韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(50)
二人は立派なレストランに落ち着いた。
ジェヒはすかさずメニューを広げた。クムスンもメニューを手にする。
中を見て目が飛び出しそうになる。
「何にする?」
クムスンはためらう。
「きのこスープを」
「あとは?」
「それだけでいいです」
ジェヒはクムスンを見る。
「お腹すいてないので」
「少しは食べろよ」
「けっこうです」
ジェヒはメニューを閉じた。
「じゃあ、俺もきのこスープをください」
「遠慮しないで食べてくださいよ」
「君が見てる前で一人で食べろと? 一人で食べるのは嫌なんだ。だからもっと食べろよ」
クムスンはやむなくジェヒの言葉を受け入れた。
満足そうにジェヒは言う。
「うまいのを食べろよ」
クムスンが遠慮がちにパンを頼むと、ジェヒは苛立った声とともに広げたメニューをウエイトレスの前に突き出す。
「これを二人前」
クムスンは運ばれてきたパンをナイフで切って食べた。ジェヒはそれを黙って眺めている。
「なぜ一人が嫌なの?」
「母が仕事に出てて常に1人で食べてたからさ」
「ご家族は?」
「いない。2人だけだ」
頷いているクムスンにジェヒは言う。
「パンは・・・ちぎって食べるんだ」
「そうなの?」
クムスンはパンを手で食べ始める。
「この方が楽でいいわ」
「・・・」
「嫌になるはずよ。私もです。いつも祖母が市場で働いてたので――食事はいつも1人でした」
「両親はいないの?」
「はい」
「母親がいるって」
「私が? いつ言いました? 言ってませんけど」
「じゃあ、ほんとにおばあさんと2人?」
パンを食べながらクムスンは頷く。
「あなたも院長様と2人?」
「ああ」
「寂しかったでしょうね。特に学校から帰ってきて――自分で門を開ける時。すごく寂しい。でしょ?」
「いや。家政婦がいたから」
一瞬、つまらなそうにしたクムスンだが、すぐ別の記憶が蘇った。
「昼寝をしてて日が暮れかけた時がすごく寂しかったわ。何も見えないのに誰もいないから――怖くて泣いたりしました。あなたはそんなことなかった?」
「別に」
ジェヒは飲み物を一口飲んで言った。
「そんな時は人生と孤独を考えた」
「偉そうだったからイジメられたでしょ?」
「人間性ぐらい悪くなきゃ困るだろ。完璧すぎると人に喪失感を与えるから」
「何のことです?」
「簡単にいうと――優れてる人に腹を立てて憎むのが人間だ」
「意味はわかるけど、も少し簡単に話していただけないかな・・・」
ジェヒは少しムカッときた。
「個人的な質問だけど、最終学歴は?」
「高校卒業ですけど、それが何か?」
「なら・・・今、何歳なんだ?」
「23歳です」
「そうか。意外と若いな」
「どういう意味?」
「今日は白菜じゃないな」ジェヒはパンに手を伸ばした。「かわいい」
クムスンは目をぱちくりさせる。
ジェヒはパンを口に持っていきながら説明した。
「髪がだよ」
クムスンは照れるでもなく訊ねた。
「医大に入るためにどれだけ勉強を? したでしょう?」
「かなりしたよ」
「私は勉強となると・・・すぐ寝てしまう」
「俺も同じさ」
「だったら、何か秘訣でも?」
ジェヒはグラスを置いて言った。
「頭が良すぎるから一度で覚えちゃう。仕方ないだろう」
クムスンは白けた顔になった。それを見てジェヒはおかしそうにした。
オ・ミジャはウンジュと食事を共にした。
「ちょうど話があったのよ。結婚のことだけど、どうなの?」
「・・・」
「ジェヒは否定してるのに――お母様は、2人の間で話が進んでるとかいうし」
「決定権を持つ彼にその気がないみたいです」
ミジャは呆れた。
「交際しといて何てことを」
「そうですよね。好きだとは思いますよ。嫌いだったら断られてたはずです」
「そうね。ジェヒはそんなに軽い男じゃないから。私が保証する」
「だから待ってるんです。ジェヒさんは風と同じです。つかもうとしても逃げられるので――道を塞ぎます。私の方へ吹いてくるまで」
「・・・」
「きっと来ます」
ウンジュは買い物袋を取り出した。
「これ、院長からのプレゼントとして渡してください」
クムスンとジェヒは食事をすませてレストランを出た。
クムスンはジェヒに食事のお礼を言った。
「ああ。これから、どこへ行く?」
「さっき、言ったでしょ。練習しに美容院へ行くんです。あまり時間はないんだけど・・・あなたは?」
「家に」
クムスンは頷く。
エレベーターが来た。
二人は乗り込んだ。
クムスンと並んで乗ったジェヒはひどく緊張している。クムスンはそうじゃない。ただ、平常心で乗っている。ジェヒが楽しそうにすると笑顔を返す。クムスンはふだんから笑顔の人が大好きなのだ。
クムスンと笑顔を交わしあったジェヒは、そんな自分がふだんのクールな自分でないのに気付いた。クムスンのそばで胸の高鳴っている自分に戸惑いを感じるばかりだった。
エレベーターが止まった。ドアが開き、若いカップルが乗り込んでくる。
ドアが閉まるなり、カップルは顔を寄せ合い、なれなれしくキスなどを始めた。クムスンは呆気に取られた。ジェヒを見ると彼の目は二人の行為に吸い寄せられている。
二人は見て見ぬ振りを続けるしかなかった。
カップルはエレベーターをおりてさっさと消える。彼らを見送り、クムスンとジェヒは愉快さと可笑しさをしばし共有しあった。
この時、ジェヒの携帯が鳴った。
「はい、母さん。今から帰るところさ。どこ?」
クムスンは気を遣ってそばを離れた。電話をすませて出てきたジェヒにクムスンは言った。
「それでは失礼します。デジカメですけど、明日何時頃うかがえばよろしいですか?」
「当直だからいつでもいいよ」
シワンとソンランはお互いの気持ちを確かめ合った。
ソンランはシワンの強い愛情に従う気持ちをかためていた。
ノ家でソンランの評価は、靴ひもの話をするジョンシムを中心にうなぎのぼりだった。
ジョンシムがソンランを誉めるたび、クムスンの表情は翳りをおびていく。
ピルトはテワンを屋根裏の部屋に行かせるため、切り出した。
「明日な、屋根裏にあがってあの部屋が使えるか確認しろ」
「屋根裏? なぜ?」
「シワンが結婚したらお前の部屋を空けないと」
「俺に屋根裏部屋に移れと?」
「そうだが、それとも俺たちが移らなきゃダメか?」
「あなた、シワンを同居させるつもり?」
「我が家の原則だろ。最初は同居して家風に慣れることだ」
ヨンオクは眠れない。
ジョムスンのことが頭から離れないせいだった。
たまりかねて身を起こす。
「何言い出すの。人違いだよ!」
ジョムスンの言葉を思い起こし、床にうずくまる。声を出してすすり泣き始める。
ジョムスンも病院でのヨンオクの姿が頭に焼きついて離れない。
「お義母さま、待って!」
スンジャはクマの話を聞こうとしない。
スンジャが帰ってきてジョムスンは寝床から身体を起こした。
スンジャに、今日、病院で誰かに会わなかったか、と訊ねた。
「誰のこと?」
「・・・」
「誰よ?」
「昼間、病院に・・・あの女と会った」
「誰のことよ」
「私の息子を殺した女よ」
スンジャはジョムスンの前に座った。
「クムスンの母親?」
「やめなさい」
「もっと詳しく聞かせてください」
「思い出しただけで、心臓がバクバクする。クムスンが会計してる間、トイレに行こうと――歩いてたら、目の前に立ってた。じっと見ながら」
「気付いたんですね。どんな身なりでした?」
「お金持ちの奥様みたいだった。裕福そうな服を着ていたからね。まったく、何て恥知らずなんでしょうか? 私のことを”お義母さん”だなんて・・・」
「ほかに呼びようがないでしょ」
ジョムスンはスンジェに釘をさした。
「いい? どこであの人に会おうと知らない振りをして。わかったわね、頼んだわよ――会話をせず、顔を合わせてもダメ」
キジョンが病室に顔を出すとヨンオクがいない。
ヨンオクは家に帰ったのだった。
キジョンからヨンオクに電話が入った。
家に帰りたかったから、とヨンオクは答える。
キジョンは声を荒げる。
「帰るなら、そう言って帰れよ。動いていいような状態じゃないんだぞ。・・・分かってないから倒れたりするんじゃないか」
「ええ、ごめんなさい。休みたいから切るわね」
電話を切った後、ヨンオクは部屋に入った。タンスの引き出しから大事な木箱を取り出した。
箱をあけ、布包みを取り出す。中から女児の写真が出てきた。写真を手指で撫で付けながらヨンオクはすすり泣いた。
「私の娘・・・クムスン・・・クムスナーっ!」
クムスンは足を止めた。義父母の部屋に飲み物を持って入ろうとしたら、中で話すジョンシムの声が聞こえてきたからだ。
「部屋がないし、嫁を2人も抱えたくないわ」
「テワンを屋根裏に移せばいいさ。だったら、クムスンを追い出せというのか?」
「誰がそんなことを・・・行く当てのない彼女を追い出せるわけないじゃない。だから、シワンたちを別居させよう」
クムスンは部屋に入りそびれて飲み物を元の場所に戻した。
ウンジュが買った上着姿のジェヒを見てミジャは嬉しそうにした。
「よく似合うわ。息子だけど、ほれちゃいそう。私の人生最高の作品よ」
「照れくさいな」
「・・・」
「着てみるよ。今日はこれででかけよう」
「そうよ。ウンジュに会いなさい。買ってくれたのよ」
「・・・母さんじゃなくて?」
「違うわ。私が買ったことにしてくれっていうの。あの娘が哀れで黙ってられなかった」
ジェヒはいきなり上着を脱いだ。
「どうする気よ」
「返しといて。ウンジュは俺に金を使いすぎだ。俺は何もあげてないのに」
「ウンジュもそう言ってた。一方的だからプライドが傷つくと。だからその分やさしくしてあげなきゃ」
「・・・」
「答えなさい。ウンジュが嫌いなの? だから断ったの? はっきりしなさい」
「別に」
「違うでしょ。なら、なぜ結婚を断るのよ」
「結婚する気がないと言ってるだろ」
ジェヒの毅然とした態度にミジャは混乱した。
ウンジュはジェヒから電話を受けて喜んだ。
「ウンジュですけど、どなた?」
「ふざけないで。暇か? 一緒に昼飯でもどうだ」
「いや、どうせなら夕食がいい。・・・当直なの? なら昼食でいいわ。12時半ね」
話をすませた後、ウンジュは携帯を抱きしめた。
「ジェヒさん、やっと電話くれたわ」
ウンジュがやってくるのを待つジェヒの表情は晴れない。ただ、憂うつなだけだ。
ウンジュが現れた。
「覚悟を決めてたの」
「・・・」
「今回は――私からは連絡しないとね。2日後だから満足してるわ」
ジェヒは黙ってコーヒーを飲む。
「連絡が来なかったらどうしようかと思った」
「・・・」
「ありがとう、ジェヒさん。ウンジュは幸せよ」
「・・・」
「昨日、院長に会ったのよ」
「ああ、聞いた。ウンジュ」
ウンジュは怪訝そうにする。
「何?」
ジェヒはウンジュをまっすぐ見て切り出した。
「俺には好きな人がいる」
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