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第91期ヒューリック杯棋聖戦(第四局)から
藤井聡太 七段 vs 渡辺明 三冠
藤井七段が棋聖戦の第四局に勝利して渡辺三冠から棋聖位を奪取した。史上最年少、17歳11か月での新記録である。
第4局は第2局再現を思わせる展開となった。藤井七段の5四金や3一銀打ちの妙手を呼んだ急戦矢倉の戦いである。
渡辺三冠が第2局の敗因を分析し、新工夫で「今度は負けない」とばかり注文をつけたと見られる。
帰宅してabemaTVで中継を見始めた時、9四に桂馬を打って攻勢をかけようとする後手に対し、先手の渡辺三冠は”来るならこい”とばかり、9五歩と桂馬を咎めに出ていた。
9四の桂馬は何を意図して打たれたかは分からなかったが、8六に飛べば7八の金に当たって来る。
金はどこに逃げても味が悪いと久保九段らの解説があった。しかしこの桂馬は応援のない単独行なので、角が7七に上がって取ってしまう順になれば、先手の角は働きだして来るとの説明もされた。
後から思えば、8六に飛び出した桂馬は藤井七段の仕掛けた巧妙な手だった可能性がある。この桂馬に与えられた任務は角から引き離すだけで任務完了。あとはそこに居てもらえばいい。一人ぽっちになった角を8六地点におびき出す餌であってくれればよかったのだ。
先手は角で桂馬を取って8六に出た。遠く敵玉を睨み、天王山に構える銀との連携で敵陣に切り込むつもりである。飛車を手にすれば一気に寄せの構図も見えて来る。
久保九段は銀と角の協力による攻めの流れを解説してくれた。その攻めを食らったら、左側に守りの偏った後手陣は難なく壊滅状態となってしまいそうである。
先手渡辺三冠がAI評価値で常時60%の優位を保っているのも頷ける展開だった。
そうなって行きそうな局面を見ながら、藤井七段は先手のこの攻めをどう受けるつもりだろうか、とやきもきしたものである。
そして実際その流れへと局面は進んだ。
これで飛車は追われる。右側に守りのいない後手玉も飛車ともども簡単に攻略されてしまいそうだった。
「ああ、これで棋聖戦も最終戦(第五局)にもつれ込むな」
と心から思ったものである。次の3八銀打ちを見るまでは…。
つまり後手8六の桂馬は角にそれを食べてもらう贈答品だったのだ。代用の桂馬は2六金と進んで手持ちにした。先手はこの金を飛車で取れない。3四に桂馬を打たれ、4六の銀との両取りをかけられてしまうからだ。後手は先手の角を働かせてやり、8六の桂馬を与えた代りに3四の地点で取られそうになってた金を敵陣に進出させた。まず2六の桂馬を頂戴し、3六に進撃して先手の飛車取りを策して網を張って待機したのだ。成り角で自陣の飛車取りがかかるまで…。
この3八銀が打たれて以降、AIの評価値は藤井七段優位の数字を弾き出すようになった。藤井七段は着実に先手玉を追い詰め、最後は詰めろをかけ逃げ切って勝利した。
手持ちの駒をひとつも余さない芸術的な勝利だった。
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