韓国ドラマ「病院船」から(連載16)
「病院船」第2話➡劣悪な手術室③
★★★
ウンジェは事務長に「病院船では働けない」と申し出た。
「他に当てがあるのか?」
「ここ以外ならどこでもいいです」
行こうとするウンジェを事務長は遮る。
「ソウルの病院を追い出された医者が、歓迎されるかな」
ウンジェは答えずに行こうとする。
事務長は反対側も遮る。
「ここで立ち直るべきだ」
「無理です」
「先生」
「ろくに手術もできないのにここに残って私は何をするんです?」
事務長は言った。
「ここでひとりの命を救ったじゃないか」
「…」
「盲腸にも歯が立たず、これまでいくつもの命が失われてきた。この病院船は昔から何ひとつ変わってない」
「…」
「だけど今日は、君がいたから救えたんだ。私も努力するよ。設備を整えるために予算を立てる。だから…」
「患者監視装置と麻酔器だけは過ぎに手配を」
「先生…」
そう言ってウンジェは部屋の片づけを始めた。
★★★
病院船に働くのを決めたウンジェは、その日は船に残って片づけ物をし、診療室のカルテなどに目を通したりした。その途中、オ・へジョンのカルテも出てきた。
母もこの病院船で診療を受けていたのか。
担当医はクァク・ヒョン…彼だった。丁寧な診察を受けたようで、”要精密検査”の記述が見られる。心電図の記録も残っている。
心電図の波形を指でたどり、ウンジェは涙を浮かべた。
あの日、病院にやってきたのは母に間違いはなかった。
母が亡くなった日を思い出しては幾度も涙ぐむ。
ここへ通って来てたのを想像するとさらに後悔が増す。
どうしてそんな母に気づいてやれなかったのか…。
ウンジェは立ち上がる。歩いて内科診療室の前に立つ。
―消化不良を解消する薬をだします
―多めにお願い
―では一週間分を…それと心臓の精密検査も受けた方がいいですね
―検査結果がよくないのですか?
―ええ。心電図だけでは不確かなので念のため受診を
「母さんはここで診察を受けたのね。つらかった?」
ウンジェはそこに母親の笑顔を見た気がした。
「あなた、ここへ来たの?」
ウンジェは笑顔で頷いた。
ウンジェはしばらくその場所に立ち尽くした。
朝がやったきた。病院船は朝の活気が始まっていた。ヒョンも朝の挨拶をして船に乗り込んだ。
船内でウンジェを見かけて声をかける。
「ほう~、ひとりで片付けたんですか?」
「声かけてくれれば手伝ったのに」
「次から声かけさせていただくわ」
「ところで先生」ヒョンは歩み寄った。「以前どこかで会いましたよね」
ウンジェは顔を上げた。
「僕に見覚えは?」
ウンジェはヒョンをしばし眺めた。きっぱり答えた。
「いいえ、見覚えはないわ」
つんとして行ってしまう。
そばにジェゴルたちの姿がある。
「先生、前に会いましたよね」
ジェゴルがからかいを入れてくる。
「いいえ。見覚えはないわ」
「何のつもりだ?」とヒョン。
「あの人の気を引こうとしてるんじゃないのか?」
「違う」
ヒョンはジュニョンの頭を叩いた。
「そうじゃないんだよ」
ヒョンは診察室に入り、診察台に寝転んだ。
「確かにどこかで会ってるんだがなあ~」
思い出せない。諦めて立ち上がる。
デスクの前に来た時、壁に張り付いた写真に気づいた。写真を手にして得心した。
このせいだったのか…。
ゴウンは新聞を事務長の前に置いた。
「見覚えがあると思ったのよね」
”ドゥソンの後継者を救う”の見出しでウンジェの写真がデカデカと載っている新聞だった。
「どういうこと? ソウルで成功した医者がなぜ病院船に?」
事務長は困った顔になる。
「それは…」
事務長はウンジェと約束させられていた。
―ここに来た理由と前の病院でのことは…。
―秘密に?
―お願いします。
「それは何ですか?」
「…秘密です」
ヒョンは写真を持ってウンジェの部屋にきた。ウンジェの前に差し出した。
「これ、君でしょ?」
「…」
「何年前に撮った?」
ウンジェは写真を見た。
「7年前よ」
「だから気づかなかったんだ。この頃よりだいぶ…」
ウンジェは手を止めた。
「どうして?」
「何がです?」
「その写真はどこで?」
ウンジェはそう言ってヒョンの手にする写真を取り上げた。