韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(116)
ウンジュは続けた。
「いつ来たの? 中に入ればいいのに」
ヨンオクは厚ぼったいマスクをしている。
「外出しても大丈夫なの?」
ウンジュのところに院長はやってきた。
「あら、お母さんいらしたのね」
ヨンオクは頭を下げた。
「もう出られるなんてよかったわ。でも、マスクはまだ必要なのね」
「ええ、しばらくは」
「暑いのにね。でも困ったわ。冷たい物でも出したいのですが、これからウンジュと出かけるんです。今日、ショーのリハーサルがあるんです」
「お構いなく。連絡すべきでした。帰りますから行ってください」
母親が何でやってきたのかウンジュは気になった。
しかし、それはそれで言った。
「私がタクシーをつかまえてあげるわ」
当直日誌でキジョンはジェヒを厳しく指導する。
ジェヒは訊ねた。
「奥様が退院しましたね。御身体の具合は如何です?」
「問題ないし、経過も良好だ――まだクムスンと交際を?」
「はい」
「クムスンの方はどうだ?」
「今日から働けるほど元気です」
「よかった」
ジェヒが出て行こうとした時、キジョンは呼び止める。
「余計な心配だろうが――彼女と交際しても大丈夫か?」
「・・・」
「分からんのか? ウンジュが絡んでるだろ」
「・・・はい。大丈夫です」
「そうか。なら、戻れ」
ジェヒはクムスンに電話した。
「俺だ。仕事が終わったよ。今から美容室に向かうよ。ああ、練習してろ」
ジェヒは美容室にやってきた。
クムスンの毛染めの練習などを見て時間をつぶし始める。
「いいから、気にするな」
「気になりますよ」
ジェヒは言った。
「それ、人間の髪でやりたいだろ?」
「もちろん。それが夢ですからね」
「俺が実験台になってやるよ」
クムスンは、それはありがたい、との表情になる。しかし、すぐ首を振る。
「下手だからダメです」
「平気さ。何本かだけでも。失敗したら洗うさ。少しでも役に立ちたいんだ」
「ダメよ。染めちゃって失敗したら・・・」
「失敗しないようにやれよ。こっちもブリーチを考えてたんだ」
「ほんとに? それじゃ2本だけ」
ジェヒは笑った。
「いや、3本でもいいよ」
「では先にシャンプーを」
場所をかえシャンプーの準備は整う。
「横になって」
シートが後ろに倒れる。
「大丈夫ですか?」
「おお」
「では、洗います」
ジェヒは下からクムスンの顔を見た。
「ここから見ると変な顔してるよな」
「・・・」
「睫毛が長くて人形みたい」
自分をセクシーに見られてるようで、クムスンはやはり何もいえない。
「あっ!」ジェヒはまた声を出す。「鼻毛が見える。1、2・・・すごく長いのが」
からかいには怒りがわく。
クムスンはお湯をかけた。ジェヒは悲鳴をあげる。
「おとなしくして。顔にかけますよ」
「わかった。乱暴なヤツだな」
おとなしくなったジェヒは身近にクムスンを感じだす。彼女が近しい存在なのを改めて感じる。表情からジェヒの気持ちを読んでクムスンも緊張した。
「すすぎます」
ジェヒは何も言わない。
「ちょっと待っててください」
クムスンがタオルを手にする間にジェヒは椅子から出た。クムスンの前に真顔でたちはだかる。クムスンは横にすりぬけようとするがそれもさせない。
「どうしたんです?」
ジェヒは黙ってクムスンに迫っていく。クムスンが下がるとさらに迫る。
「あっちへ行って。大声出しますよ」
ジェヒは片手を壁に当てた。
「ここ二は誰もいないぞ」
もう一方の手も壁にあて、クムスンの顔を両側からはさむ。
「キスするぞ」
「・・・ダメです。離れて」
「する。いいな」
クムスンは顔を曇らせる。
「ダメです」
「なぜだ?」
「・・・」
ジェヒは口を近づける。
クムスンは顔を背ける。
この時、出入り口の方で物音がした。続いて誰かの気配がする。クムスンは慌ててジェヒから離れた。
フロアに出ていく。クムスンは足を止めた。店に入ってきたのはウンジュだった。
「誰かと思ったらクムスンさんだったのね。だけど、どうしてジェヒさんがここに?」
「ああ・・・母さんを迎えにきたんだ」
「頭を洗ってもらったわけ?」
「頼んだんだ」
「涼しそうだわ。彼女は上手だものね。うちで一番。常連からも評判よ」
「・・・」
「でも、こんな時間まで残ってたのね。練習するのもいいけど、許可なく残っちゃダメよ。知ってるでしょ?」
「はい。今、帰るところでした」
「そう。なら早く帰って」
一礼し、クムスンはロッカールームに引き下がった。
「よかったわ。運んでほしい物があったの。2階からおろしてもらえる?」
「・・・」
「院長の物なのよ。持って帰ったらきっと喜ばれるはず」
「分かった」
クムスンが帰りの支度して出てくると、ジェヒはウンジュに荷物を持たされていた。
「では失礼します」
「また明日」
ジェヒもクムスンに声をかける。
「じゃあ」
「はい」
「気をつけて」
ウンジュはジェヒを見た。
ジェヒは黙って口をうごかす。
「デンワスル」
それを見てウンジュは呆れた。
ジェヒはウンジュを自宅まで送った。
「ありがとう、ジェヒさん」
ウンジュは笑顔で礼を言ったが、不機嫌そうに車から降り立った。ジェヒの車が走り去るまで家には入っていかない。
走り去ったジェヒに憎悪の目を送ってウンジュはつぶやいた。
「あなたって人は!」
お手伝いさんを下がらせ、キジョンとヨンオクは夕食を取ろうとしている。
「クムスンの話をしなきゃいけないわ」
「・・・」
「ウンジュたちにも話をしないと・・・いいわね」
「手術前にクムスンから頼まれてるんだ。当面、ウンジュたちには言わないようにと」
「それが理由? いい口実だわ」
「お前、何を・・・そうじゃないんだ。腎臓までくれた人を娘たちに隠したいわけない」
「ウンジュとウンジンと院長にも知らせるわ。クムスンは美容院で働いてるんだし」
家に入ってきたウンジュは両親が深刻そうに話しているので声をかけそびれる。
二人はウンジュに気付かない。
「ジェヒから伝わったかも。ジェヒはみんな知ってるから」
ウンジュは怪訝そうにした。
「彼も事実を?」
「知ってる」
「ならウンジュとウンジンに話すだけね」
「ウンジンには少し考えよう。ウンジュは大人だが、ウンジンはまだ幼い。この事実をうけいれられないかも」
ヨンオクは疑うようにキジョンを見る。
「やっぱりクムスンの頼みとは関係なく――それが理由でしょ」
「ああ、心配なのさ。それは事実だ。母親に他の娘がいると知るんだぞ。しかも、その人が腎臓をくれたなんて――幼心に耐えられると思うか? お前だって心配になるだろ」
「・・・」
「だが、隠す気はない。クムスンの頼みなんだ。今の美容師さんに教わりたいから――今年いっぱいはウンジュに黙っててほしいといわれたんだ」
キジョンの話で、ウンジュも一連の出来事の一部始終を理解した。
キジョンを見つめていて、ふと、ヨンオクはウンジュが帰ってきてるのに気付いた。
「ウンジュ・・・」
ウンジュは食堂に入ってきた。
「何ですって――どういうこと? 誰が娘だって?」
「・・・」
ウンジュはヨンオクを見た。
「誰が腎臓をくれたの?」
ヨンオクは答えることができない。
「ウンジュ。とりあえず座って話をききなさい」
「その前に聞かせて。誰なのか答えて」
キジョンはヨンオクを見た。
「クムスンさんだ。美容院のナ・クムスン」
ウンジュは泣き出す。
「ありえない・・・」
「ウンジュ、ごめんね。私が話すから座って」
「なぜ、こんなことが・・・”ごめん”?」
ウンジュは金切り声をあげた。
「謝ったくらいですむ問題?」
ウンジュは食堂を出ていった。
ヨンオクは立ち上がってウンジュを追いかける。
しかし、ウンジュは外へ飛び出していった。
門の外に出たウンジュはヨンオクやキジョンに言っていた言葉を思い返した。
――院長にも知らせるわ。クムスンは美容院で働いてるんだから。
――ジェヒから伝わったかも。
――彼も事実を?
クムスンの携帯が鳴る。クムスンは部屋にいた。
ジェヒからのメールだった。
――電話にでないな。気分を害したか? 心配してるんだ。早く電話をしてくれ。
クムスンはメールを返した。
――ええ。怒ってるわ。副院長ではなく、シャンプー時の痴漢に。もう洗ってあげない。怒った白菜より。
クムスンのメールを読んでいたジェヒにミジャから食事の声がかかった。
ジェヒは食堂に行く。
「寂しい食卓になると思いきや、帰ってきたのね」
「こんな時間なのになぜ食べてなかったの?」
「暑いせいか食欲がなくて・・・私はいよいよ、お茶碗に話し始めたのよ」
ジェヒは吹き出す。
「そんなにウンジュが嫌ならお見合いしたら?」
「母さん――また始まったな」
「何なのよ、この親不孝者。寂しくて仕方がないのよ」
「・・・」
「それに国家の発展にくわえ、民族の繁栄という意味で――若者が早く結婚して子供をいっぱい作るべきなの」
「そうだな・・・俺の優れた遺伝子を広めれば――人類は進歩し、レベルアップする」
「人類の進歩とレベルアップ? まあ、そういうことにして・・・」
「それより・・・母さんが再婚した方が早いと思うんだけど」
「何ですって? まったくこの子は・・・」
「はっははは。早く食べなよ」
この時、携帯が鳴ったようだった。ジェヒは急いで部屋に戻った。
クムスンからと思いきや、電話の相手はウンジュだった。
ジェヒは表に出た。ウンジュが来て立っていた。
「どうした? 用事でも?」
ウンジュはジェヒを怖い目で睨みつけた。
(ク・ジェヒ。私は眼中にもないの? 私に話すべきでしょ」
「ウンジ」
いきなりウンジュの平手打ちが飛んできた。
「おい!」
ウンジュは黙ったままジェヒを睨みつける。
(見てなさい。あなたをモノにできないなら、彼女にもやらない)
「どうしたんだ? 理由ぐらい言え」
「理由? 私と別れる時、ぶたれなかったでしょ」
「ウンジュ」
「何かしらね・・・? 考えてみて」
ウンジュはそう言って立ち去った。
クムスンは毛染めの練習を続けている。携帯が鳴った。
クムスンはやむなくジェヒに会いに家を出た。
ジェヒはいつものベンチで待っている。
「意外と早かったな。座って」
クムスンはベンチの端に腰をおろす。ジェヒはそれを見て笑う。
「白菜・・・何もしないから近くに座れ」
「いいからそこで話してください。何なんですか」
「誓うよ。何もしない。この瞬間だけは――絶対、痴漢にならないから近くに座れよ」
「なら、俺が行くぞ」
「俺が行くとなれば変わるかもしれん」
「・・・」
「なあ白菜・・・」
ジェヒは甘えた声になる。
クムスンは笑う。言われた通りに座る。
「何か問題でも?」
「そう見える?」
「少し・・・」
「そうなんだ」
「何です」
「いつもお前に会いたくなる――嬉しい時も、気がふさいだ時も・・・突然、頬を叩かれても・・・」
「頬を叩かれたの?」
ジェヒは笑って首を横に振る。
「違うよ」
「驚いたわ・・・」
ジェヒはクムスンをじっと見た。
「クムスナ―ッ」
クムスンは思わずジェヒを見つめ返す。
ジェヒはもう一度呼びかける。
「クムスナ―ッ」
「・・・」
「いい名前だ。ちっとも気まずくない。いい感じだ」
「・・・」
「クムスナ―ッ。今まで・・・どこに隠れてたんだ?」
ジェヒの言葉にクムスンは胸が震えた。今まで男の人にこんな言葉をかけられたことはなかった。
クムスンは帰り道をジェヒと一緒に歩いた。歩いてる時、ジェヒはクムスンの手を握ってきた。クムスンは戸惑ってジェヒを見た。ジェヒの表情はほころんでいる。
家の近くでもあるし、クムスンは他人の目が気になった。何とか手をほどこうとした。しかしジェヒは握った手を離さない。
クムスンは手を解くのをあきらめた。あきらめてジェヒと手をつないだまま歩いた。
円卓の前にはピルトとフィソンだけが座っている。そこにジョンシムがスイカを切って運んでくる。円卓の上にお盆を置く。
「今年はスイカが安いのよ」
テワンを呼ぶ。テワンは階段をおりてきた。
「ビデオを借りてくるから」
「クムスンは?」とスイカを食べだしながらピルト。
「練習中に消えたわ」
「そうか。テワンの件をどう思う?」
「どうって?」
「相手は姻戚だろ。知らんぷりしてていいのか」
「だって何もなかったんでしょ。テワンが言ってたじゃない」
「・・・」
「問題ないわ。あの否定の仕方は嘘なんか言ってない」
「その相手だが、どんな娘か分かるか?」
「よく知らないわ。フィソンを預ける時、何度か見ただけよ。何か誠実そうな感じだった。教育大を出て、国家試験を受けるとか」
「そうか。なら、過分な相手じゃないか」
「いったい、何を言い出してるのよ」
「テワンは結婚させなきゃ一人前にならない」
「あなた、暑さで気が変になった?」
クムスンが帰ってきた。
「黙ってどこへ行ってたの?」
ちょっと困ったようにしてクムスンは答える。
「少し息抜きに」
「黙って出たら心配になるわよ」
「心配するから、今後はちゃんと言って出ろ。さあ、座れ。スイカが甘いぞ」
「はい。手を洗ってきます」
クムスンが手洗いに消えるとジョンシムは言った。
「あなた、さっきの話はとんでもないわよ」
「・・・」
ジェヒに会ってきたのに義父母には嘘をついた。本当のことが言えなかった。トイレに入ったクムスンは良心の呵責に苛まれた。
クマはスンジャの説教を受けていた。
「なぜ? なぜダメなの?」
「当然よ」
「フィソンの伯父だから?」
「そんなことより、あの人は職もないのよ」
「ママ。テワンさんは、きちんと会社に所属して頑張ってるんだから」
「そうだよ。クムスンも言ってたけど、そんな話だったと思うわ」
ジョムスンも脇からクマに加勢した。
スンジャが睨みつけたのでジョムスンは少しひるんだ。
「でも稼ぎは少ないでしょうね。だから、クマも母さんの言うことを聞きなさい。姻戚なんだから」
「おばあちゃん――最近は重縁なんてザラだし・・・クムスンは従姉妹であって、姉妹じゃないわ」
「この子は何てこというの」
「許しを得るため、私は正直に話したのに――こんなんじゃ後悔しちゃうわ。納得できないのよ」
スンジャは声を張り上げた。
「ダメと言ったらダメなの!」
「・・・」
「いい? 私から学びなさい。なぜ、そんなに頭が悪いのよ。出来のいい男を捜すの。未来と希望のある人よ。私を見て思うでしょ」
「ママ、彼はいい俳優になる。必ずよ」
「クマ。まだ言わせる気なの? 頭を坊主にするわよ」
「・・・」
「いいわね。もう二度と会ったらダメよ。部屋に戻って」
クマは立ち上がろうとせず言った。
「この前の話は嘘よ」
「・・・!」
「私、テワンさんと関係を持ったわ」
クマの言葉に感電してスンジャはしばらく動かない。口も動かない」
「水でもあげようか?」とジョムスン。
スンジャは声を震わせた。
「ええ、ください」
コップに入った水を飲んでいるところにサンドが帰ってきた。
「ただいま」
「お帰り」
「パパ、お帰り」
「部屋に戻りなさい」とスンジャ。
サンドは怪訝そうにスンジャたちを見た。
フィソンの眠りとしばし戯れてから、クムスンは眠りの体勢に入った。天井を見つめるとさっき会ったばかりのジェヒの言葉が脳内に流れ込んできた。
――クムスナーっ! 名前もいいな。ちっとも気まずくない。
歩く時には手も握られた。
その時、恥ずかしかったことも笑みとなって戻ってくる。忘れかけていた青春が駆け足で戻ってくる。クムスンは甘酸っぱい気分が全身に行き渡るのを覚えていた。
クムスンは寝返りを打った。フィソンに背を向けて眠りに入った。
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