雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(45)





韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(45)



 キジョンの書斎にヨンオクが水割りを運んできた。
「ずっと絶っていたでしょ。召し上がって」
 キジョンは黙って○テーブルの前に腰をおろした。
「ありがとう」
 水割りグラスを手にした。
「断らないのを見ると―ひどくまいってるのね。ウンジュと対立しすぎよ」
「俺が問題か? けんか腰で逆らってばかりだ」
「あなたも悪かったわ。手をあげたからいきり立ってるのよ」
「どうしろと? 食事をするのも嫌だ。話をするのも嫌だ」
「ジェヒが受け入れたら、早く結婚させましょう」
「…」
「ウンジュはこの家が嫌なのよ。私を嫌ってるし、ウンジンも嫌になり、あなたも憎くて一緒に暮らしたくない」
 キジョンはかすかに頷く。
「そこまで嫌がるなら、好きな人と一緒にさせて送り出しましょ」
「…」
「穏やかな人生を送れるように。長くもない人生。華やかな笑顔で幸せに暮らせと送り出してあげましょう」
「ジェヒはウンジュに興味がないんだろ。どうすればいいんだ」
「興味もないのに何度も会わないわよ。結婚相手と思っているかどうかは分からないけど」
「何だあいつは? なぜウンジュに会う」
「だから、ジェヒが承諾すれば結婚させるのね」
 キジョンはヨンオクを見て、横を向いた。
 ヨンオクは部屋を出ていった。


 ヨンオクはウンジンに訊ねた。
「さっきはどうして二階に戻っていったの」
「お姉ちゃんは大人げなさすぎるわ。パパに反抗する年でもないでしょ」
「お姉ちゃんは―気持ちは分かるけど、ママを見下す態度は悪いわ。産んではなくても、育てたのはママじゃないの」
「…」
「やっとわかったわ。ママに腎臓移植が必要でも――自分の腎臓を使えとは一度も言わないし、理由が分からなかったの」
「…」
「ママ、私がしてあげる。満15歳になれば手術できるらしいから。だから、高校生になれば大丈夫よ。私も同じB型だから移植できるわ」
「…」
「約束するわ。私がママを必ず元気にしてあげる。必ず」
 ヨンオクはウンジンの顔や髪に触れた。
「ママは娘を立派に育てたようだわ」
 ウンジンは表情を活き活きさせた。
 二人のやりとりを見ていたウンジュの表情は翳った。

 ジョンシムが家族を呼んだ。
 家族たちはフィソンを先頭にリビングに出てくる。
「さあ、食事だ、食事だ」
「母さん、クムスンさんの具合はどう?」
 とシワン。
「大丈夫よ。熱もさがったし、おかゆも食べた」
「食事だと言って起こそうか?」とピルト。
「過労だから寝かせてあげて」
 しかし、クムスンは自力で起きてきた。
「クムスン、身体の調子はどうだ?」とピルト。
「大丈夫?」
「もう大丈夫です」
 クムスンは答えてフィソンを呼ぶ。
「ママのところへおいで」
「ゆっくり寝てればいいのに」
「大丈夫です。もう出勤しないと」
「出勤? 大丈夫なの?」
「ええ。お義母さんのおかげで。病気もいいものですね。朝起きたら食事の準備が、家の中もきれいで―たまには病気に」
 ピルトは可笑しそうにする。
 しかしジョンシムは「調子に乗りすぎ。口は災いの元よ」とピシャリ。
「さあ、食べよう」
「いただきます」
 みんなで食事が始まったら誰かの携帯が鳴った。
 ピルトはテワンをにらみつけるが、テワンは首を振った。
「俺じゃないよ」
 シワンも首を振る。
 クムスンが自分のだとやっと気付いて部屋へ飛んでいった。

 電話をかけたのはジェヒだった。
「俺だ」
 ジェヒはワクワクした声で切り出した。
「俺だよ、ク・ジェヒ」
「・・・おはようございます」
 クムスンは戸惑いながら応接する。
「朝から何か? 何かありました?」
 他人行儀に話されて、ジェヒはムカッとくる。キジョンの指摘した品性なき短気だ。
「電話番号の確認だ。確認は必要だろ?」
「こんな早朝からですか?」
「手術があるから、今しか時間がない」
「そう言われても―」
「わかった。合ってるなら、もういい。じゃあな」
 ジェヒは電話を一方的に切り、大きくため息をついた。
 勝手にかけてこられ、勝手に切られ、クムスンは携帯を握ったまま"何、この人?”の表情になる。
 この時、ピルトの呼ぶ声がした。

 この後、テワンをめぐるひと騒動があり、シワンの出勤時間になった。
 クムスンはシワンを追って外に出た。
「お義兄さま」
 シワンは立ち止まる。
「クムスンさん」
 クムスンはシワンの前に立った。
「どうしたの? 話でもあるの?」
「はい。難しい頼みごとがあります」
「難しい頼みごとがあります? 何だろう? 話してみて」
「とても難しいんです」
「それじゃあ、無理かもな」
「・・・」
「話してみて」
「ダメなら”ダメだ”とはっきり言ってください」
「わかったよ。ダメなら容赦なく断るから話してみて」
「あの・・・私にお金を貸してくれませんか。金額も150万ウォンと多いの」
「…」
「大金で申し訳ありません」
「わかった。銀行で送金するから、口座番号をメールで送ってくれるかな」
「お義兄さん、本当にありがとうございます。何に使うのかも聞かずに」
「じゃあ、聞こうか? じゃあ、行くけど、メールを頼むね」

 クムスンからジョムスンにフィソンは義母が面倒見てくれるとの連絡が入った。
 それをネタにスンジャの疑心暗鬼が始まった。
 今回のことで、またお金を無心されるんじゃないか? それでフィソンに実家の出入りをさせないようにするんじゃないか、その証拠に怪我をする前は一度も面倒など見たことなかった、というわけだ。
 ジョムスンはジョムスンで、姑をいいようにとらえていた。相談を受けたら、すぐに金を貸してやれ、と言ってくれたんだ、と。

 ヨンオクの担当医がカルテを持ってキジョンの部屋に来ている。
「どうした? 家内に何か問題が?」
「HLA検査をやったのか? 俺に検査結果が届いた」
 検査票をキジョンの前に差し出した。
「ヨンオクさんのだろ?」
「…」
「70パーセントなら、組織適合性に抜群だ。ナ・クムスンって誰だ?」
「…」
「腎臓の提供者か?」
「いいや…」
「違うのなら――なぜ、HLA検査を?」
「知らん顔してくれ。とりあえずな。そのうち、話す時もくる。家内には何も言わないでくれ。頼むぞ」
「…」
「それで――70パーセントなら移植後も、拒否反応はないのか?」
「確率的に低いさ。双子で90パーセントだ。50パーセントでも良好だ。70パーセントなら優秀と言える。兄弟姉妹や、親兄弟のような家族ということだ」
「そうか」
 キジョンの表情は明るんだ。
「だから、余計気になるんだ」
「はい」
 医療スタッフが健康検診の結果を持って入ってきた。
「血圧の再検査が必要です」
「他には?」
「ありません」

 ウンジュはオ・ミジャに訊ねた。
「クムスンさんに前借を?」
「ああ…話そうと思ってたけんだけど、許可したわ」
「…」
「あなたが何を言いたいのか分かるわ。あなたが反対したのも聞いたし・・・正しい判断だわ。でも、家に訪ねてきて事情を聞いたら、とても性急で気の毒だったの」
「…」
「それで特別に許可したの。ウンジュ、今回だけ、許してあげましょう」
「もう支払ったそうですね」
「ああ、そうね。もう渡したわ」
「わかりました。ですが、院長・・・幾つも例外をつくると職員の統制がとれません」
「そうね。これからは注意するわ」

 ウンジュは仕事中のクムスンを呼んだ。
「あなたは私の話をバカに?」
「えっ?」
「私は前借はダメだと言ったはずよ」
「…」
「なのに、院長の家に行って頼むの?」
「それが・・・すみません。急いでたもので・・・」
「それほど急ぐなら、再度、私に言うべきじゃ? 私が拒否したからって、すぐ院長に?」
「あの~、その通りです。ですが、また断られるかと思って」
 ウンジュは薄笑いを浮かべた。
「あなたって、ほんと面白い人ね。私に恥をかかせるし・・・」
 この時、クムスンの携帯が鳴った。
 ためらっていると、ウンジュが、出ていい、と言った。
「覚えておくわ」
 電話はキジョンからだった。


 ジョンシムはフィソンの家に出向いていった。
 家の前でジョンシムと顔を合わせた。
 部屋に通されたジョンシムは、サンチュとナムルを手土産で出した。
 恐縮しているジョンシムにジョムスンはそれ以上恐縮する。
「?」
「何かお礼が出来ればとじっとしていられず・・・人間である以上――親切を受ければ感謝することができ、恩を受ければ恩返しをするべきです」
 ジョンシムは笑みで頷いた。わけも分からずジョンシムの話に応じた。
「まあ、何といったらいいかわかりませんわ。私たちがしたことなど・・・」
「いいえ、そんなこと言わないでください。お義母さんはクムスンがやさしくかわいいから、けなげに思われて出してくれたのでしょうけど、でも受ける者は違います」
「・・・」
「それでその上・・・」
 ジョンシムはジョムスンの話にじっと耳を傾けた。
「ご長男が何も言わずに大金を貸してくださって、その気持ちと恩をどうしたら・・・ご恩は死んでも忘れません。生涯、感謝いたします」
 ジョムスンは何度も頭を下げる。
 ジョンシムは訊ねた。
「長男がクムスンにお金を貸したんですか? いかほど?」
 そう訊かれて、ジョムスンはきょとんとなった。
 開いた口をつくろわねばならない状況だ。
「そうですか。知らずにいました。それでいくらなんでしょう」
「あの、それが」
「あの、いいんですよ。もう出た話ですから、話してください。長男が帰ってから聞いてもいいですが」
「私はご存知だとばかり思い…」
「私が知るべきことを知らずにいました」
 ジョンシムは気を遣って笑顔になった。
「ええ、長男は正しいことをしました。困った時は助け合わないと――それで、いくらを?」
「あの、それでですね。私がフィソンの面倒をしたいんです。私もですね。急にフィソンがいなくて、あまりにひっそりとして寂しいし、お義母さんも大変でしょうから。身体も弱いんでしょう?」
「…」
「家事に孫の世話までは無理です。だから、私が面倒を見ますから。それがお互いにいいんです」

 ジョンシムがジョムスンの相手に疲れた頃、テワンとフィソンが帰ってきた。フィソンの顔を見るなり、ジョムスンは連れて帰ると言い出した。

 フィソンを連れ、家に戻ってきてジョムスンは後悔しきりである。

 シワンはクムスンから”お金を受け取った”との連絡を受けた。
 シワンは”ゆっくりでいいよ”と返した。
 メールを打ち終わってふと見ると、ソンランたちの姿がある。シワンは二人に歩み寄って担当を取り返した。
「何なの?」
 とソンランは笑った。

 ジェヒが後輩を叱り付けているとドアが鳴った。
 顔を出したのはクムスンだった。
「こんにちは」
 挨拶するクムスンの顔に笑顔はない。
「俺に会いに?」
「はい」
 クムスンはジェヒの前に進み出た。
 カバンから封筒を取り出した。
「これを」
「何、これ?」
「借りたお金です」
「…」
「予想より早く返せることに。ありがとうございました。確認してください」
「どうやってこれを」
「確認ください」
「合ってるさ」
「忙しいでしょうし―本当に感謝しています。では」
 クムスンは頭を下げて部屋を出た。
 クムスンの行動が解せないジェヒは後を追って廊下に出た。
「おい、白菜」

 二人は外に出た。
「勘違いかもしれないが、お前、俺に怒ってる?」
「…」
「何で怒るんだ? 俺が失礼なことでもしたか?」
「いいえ」
「じゃあ、何だ? 理由がさっぱりわからない。別に偉ぶろうとしてるんじゃ」
「だからです。借りる立場で悔しいし、腹も立つの」
 ジェヒは鼻先で笑った。
「150万ウォンもの大金を軽んじてるから」
「白菜!」
「だからって、感謝はしてます。いいえ、感謝の気持ちとは別に、私には生死にかかわる大金をあなたは…」
「お前は何を言ってる? そんなことはない。150万ウォンを軽々しく思うわけがない。俺にもこの上なく大金だ。何でそんな風に?」
「…」
「100ウォンも1000ウォンも誰にでも同じ価値だ。150万ウォンを軽々しくとは・・・?」
「だったら、だったらなぜ私に150万ウォンを貸してくれたの?」
「…」
「だったら、余計分からないわ。私をよく知らないくせに」
「…」
 クムスンはズバっと訊ねた。
「もしかして私を好きなの?」




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