雨の記号(rain symbol)

マッスルガール第9話(2)

マッスルガール第9話(2)


 スカル杏子に因果を含めて郷原はその場を離れた。
 彼女に残されたのは決断を下す時間と実行だった。

「みんな集まって」
 梓はメンバーを呼び集めた。
 メンバーは練習をやめ、梓の方を注目した。
「マッスルガールカップのエントリーシートが届いた」
「うわーっ、待ってました」
 メンバーは次々練習リングからおりてくる。
「マッスルガールカップ・・・各団体からの代表選手ひとりがワンディートーナメント戦を行い、今年の最強女子プロレス団体の座を競う。うちの代表は」
 向日葵、つかさ、薫の三人は舞の方を見やった。


「舞!」
「はい。白鳥の名前に恥じない戦いにします」
 他のメンバーは舞のもとに集った。口々に彼女を励ました。
「舞さん、優勝してください!」
「ファイト!」
「頑張ってくださいね!」
「頼むよ、舞」
「はい。絶対、負けない!」
 梓は笑顔になった。
「あんたの絶対は何か頼もしい」
 舞ははにかみ加減で笑顔を返す。
「よし。練習、再開!」
 リングに戻った舞らはさらに力を入れて練習に励んだ。

 ジホの付きっ切りの看病は続いていた。
 そこへ梓が現れた。
「お母さんの具合、どう?」
「ああ・・・ずいぶん、熱は下がりました」
「そうかーっ、よかった」
 梓は紙バッグを差し出した。
「着替え持って来た」
「ありがとうございます」
 着替えをおいてジホは訊ねた。
「みなさんはどうですか?」
「張り切って練習してるよ」
 それを聞いて、ジホは嬉しそうにした。
「梓さん・・・ありがとうございます」
 二人は見つめあった。


 目が合うと、梓はためらってしまう。ジホへの気持ちを隠しきれない自分を感じる。だから、ジホあらたまられるとドキドキしてしまう。
「お母さんのために・・・いま、できることをしてあげて、と、梓さんは言ってくれました」
「・・・」
「お母さんが病気だと知って、やっぱり・・・すごくショックでした」
「・・・」
「でも、梓さんの言葉で安心できました。梓さんは・・・僕が不安な時、必ず助けてくれます」
「それは・・・だって、家族でしょう?」


 ジホは笑顔になった。
「はい」

 舞は練習を終えた後、足腰強化でロードワークに出た。
 しかし、彼女の後ろには怪しい目が光っている。オートバイにまたがって舞を狙うスナイパーはスカル杏子だった。
 彼女は郷原の「ぬかるなよ」の言葉を実現しようとしていた。
 オートバイはスピードを上げて走り出す。


 舞は足を止める。背後から近づくものが気になって、振り返る。はっとした時はもう遅かった。
 爆走してくるオートバイは彼女の目前にあった。
 オートバイは彼女をはねてすばやく逃げ去った。


 オートバイにはねられ、路上にはいつくばった舞は懸命に起き上がろうとしたが、この時、右膝に激しい痛みを感じて顔を歪めた。

 みなの前に顔を出した梓はそこに舞がいないのに気付いた。
「あれっ? 舞は?」
「まだ、ロードワークから帰ってきてないですよ」とつかさ。
「ごはん食べながら対戦相手の資料見たいっていうから、せっかくテイクアウトしてきたのに・・・」と薫。
「冷めてまうで」と向日葵。
 そこへ舞の声がした。
「ごめん」
 手をあげて明るい顔の彼女だが、何やら怪我をしているようだ。
 みなの顔色が変わった。
「舞さん・・・」
「舞さん!?」
 梓はあわてて駆け寄った。
「どうしたの?」
「川原で受身の練習」
「ええっ?」
「やあ、ちょっと張り切り過ぎちゃってさ・・・まいったな・・・!」
 舞はみなの前で頭をかく。
「よし、練習いくよ」
 ことさら明るく振舞う舞に梓はいぶかしい目を向けた。
 そして、薫らを相手に練習を再開した舞だったが、その動きはおかしい。右足に異変が生じているのを梓は感じ取った。

 夜が明けた。
 朝の挨拶をしながらキッチンに入ってきた三人に梓は訊ねた。
「舞は?」
「ロードワークに行くって言ってましたよ」
 向日葵が答えた。
 それを聞いて薫も飛び出して行こうとする。
「私も行ってくる」
「ああっ」
 つかさが呼び止める。
「ご飯できてるんで、行くんなら食べた後で」
「あっ、いっただきまーす」
 薫はカッコつけをやめてテーブルの前に戻った。
 薫に笑顔を向けつつ、梓は舞の行動が気になってならなかった。
  
 花瓶の水を取り替えて病室に戻ろうとしたジホは、待合所で聞き覚えのある名が呼ばれたのを耳にして後ろを振り返った。
「舞さん・・・?」


 そこに目を向けると、ナースに誘われ、足を引きずって診察室に入っていくのは白鳥プロレスの魚沼舞だった。

 右足の負傷にもめげず、薫を相手に舞の猛練習は続いた。
 しかし、舞の右足は重傷だった。
 薫を放り飛ばしておいて、舞は膝の痛みに耐えられずリングに崩れ落ちた。右ひざを押さえ、舞の表情は悲痛だった。
 三人は驚いて舞に駆け寄った。
「薫?」
 向日葵が訊ねた。
「あたしは何も・・・」
「大丈夫、何でもない」
「でも、舞さん・・・!」
 そこへ梓が顔を出した。
「舞!」
 彼女は舞のそばに駆け寄った。
「救急車」
 梓の言葉に舞は反発した。
「いらない!」
「だって」
 その時、背後で誰かの声がした。
「どうですか、調子は?」 
 振り返ると姿を見せたのは郷原とスカル杏子の二人だ。
「おやっ・・・? 何かトラブルのようで・・・」
 スカル杏子を見て、舞は自分を轢いたのはこの女だと直感した。自分を轢いた人間の目もとが彼女にそっくりだった。
「スカル!」舞は叫んだ。
 舞の言葉に梓も直感が働いた。彼女は郷原らをにらみつけた。
「まさか・・・あんたたちが舞を・・・!?」
 郷原はとぼけた。
「そんなわけ、ないでしょう、人聞きの悪い・・・勝手に転んだんですよね?」
「あんたたち」
 郷原に詰め寄ろうとした梓の腕をスカル杏子が制した。
「何か、証拠があるんですか?」
 郷原は反問した。
「私たちがやったという・・・? こっちは出るとこ出たっていいんですよ」
 梓も舞も悔しさを覗かせた。
「お大事に、魚沼舞さん。ただ、その状態では・・・白鳥プロレス代表でのマッスルガールカップへの出場は、やめた方がよさそうですね」
 舞は唇をかんだ。


「それと・・・マッスルガールカップ、負けたら白鳥プロレスは解散ですから。それもお忘れなく」


 郷原は嘲笑を残して引き上げて行った。


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