憫さに親のように泣き暮れるホンド。シン・ハンピョンに向けた彼の怒りの半分は、早く見つけ出せなかった自責の怒りでもあったかもしれない。これからのユアの人生はユアのものだ、と吐き捨てるように言ってホンドはそこの屋敷を出る。
(第17話)

 自宅に引き揚げてきたジョニョンは、別堤の言っていた女装の話を思い出す。ユンボクの絵の解釈を思い起こし、そこでやっと思い至る。ユンボクは女人であった、と。
 そこでジョニョンはチョンヒャンを出しにして、ホンドとユンボクの画事対決を思いつく。
 ユンボクには「これを受けねばチョンヒャンを売りに出す」と脅し、「おたくの弟子である薫園は女だとの噂が立ち始めている。これを受けねば、噂はどんどん広がることになる」とホンドにも話を持ちかける。
 二人は画事対決を受け入れ、巷はこの噂で持ちきりになる。人気は沸騰し、賭けをするため長蛇の列ができる。
 しかしこの画事対決は二人を陥れるジョニョンの策謀。どちらが勝っても苦難が待ち構える。
「優れた師匠は優れた弟子を作り、優れた弟子は師匠を理解する」
 必ず勝て、自分も必ず勝つ。それしか生き残る道はない。
 ホンドのこの言葉の持つ意味は・・・?
(第18話)
 昨日の話である。夕方の五時からBSフジの「善徳女王」第28話を見た。そして夜遅くに、「風の絵師」18、19話を見た。それでたまたま類似の場面に遭遇し、何かひとつ大事なものを見つけたような気分にさせられた。
 実際問題として、今から挙げる場面の二つがどれほど似ているか、ということについては、見た人によって感想は違ってくるかもしれない。
 だが、僕は話の流れとして出てきたものは違うのだが、イメージとしてはそっくり同じものを感じた。
 となれば、制作年度の順序から言って、「風の絵師」で描かれた場面を善徳女王が参考にしたということになるのだが・・・その場面の二つは次のようなものである。

 風の絵師→第19話。この回では大行首ジョニョンのたくらみでホンドとユンボクの師弟画事対決が描かれる。くだんの場面はほとんどクライマックスあたりで登場する。二人の絵は互いにゆずらず票を取り合っていって、最後は同数で決着のつかない場面となる。そこで描き手同士の批評で勝ちを決めようではないかという話になる。先に登場したホンドは、ユンボクの描いた絵を朝鮮一の絵だと絶賛する。続いて出てきたユンボクも絵を見渡し、師匠ユンボクの絵を褒めそうになるが、手が逆になった人物絵を見つけ、口ごもる。誰の目にもわかる初歩的なミスだった。師匠の考えをいぶかりながら、ホンドの絵を褒めたのだったが、ユンボクの表情の異変に気付いたジョニョンは彼女の目線の先に、手が逆になった人物絵があることを知る。
 じつはこの場面、ユンボクの実直な気性を知るホンドの策略だった。嘘のつけないユンボクはホンドのミス絵を見て動揺する。それをジョニョンがきっととがめに出てくるだろう、との読みがあったようなのだ。

 次に善徳女王→28話。トンマン王女の命を受けたユシンが書簡を渡したあとの場面で発生する。嘘のつけない実直な気性のユシンはミシルに書簡を渡した際、トンマンに言われた通り、相手の目を見てしっかりやりとりしようとするが、不器用な応接をしてしまい、嘘を見破られてしまう。しかしじつは、トンマンがユシンの気性を承知し、嘘を見抜かれるとわかったうえでミシルのもとへ差し向けたわけだった。

 この二つの場面。文章で書くと伝わらないかもしれないが、実際の場面にあたった方が何となく似ている感じを受けるかもしれない。

 19話の本題に入る。

 ジョニョンのたくらみにはまり、ホンドとユンボクは画事対決せざるを得なくなった。
 ホンドはユンボク、ユンボクはチョンヒャン・・・共に弱みを衝かれたからだった。
 ホンドは勝っても負けても図画署の絵師としての自分はないと覚悟を決めた。しかし、それより心配なのは、親友の娘、ユン(ユンボク)であった。ユンの幸せを願うホンドは、何としてもジョニョンのもとから彼女を自由にしてやらねばと考えていた。
 
 ホンドはユンボクに言った。
「すぐれた師匠はすぐれた弟子をつくり、すぐれた弟子はその師匠を理解する。またすぐれた弟子は師匠を超える。必ず自分に勝て」
 続けて言った。
「そして、自分も必ずお前に勝つ」
 さらに念を押して言った。
「自分のこの言葉を絶対忘れてはならない」
 これは、いかに悪い人間に乗せられた画事対決であっても、いかなる理由によっても、絵を描くのに手を抜くことだけは絶対してはならない、との師匠としての教えだったのだろう。

 
 ジョニョンの屋敷にはユンボクとホンドの絵の対決を見極めようと図画署の生徒たちや職人たちが、市中でも人々が集まり、ユンボクとホンドの対決の行方を固唾を呑んで見守った。
 ジョニョンから出された画題は「争闘」と発表された。 
 ホンドとユンボクはそれぞれ絵を描くために市中へ出かけた。
 王と王太妃もどちらが勝つか賭けをする。王太妃は負けた方が宮廷を去るのはどうかという。
 ホンドとユンボクは絵を画いて屋敷へ戻ってくる。
 やがて絵の投票が始まる。勝負の決着は日没までとされた。
 絵の投票の推移は一進一退を繰り返す。投票が終わった時、二人の票は同数だった。
 そこで、互いの絵を評価することで勝ち負けを決めようとなった。
 先に登場したホンドはユンボクの絵を朝鮮一だと誉めそやす。
 ユンボクもホンドの絵を見てほめようとするが、手の形が逆に描かれた人物を見つけて一瞬ためらう。ホンドを見るが、ホンドの表情は落ち着いている。自分も必ずお前に勝つ、との言葉を思い起こし、その絵を誉める。しかし、ユンボクを観察していたジョニョンは、ユンボクが見せた戸惑いの原因が手の形を逆に描いた人物にあることを見つけてしまう。ジョニョンは致命的な欠点としてそこを指摘した。しかし、それこそホンドが待っていたことだった。評者は誰もが信じられない顔をした。そして、そのようなミスをしたのではだめだろう、との声が挙がる。評者が相談しあった結果、最後に「通」をホンドに出した戸曹判書キム・ミョンミンの票が取り下げられる。
 しかし、ホンドは、まだ勝負をつける時ではないと敗北を認めようとしない。評者たちは、往生際が悪いぞ、と口々に声をそろえ、騒ぎがかしましくなった頃、ホンドは頃合とばかり、夕日をとりこめる西側の襖を開けた。すると部屋に金色の西日が射してきて、ホンドの描いた草相撲の姿を輝かしだした。夕日がその部屋を照らすことまでも計算しつくしたホンドの絵はその場の者たちに草相撲の圧倒的なリアリティーをもたらしたのだった。
 戸曹判書キム・ミョンミンが一度取り下げた「通」をそこに戻した時、日はくれようとしていた。
 この絵についてもう少し時間をくれとジョニョンはいうが、日没までの約束で始まった品評会、これ以上の議論はないと評者たちは突っぱねたのだった。
 すると、この賭けに注目していた市中の人々の不満や怒りは収まらなくなって・・・ジョニョンの威信はこれで完全に失われたのだった。
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