韓国ドラマ「青い海の伝説」第19話②
韓国ドラマ「青い海の伝説」第19話①
★★★
この逮捕劇は速報のニュースとなった。
― 不動産王、ホ氏の妻、カン氏が殺人容疑で逮捕されました。カン氏の息子A氏も、殺人未遂容疑で逮捕されました。
カン氏はトリカブトの毒でホ氏を殺害し、ホ氏の息子、B氏まで殺害しようとしたところ、潜伏中の警官たちに現行犯逮捕されました。
A氏が警官から奪った銃で撃たれたB氏の恋人が重傷です。
ホ氏の死後、遺産相続をめぐる諍いが…。
事の真相をテレビのニュースで知ったモ・ユランはジンジュたちと共にびっくり仰天した。
―カン氏は遺産目的で犯行に及んだと見られ、現在、警察は共犯者の行方を追っています。
野望は潰え、にっくきジュンジェの命も取り損ねた。警察に運ばれる車の中でチヒョンは絶望を膨らませていた。
腹違いとはいえ、自分もホ・イルジュンの子だと信じていた頃、チヒョンは長男としてジュンジェに負けたくなかった。ジュンジェの欲しがるものは自分も欲しかった。
セファもそうだった。ジュンジェの恋人だと知って奪いたかった。しかしセファはジュンジェから離れなかった。自分を騙したりもしたが恨みは持たなかった。
警察の車の中でチヒョンは悔しさを燃え滾らせた。ジュンジェを狙った弾はセファに傷を負わせた。いや、彼女が身をもってあいつを助けた。そういう筋書きの発生がチヒョンは気に入らなかった。
ジュンジェはぴんぴんし、そのつもりのなかった彼女を傷つけたことに、チヒョンは自分のツイてない人生を悟ったのだった。
あの人の子として生まれてきたから、こういう人生が始まったのではないか…。
チヒョンは上着のポケットにある薬ビンのことをふと思い浮かべた。
★★★
トリカブトの毒薬はジュンジェを殺すために作った。ナムドゥを使えば自らの手を汚さず確実に殺せるはずだった。調べ上げた奴はそれほどの悪玉のはずだった。その上、自分は万が一に備え、奴の悪事の数々を証拠を握っている。自分の手の上から逃げられないはずだった。
「トリカブトから抽出した毒だ。念のため、二つ持っておけ」
毒薬を渡す時にチヒョンは言った。
「心配無用です。一発で仕留めますよ」
ナムドゥは自信満々に答えた。
「好きにしろ」
そう言ってひとつを上着の内ポケットにしまった。
今から思えばあの自信満々の表情を疑うべきだった。あれは最初から”やらない”という顔だった。あの時、奴の返した笑みは腹黒い男の繰り出す狂気を帯びた冷笑ではなかった。
毒薬は処分する機会を逃してしまった。これをどうにか処分しなければならない。
どうすればいいのか…。この毒薬を処分したところでもはやどうにもならない。母は動かぬ証拠をすべて握られた。ジュンジェを殺す最後の機会もあの女によって阻まれた。
チヒョンは空しかった。天はあいつばかりに陽の光を当てている。
自分はいつもあいつの日陰に入るしかなかったのだ。あんな母のもとで生まれてきたせいで…。
警察に身柄を移送される中、チヒョンは警察官に声をかけた。
「あの…、トイレに行かせてください」
トイレの中でチヒョンは子供のように涙を流した。悔しいというよりただ悲しかった。毒薬をトイレに流そうとする思いもあったが、ここに来たら、そういう思案も戻ってこなかった。ただ泣いて、泣き続けた。
涙も枯れはてた。チヒョンは懐から毒薬を取り出した。これは自分のために用意した物だったかもしれない。自分こそ、この世に必要とされない人間だった。誰からも望まれず、あの母親からだけ望まれて出てきた男だったのだ。ここで流し去るべきはこの命だったのだろう…と。
チヒョンは懐から毒薬を取り出した。あらためて握り直した。もはや何の抵抗も覚えなかった。
チヒョンは放心してトイレから出てくる。外で待っていた警察官に支えられるようにしてパトカーに戻った。