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韓国ドラマ「シグナル」から


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★韓国ドラマ「シグナル」より



 韓国ドラマは好きなのだが、時間を奪われるのがいやで、平日はなるだけ1日1本(1時間)と決めて視聴を抑えてきた。
 だが、「シグナル」に触れていい意味でリズムを壊された。逆らってもかえってストレスをためていきそうである。ならば我慢するより欲求に従うことにした。
 若い頃のありあまる体力は我慢に向いている。しかし、年取っての無理は健康を損なうだけなのだ。
 続きを追って見るドラマが増えたのは、「シグナル」に出会ってしまったからと言える。
















 過去にもそういうドラマは幾つかある。
 「冬ソナ」をスタート台に、「チャングムの誓い(2003年)」「美男(イケメン)ですね(2009年)」「朱蒙(チュモン2006年)」などがそうだった。「朱蒙」は、チャン・グンソクをスターダムにのし上げた、「美男(イケメン)ですね」より、2~3年早く韓国で放送されている。だが、「美男(イケメン)ですね」をきっかけに韓国ドラマを片っ端見るようになって知った長編傑作だった。
 
 今回は「シグナル」のおかげで目につく韓国ドラマを片っ端に見始めているわけである。
 ざっと挙げると、チェ・ジウ主演の「怪しい家政婦」、チョ・スンウとイ・ヨウォン主演「馬医」、ハン・ジヘとヨン・ジョンフン主演の「金よコンコン出てこい」、チソンとヘリ主演の「タンタラ」、チ・チャンウクとユナ(少女時代)主演の「THE K2」を毎日追いかけて見るようになった。せいぜい2作くらいを追ってきた自分にはとんでもない数となった。
 これくらいのエネルギーが湧かないと長編ドラマにはなかなかチャレンジできない。「シグナル」は16話の短いドラマだが、「朱蒙」のような長編傑作にも出会えるのであろうか…?


 「シグナル」は評判以上の出来栄えだ。ストーリーの流れ、演出、役者陣の熱の入った演技などがOSTを含めどこに出しても恥ずかしくないほどの仕上がりである。
 数ある韓国ドラマの中でも自分にとり、「10本の指」、いや、「5本の指」には間違いなく入る傑作に飛び込んできた。

 社会派ミステリーのヒューマンドラマは韓国で人気はあまりないという。ヒューマンスタイルのドラマはしばしばお涙ちょうだい的な安っぽい通俗に落ち込んでしまう。大統領経験者がことごとく汚名にまみれる厳しい現実を抱える韓国にとって、安っぽいヒューマンドラマなどつばを吐きたくなるだろう。見向きもしたくないかもしれない。
 だが、「シグナル」はそのへんで飽きさせない工夫が施されている。

 このドラマの奥深くで不適な笑みを浮かべているのは、善良な選挙民を上手に操って得た地位を利用し、世の中を私物化している者たちである。彼らは巨悪の連鎖と組織を構築し、世の中を思いのままに操る術を得てしまっている。
 この組織の特徴はトップダウン(上位下達)である。上から清らかな水を流したら下々までその水は行き渡るものの、どこかの流れは滞って濁る心配もある。
 「シグナル」は濁った流れを私欲で膨らませている巨大組織とそれにゴマすって流されてる者たちと戦う少数の勇者たちの姿を描いている。
 登場人物に扮した役者たちのリアリティ溢れる演技、多様の視点で時間、場所、登場人物の心理を織り込んだスピーディな演出によって、息をつかせない迫力とスリリングな展開を生んで痛快である。部分的には辛く悲惨な場面が多い。しかし、それにもかかわらず全体としては不屈で前向きのエネルギーが感じられる。主人公3人の巨悪に立ち向かう一途な姿に次第に心打たれるものを覚えてくる。
 現在が未来を変えるんじゃなくて、過去が未来を変えていく。不思議な設定に思われるが、過去の人物として登場するイ・ジェハンの立場からこの物語を追っていけば鮮明にテーマは見えてくる。

 大統領に上り詰めた者の専横もイ・ジェハンの不屈の頑張りによって牙城の足元が崩れていってるように見えてくるではないか。
 
 ラストシーンは数あるドラマの中でもっとも好きなひとつとなった。

 イ・ジェハンが潜んでいる場所を知って車で現地に向かうパク・ヒヨンとチャ・スヒョンの二人は決して急いではいない。焦りは微塵も感じられない。イ・ジェハンは負けない、倒れない、捕まらない、の熱い思いと深い信頼が感じられる。
 一方、巨悪の乱暴な捜索ぶりには15年間イ・ジェハンを捕まえられなかった焦りの濃さが感じられる。
 心の澄んだパク・ヒヨンとチャ・スヒョン二人との対比が鮮やかである。

 パク・ヒヨンとチャ・スヒョンは比較的自由に動き回れるようになっている。
 そのへんから大統領に上り詰めた黒幕の終末が近いと感じ取ることもできよう。
 自分の見る限り、巨悪のたそがれが感じられるハッピーエンドのラストである。






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