雨の記号(rain symbol)

  韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(121)






  韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(121)


 部屋に入ってきたシワンにピルトは言った。
「ここに何の用だ。なぜ入ってくるんだ」
「・・・」
「俺は――今はお前の顔を見たくない」
「申し訳ありませんでした」
「出て行け。行け。見たくもない」
「・・・」
「出来るなら――お前もソンランもすぐに俺の家から追い出したい」
「・・・」
「母さんを思って我慢してるんだ。家では仕方ないが――当分は、俺が指示を出すまで、目の前をうろつくな。早く行け」
「・・・」
 ピルトは怒鳴った。
「聞こえないのか! 俺の気分が分からないのか?」
「・・・」
「出て行け。こいつが――早く出て行け!」 
シワンは空しくピルトのいる部屋を出た。


 ジェヒは訊ねた。
「電話をどうしてオフに?」
 クムスンは黙って答えない。
「もしかして・・・うちの母からひどい目に遭わされた?」
「・・・」
「母の性格上――ありえると思うから。そうなのか?」
「先生・・・私がなぜ――車の助手席に座らないのかを考えたことあります?」
「・・・」
「そこで――彼が・・・ジョンワンが・・・死んだの。私のせいなの」
「・・・」
「結婚してすぐの頃、義母と買い物に行って――迷子になったの。お金を持ってなくて、探しても家がわからず、不安で彼に電話したの。彼は大学生で地方にいたの。授業中で電話にでなくて、しつこく電話をかけて――最後のメッセージを残したの」
「・・・」
「”ジョンワンのバカ”――”電話をしてよ”――”お前のせいで”――”迷子になって”――”飢え死ぬわ”――そうやって、やっとどうにか・・・婚家に帰り着いたの。そしたら”ジョンワンが死んだ”と言うのよ」
「・・・」
「”彼が死んだ”って――」
「・・・」
「その後、数日は覚えていない。正気に戻った時には、火葬を終えて私の部屋だった。その時になって、携帯のメッセージに気がついた」
「・・・」
「彼だった。”クムスン”――”今、ソウルへ行くところだ”――”バカだな~”――”どこにいるんだ”――”心配するなよ”――”今、ソウルへ行く途中だ”――”じゃあ、2時間後にな”」
「・・・」
「メッセージの記録を見たら、事故に遭う30秒くらい前だったわ。彼が――助手席でそのメッセージを残して事故に遭ったのよ」
 クムスンの目から涙が流れ出す。
「義母が来るなと止めたのに・・・」
「・・・」
「その時から・・・助手席に座れないの。その席に座ると――彼が事故に遭う瞬間を思い浮かべてしまうの」
「・・・」
「覚えてますか? 何日か前、無意識に――あなたの車の助手席に座ってた。息子のフィソンが私のせいで父親がいないのに、義母は――私のせいで、今までずっと末息子の話を話題にできないでいる」
 ジェヒは言った。
「そんなの、話にならない――彼が死んだのはお前のせいじゃない。それはただの事故だ」
「違うわ。あなたがそんなこと――言う資格はないわ」
「・・・」
「あなたがそんな風に言ったら――彼にもっと申し訳ない」
「・・・」
「それに――あなたと別れる他の理由があるわ」
「・・・」
「私の夢は――美容師になって、私の力でフィソンを育てるの。あなたに会えば――夢のさまたげになる。私が・・・みじめになる。それが嫌なの。だからまず――美容師になるわ」
「・・・」
「だから、あなたに会えないわ」
 ジェヒはクムスンを見た。
「話は終わったか?」
「3つ目は――私には息子がいるの。名前はフィソンよ。ノ・フィソン。息子のためにも、他のことを考えたりはできないわ。4つ目は――婚家の家族です。家族と別になることは、想像もできない。5つ目は――」
「もういい」ジェヒは口を挟んだ。「もういいよ――その調子じゃ、俺を拒む理由が1万個はあるだろ?」
「・・・それほどじゃないわ」
「冗談を言う気分じゃない」
 クムスンはジェヒを見つめた。
「だけど――あなたに会えて、よかったわ」
「・・・」
「プロポーズも忘れないわ」
「ダメだ。笑わせるな。お前は俺と別れられない」
「私はできる。明日からは電話を受けない。道で会っても無視するわ。私は頭は悪いけど、決めたらやりぬくわ」
「俺を好きだろ。違うか?」
「・・・」
「好きなのに関係ないのか? 俺なしに大丈夫か?」 
「最初は辛くても、すぐになれるわ」
「慣れなかったら、どうする?」
「・・・」
「お前は知らないのさ。俺を愛してること」
「だからそれも今日までよ」
「・・・」
「今日まで会って、明日から忘れれば――すぐに慣れて大丈夫になる。だから、もう会わない。明日からは――あなたに会わない」
 二人は話も平行線のまま別れた。
 ジェヒはクムスンの代わりに苛立ちを乗せて車を走らせた。家に帰り着いてもしばらく車から降りなかった。

 ジェヒと別れたクムスンも家路の足取りが重かった。急いで帰る気も起こらず、少し道草した。ベンチに座って考え込んだ。
 今のこの気持ちを聞いてくれる者はどこにも・・・クムスンは携帯を取り出した。電話番号を表示した後、しばしためらった。、

 
 ヨンオクの携帯が鳴った。ヨンオクは電話に出た。
「もしもし・・・もしもし・・・?」
「クムスンです」
「・・・ああ、クムスンね――どこから?」
「家の近くです。無事に帰宅されたかと・・・」
「もちろん無事に戻ったわ」
 クムスンからの電話にヨンオクは嬉しくなっている。
「夕食は食べた?」
「まだです。家に帰って食べます。ただ無事かと思って・・・はい、それじゃあ――無事なら、いいんです」
 電話を切った後、クムスンは母親に甘えられなかった自分を嘆いた。
 クムスンの気持ちがうっすら伝わってくる気がして、ヨンオクは携帯を強く握りしめた。


「ただいま」ジェヒはミジャに帰宅を告げる。「早かったですね」
 ミジャは返事もしない。
「食事は?」
「・・・」
「俺はまだです」
 立ち上がって行こうとするミジャをジェヒは呼び止める。
「俺は結婚します」
 ミジャは振り向く。
「結婚?」
「ええ、結婚です。するつもりです」 
「狂ってるわ。1人で結婚ですって?」
「・・・」
「彼女が私と約束したわ。”あなたに会わない”と」
「強引にさせたのでは?」
「強引でも何でも、彼女は息子の名にかけ約束したわ。”2度と会わない”と」  
「・・・」
「あなた――息子の名で約束する意味が分かる?」
 ジェヒは顔色を変えた。
「彼女に何をしたんだ! どんなひどいことを? もしかして叩いたのか?」
「ええ、したわよ。それだけだと?」
「母さん!」
 ジェヒが怒鳴るとミジャも興奮した。
「誰に向かって・・・」
「母さん、どうしてなんだ。なぜ、彼女に手をあげるんだ」
「当然よ。私の店で、それも特別に目をかけてあげ――育児手当を受け取りながら、隠れて息子に会ってたのよ」
「俺がつきまとったんだ。俺が好きだとつきまとい――やっとのことで俺に目を向けさせた。全力を尽くして、生まれて初めて俺が好きだと告白した」
「それがバツイチの子持ちだと? 本当に愚かだわ」
「バツイチの子持ちが何だ。母さんは子持ちの未婚の母じゃないか。寡婦は法的にも道徳的にも・・・」
 ジェヒにズケズケ言われ、ミジャは悲しさと悔しさで震えだし、メソメソしだした。
 ジェヒは言い過ぎたと感じた。
「母さん・・・母さん・・・」
 ミジャは部屋に引っ込んでしまった。
 母を罵倒したジェヒも自分が惨めで悲しくなった。母の苦労を見て育った自分だ。
 ジェヒは母の部屋のドアを叩いた。
 ミジャは悲しさと悔しさに沈んでいた。
「母さん・・・言い過ぎました。失言でした。本心じゃないよ」
「本心じゃないのにあんな言葉が?」
「母さん」
「あなたは1度も私にその話をしなかった。叔母から聞いて知りながらも、1度も言わないからありがたかった。でも、一方では胸が痛んだわ。だけど――初めて口にしたのがさっきのあの瞬間よ。笑っちゃうわ。クムスンの肩を持つためなら、一番の弱点をついてもいいの?」
「・・・」
「感謝するわ。生涯、結婚もせず――あなたを育てた甲斐を骨の節々まで冠知るわ」
「母さん」
「私も人間だから――彼女の息子を利用して後ろめたかったけど、あなたが一瞬でその気持ちを吹き飛ばした。ありがとう」
「母さん」
「もう行って。少なくとも、この瞬間、あなたを諦めなかったことを後悔してるの」
 ジェヒは何も言わず部屋を出ていった。 


 サンドはテワンを肴に飲んで酔いつぶれてしまった。

 泥酔したサンドを背負って家に入ってきたのはテワンだ。家族の誘導でテワンは部屋までサンドを運びあげた。
 亭主を部屋まで運びあげてもらってから、スンジャはその人間がテワンだと気付いてびっくりした。
「あらまー、これは婚家の次男じゃないの」とジョムスン。
 テワンは畏まった。
「こんばんは」
 スンジャはプイとソッポを向く。
「もういいわ」
「何を言うの」とジョムスン。「暑いのに苦労しておぶってきてくれたのに。それはいけないわ」
 テワンの肩をたたく。
「まずは冷たい水でも飲んで」
「いえ、遅いので帰ります」
「何を言うのよ」
「そうね。早く帰らないと」
「はい。失礼します」
 仕方なくクマも言った。
「帰って、テワンさん」


 食事している時、キジョンは言った。
「ウンジンには話してないだろ?」
「はい。ウンジュの問題が解決してから」
「そうだな。それがいいだろう。ウンジュに美容室を移るように言った。従うかどうか分からない」
 ウンジュが食堂に入ってきた。椅子に腰をおろして言った。
「ええ、移らないわ。なぜ私が辞めるの? クムスンを辞めさせて」
「・・・」
「ママ。クムスンに話した? 彼と別れるって?」
「ウンジュ、何を言うんだ」とキジョン。
「変な子よね。院長にバレても美容室を辞めない。バレたら首になると思ったのに」
「院長が何を知ったの?」
「何だと?」
「クムスンとジェヒの交際?」
「”クムスン”? 情がこもってるわ。”クムスン”ね」 
「・・・」
「そんな大事な娘を20年もほっといたの?」
「・・・」

 ピルトは工事現場の仕事を終え、帰路につこうとする。
 そこに携帯が鳴った。
 電話をかけてよこしたのはパクさんだった。
「・・・はい」
「仕事は終わりましたか? 今日、会えますか」
「用があってダメなんです。これで失礼します」
 電話をすませ、行こうとするピルトの前にパクは姿を現した。
「入り口で電話させてもらいました」
「・・・」
「私とは会わないつもりで? もしかして長男の嫁が何か言いました?」
「・・・」
「そうですか――何と言いました?」
「・・・」
「私が前の義父だと言いました?」
 ピルトは小さく頷いた。
「はい、言いました。それでいいですか?」
「・・・」
「あなたは気の毒な方ですね。そのために――わざわざここに? お帰りください。再び会いたくないですな」
「・・・」
「お先に」
 歩き過ぎようとするピルトの横にパクは身体を寄せた。
「あいつを許すんですか?」
「バツイチの子持ちが、初婚と偽り結婚したのに・・・それを許せると?」
「パクさん」ピルトは彼を見た。「あなたの関与することじゃない」
 パクはすかさず言った。
「息子がいるんですよ」
「・・・」
「私の孫だ。なのに初婚として結婚した。結婚前をご存知で? 雑誌の取材では”未婚”だと言った。母親だというのに、少しでも良心や常識がある女なら――そんなことをすると?」
 ピルトはパクを睨んだ。
「あなたも、とても現実的な方なんですね。それは、あいつが金をよく稼ぐからでしょ。金を稼ぐ嫁だし、バツイチだろうと子供がいようと関係ないと?」
 ピルトは怒りをこらえた。
「そういうことに」
 行こうとするピルトにさらに皮肉っぽい言葉と飛んでくる。
「やっぱりソンランは賢いな。稼げるからと図に乗って・・・」
 ピルトはパクにつかみかかった。
「黙れ。お前がなぜ嫁を侮辱するんだ」
 パクの顔に思い切りパンチを見舞った。

 クムスンはフィソンの髪を染めた。その髪を見てジョンシムは喜んだ。
「まあ、かわいい」
「言った通りでしょ。1度で合格したのは私だけなんですよ」
 ジョンシムはフィソンの髪に手を伸ばした。
「ほんとにかわいいわ。ムダじゃなかったわね」
「本当ですか」
「ほんとよ。最高よ。文句なしよ。フィソン最高だわ」
「何をいまさら・・・フィソンはもともとカッコよかったわ」
「そうだわね。フィソンも見て、いい? カッコいい? 見える?」
「フィソン、どう? 気に入った? かわいい」
 そこにシワン夫妻が帰ってきた。
「お帰りなさい。ほら、フィソンを見てください」
「やあ、髪を染めたのか、フィソン」
「はい、ブリーチしたんです。お義姉さん、どうです? とてもカッコいいでしょ?」
 頭を撫でてジョンシムは言う。
「フィソンは美男よね」
 気の乗らない声でソンランは言った。
「いいですね」
「食事はすませた?」
「はい。父さんはまだですか?」
「遅くなるとの連絡もくれず、遅いわね」
 この時、電話が鳴った。ジョンシムが出た。
「もしもし・・・はい、そうですが・・・はい、夫です。どちら様?」
「警察です」
「はい、それで――何ですって? 夫が?」





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