雨の記号(rain symbol)

 韓国ドラマ「病院船」から(連載13)






 韓国ドラマ「病院船」から(連載13)




「病院船」第1話➡病院船に導かれし者⑫


★★★


 病院船の停留する埠頭へ子供を抱いて老人が駆け込んでくる。
「先生、子供を助けてください」
 ヒョンが子供をベッドに寝かしつけ、診察にあたった。
「腹が痛いと言ってのたうち回ってるんだ」
 老人はそばでその時の様子を話した。
 ヒョンは老人の話を聞き、子供に話しかける。
「名前は何というの?」
 横で老人が答える。
「ウジン、ソ・ウジン」
「ウジン、具合はどう? 診させてね」
 シャツをまくり、お腹の触診をする。へその下、右側を軽く押すと子供は泣き出した。
「盲腸だって?」
 事務長、ゴウン、ジュニョンらが駆けつけてくる。ジェゴルも診療室を出てくる。
「先生、何事ですか」
 子供を抱いて駆け込んできた老人が訊ねた。
「急性虫垂炎です」
「深刻ですか?」ゴウン。
「2センチくらいで熱も高い。病院ですぐ手術しないとだめです」
 びっくりして老人は叫んだ。
「手術って先生、孫はどうなるんだ?」
 ゴウンが説明する。
「心配しないで、ヘリコプターですぐ搬送しますから」
 事務長が携帯で連絡を入れた。
「困ったな」とゴウンを見た。「強風でヘリコプターが飛べないそうだ」
「時間がありません」
 ヒョンが事務長を見て言った。
「すぐに手術しなければこの子は…」
「どうなるんだ?」と老人。「手術しないとどうなるんだ?」
「…」
 子供は泣き出している。
「死ぬのか?」
 そこに集結した医療スタッフは誰も答えられない。
「助けてくれよ」
 老人はゴウンにつめ寄る。ヒョンを見て切り出す。
「先生が手術すればいいじゃないか。やってくれ。頼む」
 首をしめかねない勢いだ。周囲のスタッフが老人をなだめる。
「おじいちゃん、落ち着いて」
 事務長が言った。
「手術はできません」
 老人はジェゴルやジュニョンに頼んだ。
「先生がやってくれ」
 黙っていると老人は天を仰いだ。
「目の前に3人も医者がいるのに、何もできないのか…このまま黙って見ているしかないのか~!」
 その時、後ろの方から声がかかった。
「いいえ、手術はできます」
 みなは一斉に入り口を見やる。
 ウンジェが私服姿でそこに立っていた。
 彼女は子供の横たわるベッドに進み出てくる。子供の手を取ろうとする。
「何するんですか」
 ヒョンがその手を取った。
 ウンジェはヒョンを見つめ返した。
「今日からこの病院船で外科医を務めるソン・ウンジェです」

★★★

「病院船」第2話 劣悪な手術室①



「外科医ですか?」とヒョン。
 事務長はウンジェを見て苦笑いする。
「出勤は3日後からだったのに…」
「早く来たら迷惑でしたか?」
 子供を触診しながらウンジェ。
「いえ、まさか、そんな…」
 ウンジェは手を離した。
「腹膜炎かもしれない」
 みなを向き直る。
「手術室は?」
 外へ出ていく。慌てて事務長が追いかける。
 2人を見送ったジュニョンがジェゴルに問いかける。
「ここじゃ、無理では?」
「病院船でできるわけない。外科医はすぐ手術したがる」
 ジェゴルはヒョンに訊ねる。
「できそうか?」
「抗生剤の投与を」
 ヒョンは看護師に指示を出す。
「分かりました」  
 ゴウンはアリムと一緒に出ていく。
「大丈夫だよ。すぐよくなるから」
 ヒョンは子供を元気づけ、携帯で海洋警察に電話を入れた。




 乗組員から話を聞いて船長は驚く。
「何だって! 病院船で何をするって?」
「手術ですよ」
「どうやって? 誰が? どの部屋で?」
 事務長はウンジェを手術室に案内した。ウンジェは呆然とした。
「ここが手術室?」
「ええ」
 すでに物置の部屋と化している。
 埃の付いた無影灯はライトがつかなかった。
「つかないわ」
「これから修理しようと思ってたところで…手術できるんですか?」
 ウンジェは手術器具を調べ出す。
「麻酔器は?」
「ありません」
「それじゃ麻酔ができません」
「他の方法を」
「何の方法です? 手術設備もなくて不衛生で器具の消毒もできないのに?」
「消毒は」
 事務長は手をあげた。
「できます」
「…」
「オートクレーブがある」
 事務長は手術器具を入れ物ごと手にした。
「必要な器具があればすぐに消毒…」
「待って…オートクレーブはどこに?」
 事務長は親指を突き出す。
「歯科に」
 ウンジェは手術を決めた。




 海洋警察からヒョンに折り返しの電話が入る。
 ヒョンは答えた。
「30分後では遅いんです。もっと早くこれませんか? 一刻を争うのに」
 そこへウンジェが戻ってきた。
「歯科、内科、一緒に手伝って」
 ウンジェは手術着を医師らに投げつけ、ベッドの子供を抱き上げた。 
「手術をするのか」と老人。「孫は助かるんだな」
「…最善を尽くします」
 ウンジェは子供を抱いて出ていく。
 ヒョンは見知らぬ女医からいきなり指示を受けたのは不快だった。しかし、子供を助けたい思いは一緒だった。不快ながらも彼女の指示の確認でついていく。
 手術の準備はゴウンや事務長の手で進んでいた。ウンジェが子供を抱いてやってきた。手術台に寝かせた。
 ウンジェを追ってヒョンがやってきた。
「何をする気です?」
 ヒョンの話は無視し、ゴウンに訊ねる。
「手術助手の経験は?」
 ゴウンは答える。
「船に乗るまではオペナース歴15年です」
 ウンジェは手術器具を束ねた。
「よかった。消毒をお願い」
 ゴウンは受け取り、消毒にかけて戻ってくる。
「ウジン、お腹を見せて」
 ヒョンはウンジェの背後に立った。






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