韓国ドラマ「がんばれ!クムスン」(134)
ジョムスンはクムスンの話にしんみりとなった。クムスンに辛い思いをさせているという思いは変わっていない。婚家からクムスンを引き取れないはがゆさは気持ちの中でずっと引きずってきたことだ。
クムスンは続ける。
「料理をしてても先生のことを考えたり、客の髪を洗いながらも・・・隣にフィソンが寝ていても、ジョンワンの写真の横にいても会いたくなるの。会いたくて死にそうなの」
ジョムスンはクムスンを見つめ、何もいえない。
「おばあちゃん・・・自分勝手なのは分かるけど・・・」
ジョムスンは首を横に振った。
「いやいや・・・そうじゃなくて――もしかしたら付き合ったとしても別れるかもしれないし、結婚だって難しいだろう」
「・・・」
「ジョンワンのとき以上にだ――それよりも何よりもフィソンがいるのよ」
ジョムスンはクムスンを見た。
「そうだろ?」
「・・・」
「大丈夫なの?」
クムスンは頷く。
「大丈夫よ。だけど、それまでは――どうであれ、先生には会えるわ」
「・・・」
「何を心配してるか分かるけど――今はどうしても、彼のそばにいてあげたい。いいえ――私がいたいのよ。先生が手を怪我したの」
「そうなの? それなら、会わないと・・・愛する仲なら――苦労は分かち合わないとね」
「・・・」
「長くもない人生だ。好きな人と会いたいなら会った方がいい。会えばいいよ。会っていいんだ。旦那がいて浮気するわけでもないんだから」
「・・・」
「会いなさい。会っていいんだよ。会いたいだけ会ったらいいんだ」
「・・・」
「そうさ。いいんだ。自分の気持ちに正直になって堂々と会いなさい」
ジョムスンはクムスンの顔に手を伸ばした。
「あなたは美人だわ――どこを捜してもお前ほどきれいな娘はいない。心だって素直で美しい。もうすぐ腕のいい美容師にもなる。お医者さんが何だ。あなたも同じ師でしょ? 美容師」
クムスンはクスンと笑う。
その顔をジョムスンは両手で挟みつける。
「ほらほら泣いてると美人が台無しよ――一生懸命生きてきたのを仏様は見ていてくれた。弱気にならず自信を持って会いに行きなさい。堂々として会いに行きなさい」
ピルトはまだ寝ている。
ジョンシムは寝床を離れ、リビングの食堂に出てきた。冷蔵庫から水を取り出して飲もうとする。
その時、ソンランの声が聞こえた。
「どんなに眠たくても着替えて行かないとね。でしょ」
ジョンシムは声の方を見た。クムスンの部屋からだ。
ドアを開けると、ソンランがフィソンの着替えをやってあげている。
ジョンシムに気付いてソンランは立ち上がる。
「おはようございます」
「ここで何を?」
「クムスンさんが夜中に具合が悪かったので、救急病院に行かせたんです。それで代わりに幼稚園に送ってから出勤しようと」
「クムスンはそんなに悪いの?」
「はい。風邪で具合が悪いようです。動けないというわけではないんですが――発熱を放置するのはよくないので」
「フィソンは私が見るから出ていきなさい」
「いえ、私がします」
「いいの。フィソンに触らないで」
「・・・」
「あなたは夫を起こして。昨日はショックで何も言えなかったけど、話があるから起こしなさい」
「・・・」
「何してるの。早く行きなさい」
クムスンはバス停まで走った。呼吸を整える間もなくバスはやってきた。
バスをおり病院に向かう。
エレベーターの乗り、降りて1510号室に向かう。
ジェヒも着替えをすませ、病室を出るところだ。
ドアを開けて病室を出る。歩き出そうと振り返った時、ジェヒの目にクムスンが飛び込んできた。
クムスンも顔を上げ、ジェヒに気付く。立ち止まる。
ジェヒは表情を変えず、黙ってクムスンの横を通り過ぎる。
クムスンは振り返る。ジェヒに呼びかける。
「先生」
しかし、ジェヒは止まらず振り返らずエレベーターに向かう。
クムスンはジェヒを追いかけ、エレベーターの前に立った。
「先生」
ジェヒはクムスンを無視し、エレベーターの開閉ボタンを押す。
閉まりかけるドアをクムスンは止める。
「待って」
「離せ」
「ごめんなさい」
「・・・」
「私が悪かったわ。もう2度としないわ」
「もう遅い」
「・・・」
「離せよ――早く離すんだ」
クムスンの腕から力が抜ける。手が離れる。
ジェヒは開閉ボタンを押した。ドアは閉まりだす。
しかし、ドアが閉まる直前、クムスンは隙間に腕を差し入れる。強引にドアを押し開く。
後戻りはしないと決めてここへやってきたクムスンだった。
「愛してるの」
ジェヒは何かに打たれたようにクムスンを見る。
「関係ないと思ったのに・・・大丈夫だと思ったのに・・・私ももう始まってたの」
「・・・」
「愛してるわ」
「だから・・・?」
「あなたがよければ、あなたの隣にいるわ。あなたのそばにいたいの」
「・・・」
「これからは――先生の言うとおりにする。あなただけ見るわ」
「・・・」
「何を言われても・・・院長に言われても・・・先生が私を見放さない限り、もうどこにも行かない」
「・・・」
ジェヒは駆け寄った。クムスンをひしと抱きしめた。
ジェヒに抱かれてクムスンは目をつぶった。その目から涙が流れ出た。次の瞬間、クムスンの身体から力が抜けた。膝から崩れ落ちていく。
左腕だけでジェヒは支えきれない。床に倒れたクムスンを必死で助け起こそうとする。
「クムスン! クムスン! しっかりしろ」
ジェヒは慌てて助けを呼んだ。
「キム先生! ――クムスン! しっかりしろ」
クムスンは点滴治療を受けた。
ベッドで眠るクムスンを見つめながら、ジェヒの顔に笑顔が戻った。穏やかさも茶目っ気も戻った。
こんな身体でやってきてくれたのか・・・
眠っているクムスンの頬に手を伸ばす。頬を撫でる。クムスンは目を開ける。慌てて手を引っ込める。
クムスンは黙って身体を起こした。
「いいから、もう少し横になってろ」
「大丈夫よ――倒れたの?」
「ああ――熱が高いのにそんなに動き回って無茶して」
ジェヒはクムスンの額に手をあてる。
「もう大丈夫だ。さがってきた」
クムスンはジェヒを見つめる。
「そんなに見つめるなよ。緊張しちゃう」
「・・・」
「ひょっとして、俺を誘惑してるだろ?」
「はい・・・プロだからね」
ジェヒは吹きだす。
「夢みたい・・・」
「俺もだ」
「・・・」
「もう、手を焼かせるなよ。あの時はほんと・・・」
「ごめんなさい。本当にごめんなさい」
「・・・」
「だけど・・・怪我は大丈夫なの?」
「大したことない。何の心配もない」
「心配しないわ。きっと大丈夫だから」
ジェヒはニコニコしている。
「だけど、先生――私、何の取り柄もないわよ。それでいいの?」
「・・・」
「私は学歴もないし・・・」
「上を見るな。お前を見てるのに」
「・・・」
「上に聞いてみろ。俺がお前の他によそ見をしたのか?」
クムスンは笑う。
「私には、子供もいるのに?」
「・・・お前の子だから、いいさ」
「その上――大きな手術で身体に手術痕もあるわ」
「・・・俺はそこまで考えてなかったけど、そこまで考えてるのか」
「何もしてあげられなくて、心だけしかないの」
「世のすべてより、お前の心がほしい」
「・・・」
「まだ分からない? 俺はお前じゃなきゃダメだ。どうしたら信じる?」
クムスンはジェヒをじっと見た。
「どう言ったら信じて・・・」
クムスンはすーっと顔を寄せた。そのままジェヒにキスした。
ジェヒはびっくりする。
電撃のキスがクムスンの愛と感謝だった。
ジェヒはそっとクムスンに顔を寄せた。クムスンの心をいたわるようにキスをした。
ピルトがジョンシムに言った。
「テワンが来たから始めろ」
「昨日は驚きとショックで何も考えられず、聞きもしなかったけど――私たちにそれを話した意図は?」
「・・・」
「私たちが許可するとでも? あるいはあなたの考えを受け入れろと?」
「つまりその話は――あなたが子供を連れてくることの報告なの?」
「違うんです、お義母さん」
「じゃあ、何? 昨日、はっきり言ったわ。”養育権を取り返す機会がきた”と。子供を連れてくると」
「・・・はい」
「結局、連れてくるつもり?」
「違います。必ずではなくて」
「違うなら何? 反対なら諦めるの? 答えなさい」
「・・・」
「そうなの?」
「・・・」
「なぜ答えないの? 結局、子供を連れて来るのね?」
「正直言って、まだ分かりません。私も突然のことで困惑してますし」
「じゃあ、どうして分からない話を私たちに? 話にならない深刻な問題を気持ちの整理のつかない私たちに?」
「それは――知るべきだと思ったので。私は――問題は隠しても解決しない。だから明らかにしてそうして解決策を・・・」
「また私たちに教えるの? だから連れてきた育てるんでしょ」
「母さん」
「シワンは黙って。あなたが答えて。そうなんでしょ? 違う?」
「はい・・・」
「いいわ。それなら――ひとつだけ聞くわ。シワンとあなたは――結婚前に相談したの?」
「・・・」
「今後、子供が来れば――養育すると話したの?」
「母さん、それは」
「黙りなさい。ソンラン、答えて」
「そうだな」とピルト。「ソンランが答えなさい」
「シワンさんと話したことはないです。だから、彼もとても悩んでいます」
「・・・」
「まさかこんなに早く起こるとは、いいえ、2度とないと思ってたし・・・」
「いいわ。もう聞かなくていい。結論を出すなら――この状況を最初から話し合わず、突然、起こったことで――シワンや私たちの意見は無視して子供を引き取るのね」
「・・・」
「母さん、違うよ。昨日のソンランの話はあくまで・・・」
「あなたは黙ってて。答えなさい。あなたの答えを聞いて、私たちも決められる。そうでしょ? 答えて」
「はい」
「俺たちは完全に無視か」とテワン。「結局、俺たちはカヤの外だ」
「お前は黙ってろ!」とピルト。「お前は何て言い方をする」
「すみません。腹から何かがこみ上げて」
「・・・」
ジョンシムは立ち上がり、部屋に消えた。
「出勤しなさい」
そう言って、ピルトも立ち上がった。
クマが居間に来てジョムスンに朝の挨拶をする。
「夜中にクムスンが来たの?」
「寝てるかと思ったら・・・」
「聞こえたのよ。夜中になぜ?」
「何でもないよ。顔を洗いなさい」
「ああ、眠気が覚めないわ」
クマが引っ込むと今度はスンジャが聞いてくる。
「クムスンの相手の母親は?」
ジョムスンが相手するのを嫌がっていると、スンジャは吐き気に見舞われる。
「何だい・・・本当に妊娠じゃないの?」
ジョムスンは病院に行くよう促す。
「怖くて行けないんです」とスンジャ。
サンドが顔出してシャツを出してくれという。シャツを出してやりに部屋へ戻った時、スンジャは生理用品を見てハッとなった。
生理が・・・暦でそれを確かめてスンジャは愕然となった。
そうじゃない、と必死で言い聞かせるスンジャだが・・・
ミジャたちが美容室に戻ってくる。
クムスンの姿がないのに気付いて、ミジャはユン室長に声をかける。
「クムスンの姿が見えないけどどうしたの?」
ユン室長は答える。
「今日はお休みなんです。体調が悪いようなので休ませました」
「どこがよくないの? いいわ、分かった」
「はい、あ~ん」
元気を回復したクムスンはジェヒの食事を手伝っている。
「外で食べよう」とジェヒ。
「ダメだってば。患者がどこに行くというの? さっき主治医も、今週は安静にしろって言ってたわ。早く食べないと。さあ、口あけて」
「俺は病院の食事は嫌なんだよ」
「叩かれてから食べる?」
ジェヒはやむなく出されたスプーンの上の食べ物にかぶりつく。
「よく噛んで食べてね」
クムスンはおかわりをスプーンに用意する。ご飯の上に煮干を・・・。それを見てジェヒ。
「煮干は食べないぞ」
ジェヒを見るクムスン。
ジェヒは首を横に振る。
「口の中で引っかかるから嫌いなんだ」
「ああ、まったく――幼い時からの食習慣がたたってるのね」
「俺の食の好みなんだよ。他人の好みも尊重しないと」
「何が好みよ。悪い食習慣でしょ。フィソンも煮干を食べるわ。身体にいいから文句を言わず食べるのよ。さあ」
「煮干を取って」
「・・・」
「病人に嫌いなものを無理やり食べろと?」
クムスンは引っ込めたスプーンに煮干をたくさん加えた。
「おい」
「駄々をこねたら、もっと食べさせるわよ」
「ひどすぎるよ。本当に煮干は嫌いなのに」
しかし、クムスンはスプーンを突き出す。ジェヒはやけくそでそれにかぶりつく。
してやったりとクムスンはにっこりだ。
顔をしかめてジェヒは言う。
「笑うな」
「食べたいものは? 私が作ってくるわ」
「ほんと?」
「ええ。明日の朝、お弁当を作ってくるわ」
「そうか。海苔巻きがいいな」
「子供ね」
クムスンは呆れる。
「何で?」
「高級なものばかりいつも選ぶから」
「あっは、そうさ。俺は海苔巻きが好物なんだ」
「分かったわ。海苔巻きは得意なのよ。明日作ってくるわね。じゃあ、その意味でも、今日はこれをたんと食べるのよ」
「おい」
クムスンは怖い顔になる。
「食べるの」
その時、ドアが鳴った。
入ってきたのはキジョンとヨンオクだった。
クムスンはかしこまって挨拶する。
「クムスンさん、久しぶりだね」
キジョンはジェヒを見る。
「どうだ?」
「ええ。だいぶ、いいです」
ジェヒはヨンオクを見る。
「座ったままで失礼します」
「いいえ、食事中にごめんなさい。大丈夫?」
クムスンはヨンオクと席を外した。
「昨日、電話したら携帯がオフだったわ」
「そうでしたか」
「電話くれるのを待ってたの」
「少し忙しくて」
「またジェヒと会ってるの?」
「・・・はい」
「よかったわ。本当によかった」
「・・・」
「安心したわ。本当に嬉しいわ」
「・・・」
「どうしたの?」
「少し痩せたみたい・・・」
「そんなことない」
「そうでもないみたい・・・ずいぶん痩せました」
「それは・・・手術前に浮腫んでたのが、浮腫みが取れてそう見えるのよ」
「ええ・・・」
「あなたこそ痩せたみたいだわ。顔色も悪いし、どこか悪いの?」
「いいえ。私は元気です」
クムスンは母と普通の会話をすることがすごく楽しかった。
キジョンがジェヒと話し込んでいるとミジャが現れた。
キジョンと挨拶をすました後、ミジャは訊ねる。
「どう?」
「いいよ。この時間に大丈夫?」
「ええ・・・」
クムスンたちは話をすませジェヒの病室へと戻ってくる。
「じゃあ、入りなさい」とヨンオク。
「一緒に入りません?」
「うん、もう行かないと」
「じゃあ、お気をつけて」
クムスンは病室に入って行こうとドアの前に立つ。
ヨンオクは背を返し立ち去ろうとする。
母親を見送るようにしてクムスンはドアを開けた。その瞬間、ヨンオクはクムスンのを方を向き直る。
クムスンは慌てふためき外へ飛び出してきた。隣のドアの陰にかくれる。
病室から出て来たのはオ・ミジャだった。ミジャはヨンオクたちに気付かず歩き去った。
クムスンはヨンオクと顔を見合わせた。
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