韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(93)
鏡を見て笑っているジョンシムにピルトは訊ねた。
「どうしたんだ? 自分はそんなにきれいか?」
ジョンシムは振り向いて笑った。
「冗談で訊いてるつもりかしら」
「何でニコニコしてるんだ」
「嬉しいからよ」ジョンシムは答えた。「もったいなかったけど、お金をあげてすごくいい気分」
「ほら、みろ。俺に従ってれば後悔などしやしないんだ。幸運だって舞い込むかも」
「あっははは。しょってるわね。一人でカッコつけちゃって」
ドアが叩かれた。クムスンが飲み物を持って入ってくる。
「お茶をどうぞ」二人の前にお盆をおく。「夜なので薄めのナツメ茶です」
「ありがとう。お前のは?」
「私はちょっと・・・祖母の家に出かけてもいいですか? フィソンは寝てるので1時間くらいで帰ってきます」
ピルトはジョンシムを見た。
「そうしなさい」
「では、行ってきます」
部屋を出ていく時、クムスンは二人にあらためて感謝の言葉を伝えた。
クムスンが出て行った後、ピルトは言った。
「嬉しくて朝まで我慢できなかったんだな」
「感動的だったわ」
ソンランはシワンに言った。
「さすが堅く結ばれた昔ながらの家族ね」
シワンは苦笑した。
「でも、まさか受け取るとは思わなかった」
「なぜだ?」
「逆に重荷だもの。私なら受け取らない」
「お前ならそうだろうな」
「棘のある言い方ね」
「ああ。・・・さっきは時間がなくて黙ってたが――入籍を延ばしてるのも、俺が信じられないからか?」
「行く時間がなかっただけでしょ。でも、突然何よ。いきなり入籍の話なんか持ち出して」
「・・・」
「あなたも忙しくて忘れてたでしょ」
「そうか。ならいい。明日にでも入籍しよう」
「・・・私は1年ぐらい様子を見て決めたいわ」
「・・・」
「半年で離婚する夫婦が何割だったかしら・・・多いらしいから――様子を見てから入籍する人も多いの。私もそうしたい」
「つまり・・・まだ俺のことを信頼してないってことか」
「信頼してない、って、拡大解釈しないでよ。その方がより合理的だと思わない? 結婚してから合わないことって――意外と多いのよ」
「・・・」
「しかも私の場合は失敗してるせいか――未来への自信なんかない。自分さえ信じられない」
「なるほど。他人なんか信じられるわけないよな」
「・・・」
「つまり今後も――離婚の可能性を考えながら暮らすわけだな」
「そんな意味じゃないわ。各自で財産を管理するのがそんなに問題なの? それとも後で入籍すること?」
シワンは身を乗り出した。
「お前は結婚したと言う自覚がない。自分で言ってたように結婚はセットだ。違うか?」
「・・・」
「好物だけでなく――1つでも気に入ったら全部買うべきさ。家族や周辺環境まで受け入れるべきだろ。お前はそういう事実を否定し続けてる。だから、結婚したんじゃなく同居でもしてる感じだよ」
「ええ。実は、私の望みは――同居だったわ」
「・・・何だと!」
病院の駐車場に戻りついたジェヒはクムスンの言葉を思い返した。
――ふざけてるんですか!
ジェヒは車をおりた。いい気分ではないが、不快ではない。
それくらいで諦めるようならまた始めることなどしていない。
ジェヒはドクタールームに戻ってきた。上着を脱いだ。
ひとつだけはっきりしてる。彼女の気持ちの半分を自分も背負いたい。今は彼女のことで頭がいっぱいなのは確かだ。
その時、ドアが鳴った。ウンジュが入ってきた。
「ジェヒさん」
「何のようだ」
「・・・」
「なぜここに?」
「夕食は?」
「こんな時間だ。食べたさ。ここは医局だ。ここには勝手に入ってくるな。一般人が出入りするところじゃないんだ」
「・・・」
「それくらい知ってるだろ」
ウンジュは紙バッグを黙ってジェヒのそばに置いた。
「これを届けにきたわ」
出て行く時、振り返った。
「ごめんなさい。勝手に入って来ちゃって」
ウンジュは出ていった。
この時、電話が鳴った。
ミジャからだった。
「あとでウンジュが物を届けに行くからね。病院に行くというから着替えを預けたの。今日は帰ってこられないでしょ」
「・・・」
「断られたんだけど、無理して頼んだから――冷たくしないでよ。仕方なく引き受けてくれたんだから」
「そういうのは前もって言ってくれよ。頼んでもいないのに余計なことをして。ったく!」
「あなた、今何て言った? 聞こえたわよ」
「ごめん。悪かった。ウンジュはもう帰ったよ。切るよ」
スンジャはお金の件をジョムスンに話すべきかどうかを迷っていた。
「クマの初出勤はいつ?」
「来週ですけど。 お義母さん、昼間、クマに怪しいところは?」
「というと?」
「男性から電話が来たとか」
「何言ってるの。あの年で交際するのは自然の摂理よ。心配ないわ。一線は越えるなと言い聞かせた」
スンジャが文句をつけようとしたら電話が鳴った。
クムスンの声が流れ出た。
「家の前なんだけど、話せないかしら」
スンジャはジョムスンをクリーニング店に行くと言ってごまかして外へ出た。
スンジャはクムスンの手を取って言った。
「こんな時間にどうしたのよ」
「お金の話だけど、これと交換を・・・」
クムスンがバッグから封筒を出そうとするとスンジャは答えた。
「使ったわ」
クムスンはスンジャを見た。
「今日、示談しちゃったのよ」
「もう・・・?」
「先延ばしにしたら迷いが出ると思って――今日、別れた後、手続きを終えたわ」
「そうなの・・・」
「ところでそれは何?」
「その・・・」
「まさか、心変わりした?」
「・・・」
「そういうことなの?」
「違うの。そうじゃないわ」
「なら、それは?」
「後で説明するわ」
クムスンは言葉をを濁した。話をすればスンジャの気持ちを結果的に追い込むことになりかねない。
クムスンは黙って引き揚げていった。
家までやってくるとクマが玄関に立っている。
「こんな時間にどうしたの?」
「あの・・・テワンさん、いる?」
「さっきいたから、いると思うわ」
「本当」
喜びかけて、クマはあわてて思いとどまる。しかし、正直になる。
「クムスン。私やりきれない」
二人は近くの公園に行って話をした。
「私の話を聞いたら、気絶すると思うわ」
「しないわよ。話して」とクムスン。
「いいえ、きっとそうなる。驚かないで聞いて」
「大丈夫よ。もう驚くことなんてないから」
「私――テワンさんとキスをしたの」
クムスンは真顔になった。
「ほら、驚いたでしょ」
「じゃあ、お義兄さんと交際を?」
「・・・」
「そこまで話したら言いなさい。交際してるの?」
「私、どうすればいい?」
クマから相談を受けたクムスンは、帰宅するなりテワンの部屋にムスっとした顔で入ってきた。
「話があります。いいですか?」
「ああ、座れ」
クムスンは立ったまま切り出した。
「どうしてクマに連絡しないんです?」
「・・・」
「別れる時に約束したんでしょ。なのになぜ電話しないんです」
テワンは照れ笑いした。
「クマから聞いたのか?」
「約束を破るなんてひどいです。クマは悩んで、途方に暮れて、家の前で待ってましたよ」
「ここ二まで来たのか? 一体、何てヤツだ。連絡がなければ気付くべきだ。頭はいいはずだろ。プライドがないのか?」
「何ですって? お義兄さん、クマとキスしたんでしょ」
テワンはひるんだ。それも喋ったのか、の顔になる。
「あの時は飲んでたんだ。酒飲んで酔ったら、かわいく見えちゃったんだ」
「クマは初キスだったのよ」
「あんな年で初めてだなんて、俺に想像できるかよ。まるで天然記念物じゃないか。そんなこと言われるのは男には重荷だ」
「呆れた人・・・!」
「何がだよ。酔ったときのキスで勘違いする方が変だ」
「抱擁までしたんでしょ」
テワンは顔をしかめる。
「口の軽いヤツだな。なら、泣いてる女を置いてこられるかよ。女の涙に弱い男としては・・・」
「この・・・」
「何だよ」
クムスンの携帯が鳴った。
キジョンからだった。ここで話をするわけにいかない。
「またあとで」
「必要ない。終わった話だ」
テワンの話を聞かずクムスンは部屋を出た。
階下におりてからクムスンは電話を受けた。
「・・・今朝、無事に妻の意識が戻った」
「そうですか」
「だから、時間があれば一度会いたい」
「分かりました。私も連絡するところでした。では明朝、うかがいます」
帰宅したクマの顔を見てジョムスンはつぶやいた。
「就職が決って喜んでたのになぜか落ち込んでるわね。彼といざこざかしら・・・」
翌朝、クムスンはキジョンの部屋を訪ねた。
用意してきた封筒を差し出した。
「これは?」
「5000万です。一部ですが早めにお返しします。残りは叔父が出てきてから」
「ずいぶん早いね。別に急がなくても・・・いや、返さなくてもよかったのに」
クムスンはキジョンに反発するような眼差しを送る。
キジョンは理解して頷く。
「すまない。受け取るよ」
すぐさま封筒を手にする。机上に置く。
「おばあさんは君をまっすぐな娘に――育ててこられたんだな。私はそうじゃないから」
「・・・手術はいつごろに?」
「それは主治医と相談して決めることだが――すぐ決るはずだよ。今より悪くなると――移植が難しくなるんだ。だから早めに行うと思う」
「そうですか」
「クムスンさん。妻には――移植するまで君の話はしないよ。悪いね」
「頼んだのは私です」
「ああ、そうだが・・・妻の状態では・・・君の正体を知ったら耐えられないはず。むろん、こんなことを知ったら――死んでも移植を受けないと言うに違いない。その前に君を知ったら――ショックを受けて立ち直れないはずだよ」
「・・・」
「そうなったら、たぶん・・・突発的な状況に――弱っている上に、狭心症の症状が出て――わずかなショックにも敏感でね」
「・・・」
「今の感謝と謝罪の気持ちはどうやっても表せない。厚かましいと思う。でもね。君さえよければ――行き来してもいい。それに親として面倒みたい。私にその機会をくれないか?」
「・・・」
「クムスンさん」
「私は何も知らなかった状態に戻りたいんです」
「ああ、わかった」
「他に話は?」
「いや、ないよ。手術の日取りが決ったらまた連絡する」
「では」クムスンは立ち上がった。「これで失礼します」
電話ボックスから病室に戻ろうとしたヨンオクは偶然クムスンを見かけた。クムスンは力ない足取りで歩いてくる。
だが、ヨンオクは違う。嬉しい表情でクムスンに歩み寄る。
「こんにちは」
クムスンは母親の出現に緊張した。
「覚えてない? 美容院で会ったんだけど」
「・・・」
「ああ、忘れてるのね。ちらっと見ただけだから。やつれて見えたけど、もう身体は大丈夫なのかしら」
「・・・」
「まだ具合が?」
「いえ、大丈夫です」
そこへジェヒがやってきた。
「顔だけでなく声もきれいね」
「・・・」
「知らない人に突然声をかけるなんて変でしょ」
「・・・」
「ナ・クムスンという名前だったわよね。院長がそう呼んでたから」
「・・・」
「その名前は――私がこの世の中で一番、大好きな名前なの」
「・・・」
「時間があったら、飲み物でもどうかしら」
クムスンは親しげに語りかけてくる母親に言葉を失っている。
ジェヒはその様子をじっと観察している。
「少しだけでいいの。そこに自販機が・・・」
ヨンオクはジェヒに気付いた。
「ジェヒさん・・・」
ジェヒは黙って一礼し、クムスンを見た。
「来たのか」
ヨンオクは驚く。
「どうして・・・?」
「母の店の人です」
「ええ、そうよね」
クムスンはこみ上げるものがあった。いたたまれなくなった。
「ではここで・・・」
「帰るの?」ヨンオクは名残惜しそうにする。「だったら、気をつけてね」
クムスンは今にも崩れ落ちそうな身体を懸命に支えて歩き出す。
「では僕も失礼します」
ジェヒもクムスンの後を追って歩き出した。
キジョンに呼ばれてヨンオクの主治医がやってきた。
「何の用だ? 透析は30分後だ」
「知ってる。お前に折り入って頼みがある」
「何だ。話してみろ。聞いてみないと応じられるかどうか分からん」
「恥をしのんで打ち明けるよ」
「わかった。その気で聞こう」
「・・・」
「そんなに言いづらいのか」
「先日、HLA検査を頼んだ娘がいたろ。覚えてるか?」
「覚えてるさ。この前も話題に出たし」
「その娘は・・・妻の娘だ」
「何だと。どういうことだ?」
「妻は・・・若い頃に一度目の結婚をした。その時の娘だ。これは母も知らない。俺と妻だけの秘密さ」
「それでは子供たちも?」
「もちろんだ。他には誰も知らない」
「そうだったのか。確かに親子ぐらい近い関係じゃなければ――あんなに適合しない。それで?」
「実は・・・その娘が移植に応じてくれる」
「そうか。それはよかった」
「彼女には残酷なことだろう。死んだはずの母親が現れたんだ。最近、初めて事実を知った」
「それでも腎臓の提供を? 感心な娘だな」
「そうだ。だが、妻に話す自信がない。万一、過去に産んだ娘が腎臓を出すと知ったら――死ぬ気で拒絶するだろう。俺が娘を捜したことにもショックを受けるはず。しかもその娘は早くに結婚してて――旦那はもう亡くなってる。子持ちだ」
「・・・」
「妻がすべてを知ったら・・・それを想像できないよ」
「どうするんだ・・・手術するとなれば隠せんぞ」
「妻には・・・センターの腎臓だと言えばいい」
「・・・」
「頼む。協力してくれ。妻を助けたいんだ」
クムスンは後をついてくるジェヒから逃げるように歩く。
我慢ならずに立ち止まった。ジェヒを振り向いた。
「何のつもりですか?」
「病院には何の用だ? 先生のところへ?」
「あのね――いい加減にしてくれません? 私をバカにしてるの?」
「いや、とんでもないよ」
「なら、何ですか。まだ私に興味でも?」
この時、二階から二人を見下ろしている者がいる。
ウンジュだった。
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