雨の記号(rain symbol)

藤井聡太王位・棋聖  VS 永瀬拓矢王座




藤井聡太王位・棋聖  VS 永瀬拓矢王座


<竜王戦 挑戦者決定三番勝負 第一局>から



 YouTubeにアップされた棋譜動画では、説得力のある解説に呼応して藤井二冠の強さを讃えるコメントがずらずらずらと軒を連ねる。
 藤井二冠の絡まない将棋では、死闘の繰り返された棋譜でもコメントが20件も並べばすごい数と言えた。
 だが、藤井二冠の将棋はこんな数ですまない。相手がA級並みの棋士ばかりになってきたせいもあり、解説の下手な棋譜動画でないなら1日20件など楽に超えて来る。
 今期に入ってからは、アイドルのファンみたいな親近感で気楽にコメントを書き込む将棋ファンも増え、大盛況の様相である


「藤井二冠は強い。強すぎる。すでに1強時代か?!」
「終局まで優位は動かない〜相手に何もさせない藤井曲線―今期五冠も夢じゃない」
「藤井二冠の将棋は神の領域に入ってきた…」


 この頃はそんなコメントを読むのを楽しみに棋譜動画を見るようになってきた。

 今期に入っての藤井二冠は、確かに異常な強さを見せるようになってきた。人間らしく負ける将棋もあるが、勝った瞬間、相手に次勝つ可能性をゼロに近づけてしまう強さを身につけてしまっている。
 将棋で連敗する可能性の低い藤井二冠は一夜で蘇り、次の対局からまたモーレツに勝ち続けることになるからだ。藤井二冠の負けた次の対局をあてがわれた棋士は、お通夜に出向く気分で対局場に出向かねばならないだろう。


 永瀬王座の先手で始まった<竜王戦 挑戦者決定三番勝負 第一局>も藤井二冠の強さが特に印象付けられる将棋となった。
 公式戦の対戦成績はこれまでに藤井二冠の4勝1敗。
 永瀬王座は唯一の1勝を振り飛車で挙げている。今回、先手番となった永瀬王座のとった作戦はその振り飛車だった。


 この将棋は歩の下から主力部隊を押し進めるじっくりした戦いになった。この展開に解説者は「永瀬王座のペース」で将棋が進行している、と説明した。
 聞き手の女流棋士もその質問で確認を行っていた。
 自分もその質問に納得した。
 この将棋を藤井二冠がペースを握った将棋とは将棋を少しでも知る者なら誰も思わないはずだった。



 そもそも藤井二冠の最近の圧倒的な成績を見て、藤井二冠のペースで将棋を指そうとする棋士がいるだろうか?
 そんな棋士はいないと自分は見る。自分の戦略、自分のペースで主導権を握らないと藤井二冠に勝てないと自覚している棋士がほとんどであろう。

 今期の戦いを振り返ってみても、藤井二冠は明らかに相手の注文にそって将棋を戦っている。思い出してみればいい。
 棋聖戦での対渡辺名人との対局。
 王位戦、叡王戦での豊島竜王との対局。
 いずれの対局においても強くにじみ出てくるのは渡辺名人の将棋カラーであり、豊島竜王カラーだというのに気づかされるではないか。
 つまり、藤井二冠との戦いでよりよく伝わってくるのは、渡辺名人の対藤井二冠以外、豊島竜王の対藤井二冠以外の”ワールド”ではあるまいか…。


 藤井二冠がこの日、”永瀬ワールド”に乗り込んで”竜王戦”を戦ったのを見てもそれは明瞭なことである。
 というわけで、”藤井ワールド”が全貌を表してくるのは全冠を制覇し始める頃でないかと自分は見たい。
 そのスタイルは”八双の構え”とか”上段の構え”とか”諸刃流正眼崩し”とかでなく、ごくごく自然の”中段の構え”なのじゃないか、と自分は見ているのだが…。


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