雨の記号(rain symbol)

韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(127)





韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(127)


「誰、息子ですって?」
 ジョンシムは訊き返す。
「はい」 
 頷いてソンランが答えようとするとシワンが口を挟んだ。
「宗教的な話だよ」
 ソンランはシワンを見た。
 ジョンシムもシワンの次の言葉を待つ。
「カトリックでは代母とかあるだろ。ソンランが言ったのは代子ってことだよ」
 ソンランはシワンの言葉に不快感を見せたが、ジョンシムはその話を面白いと感じたようだ。
「そうだったの――びっくりさせないで」
 せっかくの機会を失ったソンランは黙り込んでしまった。
「これから父さんに会うから私は行くわね」
 ジョンシムは部屋を出て行った。
 
 ジョンシムが出ていくなり、ソンランはシワンを睨みつけた。

 部屋に戻ってきたジョンシムだが、冷静さが戻ると二人の様子は変だったと感じた。
「息子? 代子って何よ・・・最初は従甥や息子と言ったかと思ったら――代子に変えるなんて・・・」
 考え込んでいたら携帯が鳴った。
 ピルトからだった。
「俺だけど、どこだ」
「まだ、家にいるのよ。すぐ出るわ。どこへ行けばいい?」

 シワンとソンランは外へ出た。
 近くの公園で話し合いをした。
「従甥って何よ――挙句の果てには代子?」
「・・・お前が当惑して話せずにいたから――助けただけなんだ」
「いくら当惑しても母親は子を偽らないわ。なぜ、そんなひどいことが言えるわけ? あなたが何? そんな資格がある?」
「・・・」
「しかも、”助けた”と? 私が動揺して口を割らないか恐れてただけでしょ――違う?」
「なら、言うよ。お前こそ、よくもあんな風に言えたな。重大な話だというのに」
「きっかけは誰よ。従甥という言葉に反応しただけよ」
「当惑してたからとっさに言ったのさ。俺も戸惑ってたんだ」
「笑わせないで――他人の息子だから見捨てただけよ。自分の子だったらあんなこと言わない。思いつかないもの」
「・・・」
「バレないために――隠したかっただけだわ」
「ああ――あの場では知らせたくなかった。それで浮かんだのが・・・代子という言葉だ。ごめん。従甥や代子と言って悪かったと思う」
「・・・」
「戸惑って無意識に言ったのさ。無意識に」
「・・・私の心情が分かる? ひどい人」
 ソンランはそう言って背を返した。

 
「何の話か話してちょうだい。美男子の先生が私に話があるなんて――何の話かしらね。想像がつかないわ」
 ジェヒはいきなり正座した。
「おばあさま」
「はい・・・」
「私はクムスンさんを愛しています。クムスンさんと結婚したいです」
 ジョムスンは口をあんぐりとする。
「いったい、何と言ったのかしら・・・?」
「クムスンさんと結婚したいんです」
 ジョムスンはあっけに取られる。
 スンジャが言った。
「突然、うちのクムスンと結婚したいだなんて・・・あなた――お医者さんだったかしら?」
「挨拶もせず失礼しました」
 ジェヒは立ち上がった。深く頭を下げた。
「初めまして――叔母さんですね。私はク・ジェヒと申します。韓国大学病院の一般外科におり――もうすぐ専門医に」
「分かったわ。とりあえず座って」
「ええ、そうして」
 ジェヒは腰をおろした。スンジャは感心した。
「何と足の長いこと・・・クムスンと結婚したいですって?」
「はい・・・」
「じゃあ、ずっと交際してたの?」
 ジェヒはクムスンをちらと見て答えた。
「つきまとってただけで、本格的な交際は最近です」
「・・・」
「先日、プロポーズしたら――結婚する気はないと断られてしまいました」
「・・・」
「だから来たんです。説得するために力を貸してください」
「どうしたものか・・・」
 ジョムスンはスンジャを促した。
「何してるの――ほら、お客さんに冷たい物でも出して」
 スンジャは立ち上がり、ブドウとスイカ、それに飲み物を出してきた。
「さあ、飲みなさい。喉が渇いたでしょう」
 一息ついて、ジョムスンは訊ねた。
「つまり・・・クムスンにプロポーズして断られたと?」
「はい」
「なるほど・・・とにかく――孫に好意を持ってくれてありがたいわ。でも、孫は私に似て面食いなのよ」
「はい。私もそう思います」
 スンジャは目を丸くする。
 ジョムスンは言う。
「ところであなた・・・どう見ても未婚に見えるのだけど」
「はい、独身です」
「本当? 一度出て戻ったとか・・・」
「どこへ・・・? あっ、いや――結婚はまだです」
「それなのにクムスンと結婚したいと?」
 スンジャはジョムスンと目を見合わせた。
「はい」
「申し訳ないけど、突然、話を聞いたもんだから・・・」
「すみません」
「いいえ、かまわないの。聞きたいのは――どうやって知り合ったかよ」
「はい――彼女の職場は母が経営する美容院です」
「あらまあ・・・」
「あそこは立派な店だったわ」
 ジョムスンは咳払いした。
「親御さんは両方とも健在なの?」
「いいえ。母だけです」
「ああ・・・お父さんとは死別?」
「・・・」
「ご兄弟は?」
「私はひとり息子です」
「いくつ?」とスンジャ。
「30歳です――おばあさま。ぜひご協力を。じつは・・・もう電話するするなと言われたんです」
「・・・」
「彼女はご主人の死に罪悪感を抱いています。だから、再婚はもとより、嫁ぎ先を出る気もありません」
「・・・」
「彼女も私を思ってて――私の独りよがりではなく、両思いなんです。それはまちがいありません」
「・・・」
「彼女の心を変えようとしました。でも会うだけで――苦しませないでくれと・・・方法が見つかりません――おばあさま・・・私を助けてください。どう説得すればいいのか分からないのです。助けてください」
 ジョムスンはジェヒについて出てきた。
「もう戻ってください」
「ええ・・・」
「またお伺いします」
「ええ。ところで念のために聞くわ。クムスンに・・・子供がいるのをご存知で?」
「はい、知ってます」
「そう。お母さんも理解してくれてるの?」
「先日、母にも話しました」
「孫の境遇もみんな?」
「もちろんです」
「そうしたら?」
「まだ難しいです。でも、ご心配なく」
「ねえ――本当に結婚する意思が?」
「はい」
 ジェヒはきっぱり答えた。

 仕事を終えてクムスンはフィソンを迎えにやってくる。
「仲直りした友達はどこ?」
「帰った」
「帰ったの? フィソンとその子のためにアイスを買ったのにね・・・ではママと食べながら帰ろう」
 二人でアイスを食べながら保育園を出る。
「おいしい?」
「おいしい」

「ただいま~。フィソンですよ~」
「お帰り~」とテワン。
「お義兄さん、早かったですね。私も早く終わりました。お義母さんは?」
「父さんと食事だって」
「じゃあ、今夜は3人だけですね。では、いつもと違う物のします? ジャージャご飯やカレーライスとか」
「フィソンに聞いてくれ」
「お義兄さん、ずっと怒り続ける気ですか?」
「・・・」
「フィソン、ジャージャご飯? それともカレーライス?」
「ジャージャご飯」
「分かったわ。ジャージャご飯作るわ。伯父さんと遊んでて。お願いします」
「フィソン、来い。一緒にテレビ見よう」

 キジョンとヨンオクが車からおりると家の前にミジャが立っている。
「こんばんは」
 ヨンオクのていねいな挨拶にミジャは気のこもらない返事をする。
「どうもお久しぶりです」
 キジョンも丁寧に言葉をかける。
「はい。では」
 ミジャは軽く頭を下げた。ヨンオクをちらと見て歩き去った。

 二人の前を通り過ぎたミジャは息子の言葉を思い出した。

――彼女には親がいる。チャン先生の奥様の娘なんだ。先生と出会う前に産んだ娘さんだよ。

 部屋に入ってきたヨンオクは思案に沈んだ。
「院長のことか? 気付いてるようだな」
「ええ。あの表情は間違いなく知ってるわ」
 ウンジュが冷蔵庫のところにやってくる。飲み物を取り出す。
「あら、早かったのね」
「はい」
 ウンジュは返事だけして戻っていく。

 ピルトたちは寿司店に来ていた。二人はカウンター席を取った。
「違った雰囲気でいいだろ」
「ええ。デートしてる気分だわ。先の教えておいてよ。また焼肉だと思ってこんな服で来ちゃったわ」
「食事によって服装が違うのかよ」
「もちろん。時と場所によって変わるんだから」
 二人は酒を酌み交わす。
「工事があと1ヶ月で終わる。そうしたら辞めようと思う」
「・・・」
「お前と一緒に旅行したり、山登りもしたいし――習い事とかも楽しまんとな。今まで働いたからもういいだろ」
「だけど・・・やっと就職できたのに」
「分かってる。だが先延ばしにしててできなくなったら困る」
「・・・」
「人生ってわからんだろ。病気になることも」
「病気なの?」
「そうじゃないさ」
 ピルトは笑う。
「うかつなことも言えんな。そうじゃなく、むなしくなった」
「・・・」
「仕事一筋で懸命に生きてきたんだが――いったい、これは・・・何のためかと」
「・・・」
「お前と一緒に外国にも行きたい。子供より夫婦が大事だ」
「・・・急にどうしたの? 何か問題でも?」 
 ピルトは少し酒を飲んだ。
「何もない。60年以上生きたら空しくもなるさ」
「そうね。私なんか、毎日、空しいもの――あなたは遅いわね」
「そこでだが・・・家族の世話は大変だろ。だからシワンを――独立させよう」
「・・・」
「判断を誤った。無理を言ったよ。お前の苦労も顧みずに」
「・・・」
「1年は満たしてないがな。秋前に家から出し――気楽な余生を送ろうじゃないか」
「・・・」
「お前は同居に反対だったからうれしいだろ。不満はないだろ」
「・・・急にどうしたのよ? 何だか突然すぎるわ」
「お前に苦労させたくない。ソンランがいても家事をしないんだし――クムスンは出せない」
 ジョンシムはピルトをまっすぐ見た。
「正直に言って。何か隠してるでしょ。でしょ?」
「何もないさ。本当に他意などない」

 ジョンシムはトイレにやってきて考えた。自分の思いを整理した。
 どう考えても夫の様子はおかしい。何かあるとしか思えない。
 ジョンシムの脳裏にソンランの言葉が蘇った。

――いいえ、従甥ではありません。私の息子です。息子です、お義母さま。

 シャワーを浴びさせ、テワンはフィソンを連れてくる。
「フィソンの着替えは?」
「緑の縞模様のTシャツにしてください」
「行こうか」
 テワンはフィソンを連れてクムスンの部屋に入る。
 Tシャツを探しているとクムスンの携帯が鳴った。
 テワンが出た。ジェヒからのメールだった。

――近くの公園に来てる。話があるから30分だけ時間をくれ。やってくるまで待つ。

「見つかった・・・」
 クムスンが顔を出す。クムスンの携帯を握っている時だった。
 テワンは携帯をクムスンに渡す。
「会わないはずじゃなかったのか」
「会いません」
「それなのにこいつは何だ」
「本当に会いません」
「そうか。なら俺が行こうか? 二度とうろつくなと代わりに言ってやるぞ」
「・・・」
「ずっと待たせられないだろ」
「待ちくたびれたら帰りますよ」
「そうやって甘いからヤツがつけ込んでくるんだ」
「お義兄さん・・・」
「お前は弟の名に誓ったんじゃないのか?」
「会いませんって。本当ですよ。なぜ信じないんですか?」
 テワンはそれ以上言わず部屋を出ていった。
 また携帯が鳴った。クムスンはバッテリーを外した。

 テワンはドアを開けクムスンの様子をうかがう。クムスンは座り込み、頭を抱え込んでいる。


 サンドとクマが仕事から帰宅する。
 スンジャは夫たちの労をねぎらうが、ジョムスンはクムスンと今日やってきたイケメン医者のことで頭がいっぱいだった。

 ジェヒはクムスンがやってくるのを待ち続けた。
 しかし、長い時間待ってやっと姿を見せたのはテワンだった。
 テワンはジェヒの前に立った。
「もう帰ってくれ。弟嫁なら来ない」
「・・・」
「二度と弟嫁を苦しめるんじゃない。警告だ」
「お前には関係ないだろ。なぜ来た。クムスンさんに頼まれたのか?」
「分からないヤツだな。早く帰れ」
「行ってくれと頼まれたのかよ」
「じゃなきゃ来るか」
「・・・お前らは非人間的だ。まだ若い彼女をいつまで束縛するんだ。旦那を亡くして何年も経ってるだろ。こんな話があるかよ。お前たちは普通じゃないぞ」
「なぜ、弟の話を持ち出す。死にたくなけりゃ黙れ。帰れ。そして二度と来るな。弟嫁にその気はない。医者なら賢いはずだが、まだ状況がわからないのか」
 テワンは背を向ける。帰って行こうとする。
「待て」
 ジェヒは叫ぶ。テワンに詰めより、パンチを浴びせた。さらにパンチをくりだすがテワンはそれをかわした。逆にパンチを返した。ジェヒは地面に叩きのめされた。
 ジェヒは起き上がった。テワンに向けて突進した。
 二人は上になり下になりのくんずほぐれつもみ合いになる。その戦いを制したのはテワンだった。
 ジェヒの上になったテワンはとどめのパンチを繰り出さずに言った。
「お前を生かしとくのは――弟嫁やお前のためじゃない。弟のためだ。弟は意味のない暴力を嫌っていたからな」
「・・・」
「お前、非人間的と言ったな。お前は――弟を失ったことがあるか? どんな気持ちなのか、お前に分かるのかよ」
「・・・」
「死にたくなかったら二度と現れるな」
 テワンは押さえ込んでいた手を離した。
 起き上がって立ち去った。
 ジェヒは無念の大きな声をあげた。上体を起こして叫んだ。
「待ちやがれ! どこへ行く。待てこのヤローッ! 待てーッ!」


 食事を終えたジョンシムは、ピルトがトイレに消えた間にソンランに電話を入れた。
「ソンラン? 私だけど、どこ?」
「会社です」
「なら、シワンはそこにいないわね。よかった。私と会いましょう。ええ。今すぐよ」





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