韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(115)
ジェヒと別れたクムスンはすぐ家には向かわなかった。近くの公園のベンチに座り、コソコソしなければならないジェヒとの交際について思案に沈んだ。
先に家に帰ったシワンとソンランはジョンシムの作ったチジミに舌鼓をうった。
「おいしいです」
「そうだろ。母さんはキムチチジミのプロさ」
シワンはピルトに同調する。
「クムスンは?」とジョンシム。「疲れてるのにこんなに遅くまで」
この時、ドアが鳴った。
「おお、来たみたいだ」とピルト。
クムスンが笑顔で入ってくる。
「来たな。ここに来て座れ。母さんがチジミを作ったんだ」
「無理するなと言ったでしょ」
クムスンは愛想笑いする。
「外出するとすぐ調子に乗るんだから」
「早く座って」笑いながらシワン。
クムスンは腰をおろす。
「職場の雰囲気はどうだ?」
「ええ、喜んでくれました。月曜から復帰です」
「それはよかった。今、何時なんだ?」
ピルトは腕時計を見る。
「雨が降らないか天気予報を」
「梅雨が過ぎたから平気よ」とジョンシム。
「だといいけどな。テレビつけて」
「おいしいです、お義母さん」
「たくさん食べろ」
テレビはラブホテルを映し出し、昨今の若者事情について現地に赴いた取材アナウンサーが映像とともにコメントをだしている。
――若者の性風俗の変化は・・・ラブホテルの盛況からもうかがえます。昼の使用料は1時間で約5000ウォン。
シワンとソンランは面白がり、クムスンも興味深そうな視線を送る。
「本当なの?」と顔をしかめるジョンシム。
――部屋ではインターネットも可能で・・・ネットカフェに行くより・・・
「あら、まあ・・・」とジョンシム。
「まったく、驚くべき事態だな」とピルト。
「世の中がメチャクチャだわ。うちには大学生がいなくて幸いね」
ソンランが言った。
「あんなに安ければ私も使いたいわ」
ジョンシムとピルトは呆れたような目をソンランに向ける。
ソンランはあわてて弁解する。
「そうじゃなく・・・シャワー浴びたり、横にもなれますから」
シワンは横からソンランを小突いた。
「だからってそんなことを・・・」
シワンがソンランをかばう。
「ただ、言ってみただけだよ」
「ええ、やめとくわ」
笑い声。
――ネットカフェ代に少し足せば・・・誰にも邪魔されずに過ごせるからです。
クムスンやジョンシムたちは興味深々で映像に見入る。
見覚えのある若者が登場して、ジョンシムは目を丸くする。表情が変わる。身近な人間に似た男が登場し、シワンもソンランも映像に釘付けになる。
――今もカップルが入ってゆくところです。
見覚えのある女の方にクムスンは目を吸い寄せられる。
アナウンサーはテンポのよいリズムでレポートし続ける。
――周りの目を気にせず、ラブホテルを使うのです。
「おい、あれはテワンじゃないか?」とピルト。「今日の服装は?」
「クマ・・・?」とつぶやくクムスン。
「クマって誰?」
「誰なんだ」
クムスンはうろたえる。気前よく従姉妹と口に出来る状況ではない。
ジョムスンらも同じ番組を見ていた。ノ家の者たちのようにラブホテルに入って行こうとしている二人に目を奪われていた。
「あれ、クマじゃないか?」とサンド。
「そうよ、クマよ」とジョムスン。「ねえ、今日、着ていった服は?」
スンジャは頭に血がのぼり言葉も出てこない。
「何を着て行ったの? ほら見て、入っちゃうわ。クマ、そんなところに入っちゃダメ――ああ―ぁ、入っちゃった」
家族ですったもんだしているところに、クマが酔いもさまし明るい表情で帰ってきた。
「ただいま――友達と食事してきた。それじゃ」
家族への話もそこそこに部屋へ入って行こうとする。
「こらっ!」
スンジャが叫んで立ち上がった。クマに詰め寄った。腕をつかんでサンドの前に引っ張り出し、殴り始める。
びっくりしてジョムスンとサンドが止めに入る。
「ダメよ、やめなさい」
「この子は! この子は!」
クマをひっぱたくスンジャ。
「おい、やめろ。やめろったら」
「暴力振るわないで、口で叱りなさい」
「どいて」
二人を払いのけて、重いパンチがクマの背中に炸裂する。クマは悲鳴をあげる。
ノ家ではジョンシムがクムスンを問い詰めている。
「従姉妹なの?」
「・・・」
「早く答えなさい」
クムスンは逃れられずに頷く。
「ということは姻戚とあいつは関係を?」とピルト。
「ただいま」
そこにテワンが帰ってきた。
「母さん、腹が減ったからメシを」
「あのTシャツと同じだわ」とソンラン。
「これ? イケてる?」
テワンはソンランとクムスンの間にどっかと腰をおろす。
「チジミか・・・」
箸を手にしたテワンにピルトはいきなり拳固を振るった。
びっくりしてジョンシムが止めようとする。
「あなた、やめて」
「痛い! やめろよ」
しかし、ピルトはぼかすかテワンを殴りつける。
シワンとジョンシムが必死にピルトをなだめる。だが、ピルトの怒りは収まらない。孫の手を握ってテワンを叩く。
「訳も言わずに殴るなよ」腕で防御に努めるテワン。
「孫の手は痛いからやめて」とジョンシム。
「おい、どくんだ」
ピルトは立って殴りに行こうとする。
「いったい何なんだよ」テワンは立ち上がって叫ぶ。「理由を聞かせろよ」
「姻戚の女性とホテルへ行ったでしょ?」とジョンシム。
テワンはハトが豆鉄砲食らったような顔をする。
「どうして、それを?」
「どうしてだと?」
ピルトはまた孫の手を振りかざした。テワンはシワンとソンランの後ろに逃げ込んだ。
「何もなかったよ」
「本当に?」
「本当だよ」
「聞いたでしょ、あなた。何もなかったって」
「そんなの信じられるか」
「本当さ。しかもあれは――クマの方から横になりたいと・・・」
シワンはテワンを見て言った。
「こいつが・・・信じられる言い訳をしなきゃ、収まりもつかんだろ」
「本当だって。クマが酔っ払っちゃって――”あそこに行く”と・・・言ったんだ」
クムスンが叫んだ。
「クマを酔わせたってこと?」
「俺は飲ませてない。あいつが勝手に飲んでただけだよ」
ピルトは立ち上がってテワンを追いかけだす。
リビングを逃げ回って戻ってきたテワンの前にシワンが立ってピルトをなだめる。
ピルトは孫の手を突き出し、呆れた声で言う。
「こいつは普通じゃないぞ。姻戚と関係を持つなんてお前は人間じゃない」
ジョンシムは声を振り絞り金切り声で叫ぶ。
「それは痛いんだから。シワンを叩かないで」
スンジャの暴力は収まった。
鼻をかんでクマは両親に弁解した。
「何もなかったの」
「・・・」
「本当よ。嘘じゃないわ。酔っちゃったから、ただ、寝てきただけなの」
「・・・」
「本当にただ寝てきただけなのよ」
「手をつないで?」
とジョムスン。しかしスンジャに睨まれ、ジョムスンは横を向く。
ノ家でも暴力のお仕置きはひとまず収まった。
問い詰め役はジョンシムになった。
「本当に何もなかったの?」
「なかったよ」
「どうして彼女とホテルに?」
「クマが酔ったからだって」
「なぜ酒を飲んだのよ」
「それは・・・交際してるんだ」
「何ですって? 相手は姻戚なのよ」
「惚れられて仕方なくさ」
白けた顔でクムスンが言った。
「私の前で嘘をつかないで。先にキスをしたくせに」
「こいつ・・・!」とシワン。
「口先だけのその場しのぎはよくないわ」とソンラン。
「義姉さん、何言ってる――キスは事実だけど・・・キスも交際も事実だけど深い関係じゃない。ただ、好かれてるから会ってるだけなんだ。あとは成り行き任せさ。それがダメか?」
「問題も何も・・・姻戚なんだからダメでしょ」
「どうしてダメなんだ。相手は男じゃないんだぞ」
ジョンシムも頭に血が上った。
「あなた、殴ってやって」
ピルトは孫の手を握りなおした。再びテワンに向かって振り回そうとする。テワンは逃げ、シワンがなだめに立つ。
シワンの後ろからテワンは反論する。
「義妹の姉妹ではなく従姉妹なんだぞ。それに妹だとしたって重縁なんてざらだろ。そもそも単なる軽い交際だ」
「本当に腹が立つわ」クムスンは言った。「それ本気で言ってるんですか」
ジョンシムに睨まれ、クムスンはその先を思いとどまった。
ミジャがヨンオクの見舞いでやってきた。
ウンジュが出迎え、ヨンオクの部屋に通した。部屋では家族が揃っていた。
ヨンオクがベッドからおりようとするとミジャが制した。
「そのままでけっこうです」
退院のお祝いを述べ、ミジャは言った。
「退院の知らせを聞き、居ても立ってもいられずすぐ伺いました」
「どうぞお座りになってください」
「私とウンジンは席を外すので、どうぞ、ごゆっくり」
キジョンはウンジンと部屋を出ていった。
「もう果物もたべられますね。よかったわ。自分のことのように嬉しいです」
「お気遣い恐縮です」
夜、クムスンは寝付けなかった。
義兄に言った言葉が逆に自分にも突き刺さるのをクムスンは感じていた。
シワン義兄さんや義姉の目からこそこそ隠れようとするジェヒとの交際も胸を張れるものでないということを・・・。
携帯が鳴ってクムスンは身体を起こす。携帯を開く。ジェヒからのメールだった。
――おやすみ、白菜。
やっぱり、嬉しくなる。クムスンもメール打ち返す。
――おやすみ、勘違い王子。
携帯を閉じてまた横になろうとしたら再び携帯が鳴る。
――怒るぞ。明朝、早いのに眠れない。子守唄でも歌ってくれ。
クムスンはメールを返す。
――こういう時、祖母が言うセリフは?
――分からないな。
――血迷うな。
――セミナーの準備が上手く行かなくてさ。お前は?
――カットの練習をしようか迷ってました。てこずってます。ハサミ使いの難しさを実感してるところ。
笑いすぎて後ろにそっくり返り、ジェヒはベッドから落ちてしまった。
そのメールをもらってクムスンも腹の底から笑った。
そこにドアが開き、ジョンシムが顔を覗かせた。
クムスンはびっくりして立ち上がった。
「お義母さん・・・」
「明るいからノックしたけど返事がなかったから。メールを?」
「はい」
「私に気付かないほど楽しいメールなの?」
「・・・」
「遅くまで起きてないで早く寝なさい」
「はい、おやすみなさい」
ドアが閉まる。
現実に引き戻され、クムスンはさっきの寝付けない時の表情に戻った。
朝食タイム。テワンが一番遅く起きてきて昨夜の傷を見せた。
「この傷を見てくれ。今日、撮影がなかったのは幸いだったよ」
「こいつが・・・3日間ぐらい殴りつけてないと分からないようだな」
「なぜ信じないの? 何もなかったんだ」
自分の言い分を、まだ信じてもらってないと感じているらしい。
「クマがベッドに寝て、俺は床に転がって寝ただけだよ。オンリー・スリープさ」
場はシラーッとなった。
「寝ただけ? バカを言うな」
「何だよ、父さん。本当なんだ――勝手に考えればいいさ。神様はきっと見てくれてたから」
クムスンは言う。
「神聖な神様を怒らせないでください」
「・・・」
居間に顔を出したクマにサンドは言いつけた。
「俺が戻るまで家にいろ」
「いってらっしゃい」
「気をつけて」とスンジャ。
サンドが出かけるとクマはスンジャの手を握った。
「ママ。入社直後なんだから休めないわよ」
「足を折って、髪を抜いたら悟るかしら。部屋にいなさい」
「ママ。まっすぐ帰るから」
ジョンシムもクマの肩を持つ。
「そうしてやったら・・・」
「お義母さん」
ジョンシムは下を向く。
クマは懸命に弁解する。
「何もなかったんだって。なぜ信じないの?」
「本当なの?」とジョムスン。
「ええ、おばあちゃん」
クマはジョムスンの前に座った。
「嘘じゃないわ。神に誓う」
「相手の男は誰よ。言ってみなさい。何をしてる人?」
「・・・」
「早く」
「そうよ、話しなさい」とジョムスン。「この際、事実を話して堂々と会えばいいのよ。その年で交際するのは当然なんだから」
「はい――テワンさん」
「誰よ? そう言われても分かるわけないわ」
「クムスンの義兄よ」
「だ、誰?」
ジョムスンは手を叩いた。
「なるほど。そうなのね。どうりで見覚えがあると思ったわけだ。フィソンの下の伯父さんよ」
スンジャは意外そうにクマを見る。
ジョムスンはゴキゲンで陽気に続ける。
「こんなに年を取っても人の顔はよく覚えられる・・・何だっけ――姻戚ってことでしょ」
「はい」
ジョムスンの顔色は変った。スンジャの表情も厳しくなった。
会社に向かうソンランの携帯が鳴った。
「俺だ。かつての舅だよ」
「はい。こんにちは。――分かります。今ですか」
ソンランはカフェラウンジで前の舅と会った。
「お元気でしたか?」
「ぼちぼちだ」
「ギョンミンさんも相変わらず?」
「一応、元夫のことも聞くのか」
「ウジュは大きくなったでしょう。まだ北京に?」
「ああ。北京にいる。母親だけに息子のことは気にはなるんだな。なのに未婚のふりを?」
「・・・」
「再婚前――そんな記事を読んだことがあるぞ」
「・・・」
「呆れて仕方がなかった。ウジュが見たらどう思うか考えなかったか?」
「・・・」
「出版社に電話してぶちまけるのを――やっと我慢したぞ」
「・・・」
「それに今度の舅はよりによってノ所長だと? 彼もつくづく運のない男だ。お前を長男の嫁に迎えるとは」
「・・・今日、お電話をいただいたのは?」
「俺も長話などしたくない。さっさとすまそう。金がいる。今週中に3000万を用意しろ」
「えっ?」
「金が要るんだ。3000万だ。お前にははした金だろ」
「・・・私がなぜ金を差し上げなきゃいけないんです? 慰謝料もいただいてません」
「慰謝料? バカナことを言うな。少し殴られただけで夫を依存症扱いし――息子を捨てたヤツが慰謝料だと?」
「お義父さま」
「うるさい。それしきで離婚してたら夫婦など存在しない。他の女たちはみんな我慢してるんだぞ」
「・・・」
「ギョンミンが慰謝料をもらうべきだ」
「そんな大金、あっても――あげる理由はありません。なぜ人格を侮辱されるのか・・・」
「俺のためじゃない。ギョンミンに必要な金なんだ」
「・・・」
「ギョンミンの事業がうまくいかん。去年から苦戦し、今年は最悪の状態だ。分かるか。子供の母親として良心があれば――助けるべきだろ。居間までウジュに何をしてやった?」
「どれくらい大変なんですか? 去年の初めごろはよかったはず」
「可能なのか? 結論だけを言ってくれ」
「・・・」
「3000万だ。考えておけ。夜、電話する」
前舅は席を立ち、先に店を出ていった。
ソンランは気落ちして会社に戻った。
前夫の事業が上手くいかない――彼女の胸は痛んだ。
ソンランはバッグの中から一枚の写真を取り出す。前夫のもとに残してきた息子がふびんで彼女は涙ぐんだ。
デスクに戻ったソンランは部下に運転資金の余裕がどのくらいあるかを訊ねた。
クムスンは朝1で美容室にやってきた。
店内の景色の何もかもが懐かしかった。空気までもが懐かしかった。
さっそく掃除を始めた。
するうちスタッフは次々と出勤してくる。彼らと交わす挨拶までもが懐かしく楽しい。
そして院長とウンジュも出勤してくる。
クムスンは室長のもとにお茶を運んできた。話があって腰をおろした。
「週末の毛染めテストを受験してもいいですか?」
「まだ実力が不足してると思うけど」
「ええ。でもテストを想定して2週間前から家で練習してきました」
「カットだけのはずだけど?」
「毛染めもやってたんです」
「・・・」
「先生――私、個人的な事情で、今年いっぱいで辞めるかもしれません」
「・・・」
「だから年内に、できるだけ・・・すべてを習いたいんです。教えてくれさえすれば、徹夜してでも練習します。教えてください」
「どうして? 何かあったの?」
「時間が経ったらお話しします」
「?」
「お願いします。死ぬほど練習しますから」
「つまりは、仕事が終わってから補講を受けたいと?」
「はい」
ユン室長は腕を組んで考え込んだ。
「分かった。とりあえず、毛染めテストにパスしたら考えてもいいわ」
「はい。ありがとうございます」
「自信を持ちすぎよ。一度でパスした人はいないのよ」
ヨンオクはタクシーをおりた。
そこは美容室の前だった。
ヨンオクは店に歩み寄り、ガラス越しに店内を覗いた。クムスンの姿を捜した。
クムスンは元気な姿で働いていた。
店からウンジュが出てきて店内を覗き込むヨンオクを見つけた。
自分を訪ねてきたのかと思ってウンジュはそばに歩いていった。後ろから声をかける。
「ママ」
ヨンオクは振り返る。
「何を見てるの? 私を捜してた?」
ヨンオクはその問いに答えることが出来ない。
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