韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(106)
クムスンへの連絡をすませたジェヒはクムスンを食事に誘った。
だがクムスンにはウンジュとの約束がある。
「今日は先約があります。はい」
携帯を閉じたクムスンはウンジュを見た。自分を見ていたのに気付いたからだ。
しかし今度はウンジュが目をそらした。
スンジャがジョムスンの前に食事を運んでくる。
「少しでも食べてください。食欲がないようなので鶏のお粥にしました」
「食べたくないわ」
「誠意と思って召し上がって。でないと、そのうち病気になってしまいます」
ジョムスンはスプーンを握る。握っただけでため息をつく。
「食べられない。食欲がわかないの」
「なぜです」
ジョムスンを見、スンジャもため息をつく。
「解決したんですから、気を楽に持ってください。ヨンオクさんも手術をしないで姿を消すと言ってたんだし」
「姿を消すまでは信じられないよ。それまでは安心できない」
「お義母さん・・・ヨンオクさんが悪い人じゃないのはご存知でしょ」
「知らないわ。子を捨てる女が悪い人じゃないと?」
「それはそうですけど・・・」
「それなのにあんな病人の姿で現れるなんてどうかしてる。今回のことでどれほどクムスンが傷ついたか。考えれば考えるほど・・・いつからだったか――夜ごと、嫌な夢ばかり見たんだ。もう、あの世が近いのかと思ったら・・・あの女のせいだったのね。ああ、何と言ったらいいか――今までクムスンが――誰にも言えず、1人で悩み苦しんだのを思うと、どんなに憎くて悔しかったかしら」
「・・・」
そこにクマに声がした。
「早かったわね。冷める前に食べて」
クマは居間に上がってきて腰をおろした。
ヨンオクは昼間見たクムスンの子供を思い出している。ヨンオクの顔は歪む。罪悪感に苛まれながら、泣いているうち気を失ってしまった。
ジョンシムは勉強しているピルトに言った。
「ソンランだけど・・・」
円卓に額をぶつけてピルトは顔を上げた。
「ああ・・・本を読み出したらなぜか眠たくなる」
ジョンシムは顔をしかめている。
何か言われたのに気付き、ピルトは訊ねる。
「ソンランがどうしたって?」
「もう、それはやめて」とジョンシムはウンザリ顔になる。「他のことを習ったらいいじゃないの。あなたと本は不釣合いなのよ」
「わかったから、ほっといてくれよ」
「おこることないでしょ」
そこにシワン夫妻が帰ってきた。
「あなたたちここに座って。話があるの」
二人は円卓の前に腰をおろした。
「ソンランも父さんに話があるんです」とシワン。「じゃあ、母さんからどうぞ」
「いいの。ソンランから話して」
シワンはソンランに促す。
「お義父さま――先輩の建設会社で来週から工事が始まるんです。それで3~4ヶ月間、現場監督が必要なんですが」
「ん?」
ピルトの眠気は覚めた。
「いかがですか?」
ピルトはジョンシムと目を見合わせた。意外な話にジョンシムも驚いている。
シワンが話を補足する。
「規模も小さめだし、給料も前の会社より少ないだろうけど」
「そんなの関係ないぞ」
ピルトは首を振った。
「俺に必要なのは仕事で規模や給料は無関係だ。自分を必要とするところに出勤することが第一さ」
ジョンシムは嬉しそうにピルトの話を聞いている。
「では父さん、やってみますか? ソンランがもう話をつけておきました」
「もちろんやるよ」
ピルトは子供のように喜んで見せる。ジョンシムも賛同する。
「当たり前じゃない」
「ソンラン、ありがとう」
「話を受けていただき、私も嬉しいです」とソンラン。
ジョンシムは笑顔で言った。
「あなたって周りの人にも恵まれているのね」
ソンランたちは顔を見合わせ頷きあった。
「お義母さんのお話は?」
「私のは大したことじゃなくて・・・ちょっと気になって気楽に聞いてほしいの。ソンランもシワンもそうだけど、若くないのになぜ子供を先送りに?」
「それはそうだな」とピルト。
ソンランがはにかみながら答える。
「1年くらいは新婚で過ごしたいんです」
「ええ、分かるわ。新婚気分を味わうのもいい。でも年齢を考えるとね」
「そうだよ、ソンラン。年を考えれば早い方がいい。初産が遅いと――産婦にもよくないし、早い方がいい」
「・・・」
「最近、新聞を読んだら、不妊が増加する原因も、遅い結婚と遅い初産にあるそうだ。特別な理由がなければ、1人目は出来れば――出産を急いだら?」
ソンランはシワンを見て動揺する。
「分かったわね、ソンラン?」
「分かりました」
明るい声で答えながらもソンランは動揺を抑えられない。
やや興奮気味に部屋に戻るとテワンがビデオを見ていた。
「早かったな。居間が占領されてて」
ソンランは言った。
「少し出てくれませんか?」
「何で?」とシワン。
「話があるんです。出てください」
「少し出てくれ」とシワン。
テワンが出ていくとソンランは訊ねた。
「お義父さまの話、どういうこと?」
「・・・」
「もしかして知らないの? 話してないの?」
シワンは大きく息を吐いた。
「シワンさん」
「そうだ。知らないよ」
「何ですって?」
「すまない」
一瞬、シワンをにらみ、バッグを握ってソンランは部屋を出た。そのままピルトたちを気にしながら外に出ていった。
シワンは家族に声をかけ、ソンランを追いかけるようにして出ていった。
食事が運ばれてくる。
「どうぞ」
「はい」
「クムスンさん、緊張してる?」
「はい、少し――今日は何か?」
「緊張しないで。嫌な話じゃないわ。気楽に話すわね」
「はい」
「私は気難しくて、誰ともすぐには仲良くなれないの。あなたも観察中だったけど――クムスンさんは誠実で楽しく一生懸命で、何より才能がある」
「・・・」
「だから、クムスンさんが気に入ったの。一人前にしてあげる」
「・・・」
「なぜ? 意外だった? ――確かに居間まで、厳しく接してたわね」
「いいえ。私がよく失敗をしたから」
「副院長として容赦なく接してるけど、個人的には苦労を分かってるの。本当に大変でしょ。1人で子育てと仕事の両立だし」
「・・・」
「辛く当たってきて、ごめんね」
「いいえ。副院長として当然のことです」
「わかってくれてありがとう。食べながら話そう」
二人は食事に手をつける。
「子供は3歳よね?」
「はい」
食べ物を口に入れてクムスンは答える。
「可愛い頃ね。食事中は楽しい話だけしましょう」
「・・・」
ほとんど食事に手をつけず、ウンジュは矢継ぎ早に話をする。
「シングルはやっぱり恋愛話かしら? ――クムスンさん、彼氏はいる?」
少し考えクムスンは答える。
「いいえ」
「いないの? 付き合ってるとか、好きな人は?」
「いないです」
ウンジュはちょっと疑うような笑みを見せる。
「いそうに思えるけど」
笑いを返しながらクムスンは答える。
「本当にいません」
「そうよね。仕事で忙しいものね」
「・・・」
「じゃあ――再婚は考えてないの?」
「ええ。まだ一度も考えたことがありません」
「・・・旦那さんとの生活は?」
さすがに答えかねていると、ウンジュは謝った。
「あら、ごめんなさい。余計なことを聞いちゃったわね。取り消し。質問ばかりだから、今度は私の話をしようか?」
「はい」
「私には彼がいると思う?」
「よくわかりません」
「私に興味がないのね。私には――愛する人がいるの」
「そうですか。どんな方ですか?」
「あなたも知ってるわ」
「・・・」
ウンジュの携帯が鳴った。
「ええ、パパ」
「・・・」
「えっ! 集中治療室? またどうして――意識はあるの? ウンジンが? ええ、すぐ家に行くわ。ええ。心配しないで」
ウンジュは携帯を切った。
「食事してるのにどうしよう? 私、用事が出来たから行かないと」
「私は大丈夫です。早く行ってください」
「今日はごめんなさい。行きましょう」
「はい」
クムスンも母が心配になりだしていた。今の状態を少しでも損ねると手術もできない身体なのだとクムスンも知っている。
クムスンはバス停にやってきた。美容室にやってきた母を思い浮かべた。自分の冷たい態度が母の体調に影響を与えたかもしれない。クムスンの気持ちは沈んだ。自分を責めた。
クムスンは腰を上げた。意を決し、病院に向かった。
エスカレーター
に乗った時、ジェヒから声がかかった。彼はエスカレーター
で降りてくるところだった。
「どうしたんだ、こんな時間に?」
クムスンは黙っている。
「どうしたんだよ」
二人はエスカレーター
上で交差した。
「お帰りですか? さようなら」
下におりたジェヒはすぐ上りのエスカレーターに乗った。クムスンの後を追った。
エスカレーターが上がりきったところでクムスンの腕をつかむ。
「質問に答えろよ。何しに来たんだ?」
「集中治療室にいると・・・そうなの?」
「どうして知った?」
「本当なの?」
「ああ」
「また意識がないの?」
「ああ」
「・・・」
「行こう」
「・・・」
「ここでお前が何をすると?」
クムスンはジェヒをにらみつけ、歩き出す。
ジェヒは背中に向かって言う。
「行ってもムダだ。今は面会も出来ない時間だ」
クムスンの足が止まる。ジェヒを振り向く。
「面会は出来ないんだ。だから帰るんだ。連絡してやるから」
「だったら、先生が面会できるように頼んで」
「嫌だ」
「お願いします」
「嫌だ――会ってどうする? 心配になるだけだろ? 心配で移植すると言い出すだろ。だから嫌だ」
「・・・」
「他はどうでもいい。お前のことだけ考える」
「・・・」
「気に入らなくてもいい。冷たくて自分勝手でも――守りたいものだけ守る。俺の大事な人だけ守る」
「・・・」
「だから諦めろ」
「チャン先生に頼むわ」
「・・・!」
「そうしていい?」
ジェヒは黙っている。
「分かったわ」
クムスンは歩き出す。
ジェヒは呼び止めようとする。
「こら待て、性悪の白菜。俺の言うことを聞かないつもりか?」
クムスンは構わず歩いていく。
ジェヒは折れた。
「分かった。分かったから止まれ」
ジェヒはクムスンに追いつく。
「そうじゃないんです。意識がないから――分からない時に、ただ顔だけ見たいだけなんです」
「・・・」
「ただ・・・顔だけ見て出てきます」
「分かった。ついてこい」
ジェヒに伴われ、クムスンは集中治療室に向かう。離れた場所からそこをうかがう。
ウンジンが長椅子に腰をおろし心配そうにしている。そこにウンジュが現れる。クムスンは身を隠す。
ウンジュはウンジンの横に腰をおろした。
「ウンジン、また泣いてるの? ママはすぐ元気になる。いつものことよ。だから泣いたりしないの」
「・・・」
「ほらまた――泣いたらママが嫌うわよ」
「ママがあまりにかわいそうだから」
ウンジンはグスグスと泣く。ウンジュはウンジンの髪をなでる。
「泣かないの。ほら、もう泣かないの」
様子をうかがい続けていると、中からキジョンが出てきた。
クムスンらはさっと身を隠した。
キジョンは二人のそばに歩み寄る。
「行こう。ウンジン、もう泣くな。駐車場まで送る。行こう」
三人はクムスンらの方には来ず、クムスンらと反対側を通路を歩いて遠ざかる。
家族たちの姿を見て、クムスンは複雑な心境だった。
キジョンらが引き揚げた後、クムスンは無菌無塵衣を着て集中治療室に入った。そろそろと歩き、ヨンオクの前に立った。
クムスンの母はいつ息が耐えてもおかしくない姿で昏睡を続けている。
――こんな姿を見せたくて私を捨てて行ったの? こんな姿を見せたくて、赤ん坊を捨てたの? 何て姿よ。幸せに暮らせなかったの? 子供にも気付かず、子供に敬語まで使って・・・。
クムスンは母の手にそっと手を伸ばした。触れようとした時、ヨンオクは目を開けた。
目を開けた母にクムスンは驚く。ヨンオクも驚きは一緒だった。ヨンオクはクムスンを求め、大きく眼を開く。その目、その表情にクムスンはたじろいだ。とっさに背を向けた。必死で手を伸ばそうとするヨンオクをよそに、気持ちの奥で燃え滾る憎しみに引っ張られ、クムスンは逃げるように外へ出ていった。
ジェヒは自分の前を通り過ぎたクムスンの後をあわてて追った。
「白菜、まて。待てよ、白菜」
ジェヒの声が近づくとクムスンは走り出した。ジェヒからも逃げるように走り、トイレに飛び込んだ。そこで自分の動揺と混乱を鎮めた。
便座のフタをおろしてすわり、やっと息をついた。
クムスンを見失ったジェヒは病院の外に飛び出した。
辺りを見回し、携帯を取り出した。
携帯は通じない。ジェヒは車に乗り込んだ。クムスンがどこへ行ったかに思いをめぐらした。
やっぱり携帯は通じない。
どうしたものか思案に暮れていると携帯が鳴った。
「もしもし、今どこだ?」
「私の電話を待ってたの? 珍しいわね。私は家よ。あなたは?」
ジェヒは渋い顔で携帯をにらみ付けた。
「ねえ、ジェヒ、聞いてる?」
「はい、母さん。病院だよ。当直じゃないけど、セミナーの準備中なんだ。いつ、帰れるか分からないよ」
「そんなに仕事づけじゃ身体を壊すんじゃない? 適当に切り上げて帰ってきなさい。たとえ少しでも、家でゆったり眠らないと。心配するのは当然でしょ」
「はい。分かったよ。忙しいから電話切るよ」
動揺を鎮めたクムスンはステーションにやってきた。スタッフに声をかけた。
「チャン先生の奥さんは病室にいますか?」
「はい。先ほど意識が回復して、今は病室に」
クムスンは礼を言ってヨンオクの病室に向かった。
ためらいを制して病室のドアを開けた。
ヨンオクは眠っていた。クムスンはベッドに近づく。
人の気配にヨンオクは振り返る。
クムスンも今度は母から逃げない。目をそらさない。厳しい表情をヨンオクに向けた。
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