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与えられた勇気

2018-05-01 08:09:46 | ひとりさん
②与えられた勇気


東日本大震災の翌年の4月のことです。

岩手県の大槌町に縁があり、舞踏ショーをすることになりました。

震災で避難している人たちに元気になってもらいたいと思い、出かけることになったのですが、
いざ大槌町に足を踏み入れると、あまりに悲惨な震災のつめ跡に言葉を失いました。

こんな過酷な状況でがんばっている人たちに、自分たちはいったい何ができるのだろうか?
ぼくの名前は大衆演劇界では通用するかもしれませんが、ぼくは芸能人でも有名人でもありません。

そんなぼくが、みなさんに少しでも元気を与えることができるのだろうか?

駅まで迎えに来てくれた現地のお世話人さんの車に揺られながら、
弟の純と、役者仲間の速水映人(はやみえいと)くんとともに思案に暮れました。

会場となる場所に着き、見上げると、一軒のお寺さんがありました。

住職さんにあいさつをすませ、ぼくらは翌日の会場の準備を始めます。

大衆演劇では当たり前なのですが、
舞台をつくるのも設営するのも、ぜんぶ自分たちの手でやり、
ないものは自分たちの手でつくるのです。

この日も、みんなで手分けして照明や舞台、音響の準備をしていたのですが、
その様子をお寺の住職さんがずっと見ていました。

ぼくは住職さんが気になってはいたものの、手を止めることなく準備を進め、夜遅くまで作業を続けました。

その日の夜は、お寺に泊まらせてもらいました。

翌朝、最終の準備をするために会場に向かいました。

着替えや化粧は体育館のすみに暗幕で囲っただけの場所。

どれもこれもはじめての経験でした。
舞台の準備がすべて終わり、開演時間になりました。

会場をのぞいて見ると、そこにはたくさんの人が集まってくれていました。

開場のアナウンスを始めようとしたそのときです。

突然、住職さんが舞台に上がってきました。

「みなさんに聞いて欲しいことがあります」

開演前の客席のザワザワとした喧騒が、一瞬にしてしーんと静まりかえりました。
会場に住職さんの声が響きます。

「この若者たちは、本当に感心させられました。

昨日彼らがここに着いてから、ずーっと見ていたんですが、

彼らが本当にすばらしいということを、みんなに知ってもらいたいんです」

住職さんは何を話すのだろう?

と聞いて、ぼくたちの昨日の舞台づくりの話をし始めました。

ぼくたちにとっては当たり前なのですが、暑いなかぜんぶ自分たちの手で、
何もないところから杭を打ち、幕を張り巡らして照明を設置し、
何もかも自分たちの手でつくり上げていく姿に感動した、とおっしゃっていただいたのです。

思わず涙がこぼれてきました。

会場のお客さんたちも住職さんの話を聞き入っています。

その話は、はじめて被災地を訪問し、緊張しているぼくたち3人の心を奮い立たせるに十分なものでした。

そうこうするうちに、舞踏ショーが始まりました。

お客さんは、みな震災で被災した人たちです。

その人たちが、芸能人でもなく、有名人でもないぼくらを、わざわざ観にきてくれているのです。

老人ホームから来てくれたおじさんおばさんもたくさんいました。

歩くのもままならず、車いすに乗って来てくれた人たちもいました。

みんながみんな、手拍子をしてくれたり、
ニコニコ笑いながら、楽しそうに目をキラキラさせたりしながら、
3人で代わる代わる踊るぼくたちを観てくれていました。

第1部が終わり、休憩時間になると、仮設トイレには長蛇の列ができています。

その仮設トイレから戻ってくる人たちを見て、ぼくたちはびっくりしました。

なぜなら、足が痛そうに歩いていた人たちが

「もう始まるわよ~」

と言いながら、小走りで戻ってきたからです。

そして席に着き、そわそわとぼくたちが出るのを待っていてくれるのです。

人間ってすごい!

ぼくは自分たちが被災地の人たちを元気にしよう、なんておこがましいことを思っていましたが、
この日いちばん元気をもらったのは、ぼくたちだということに気づきました。

たくさんの拍手とニコニコの笑顔、そしてときおり飛び出す掛け声。

送り出しでは、みなさんが口々に

「ありがとう、ありがとう」

と言いながら握手を求めてこられます。

「今日はこれしかあげられないから」

と言って、自分が持っていたパンをくれたおじいさんもいました。

そのおじいさんの顔と、あとで食べたパンのおいしさは、いまだに忘れられません。

ぼくたちのほうがお礼を言わなければならないくらい元気をいただいたのです。

純と映人くんの3人で、深い感動のなか、

「また必ず大槌町に来よう」

と約束し合いました。


(「斎藤一人 良縁」恋川純弥さんより)

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