へちま細太郎

大学院生のへちま細太郎を主人公にしたお話。

藤川先生のお彼岸

2007-03-21 22:04:09 | へちま細太郎
藤川だあ~。

俺のうちは実は東京が本宅で、両親と弟は東京の家に住んでいる。
俺たち兄弟姉妹は東京で生まれて、都内のご立派な私立に小学生のころから通学していたんだが、揃いも揃って校風になじめず、いわゆる“国元”の家に戻り地元の学校を卒業した。
長姉は独身、次姉はやっぱり昔の大名家に嫁ぎ、妹は豪農に嫁に行った。この妹が“美都田吾作”の血を濃く受け継いだのか、若いくせに農作業をいとわない。嫁に行った先も、“美都田吾作”の家来である“吾助どん”“治兵衛どん”の“吾助どん”の子孫のうちだ。
弟は俺とは違い、いたってまじめなやつで、両親の仕事を手伝っている。俺としちゃあこの弟に家を継いで欲しいんだが、あの野郎は、
「家を継ぐことと仕事を継ぐことは別問題」
と、さめたもんだ。要するに、殿様になって昔から伝わる行事の中心になるのはいやみたいだ。 要領のいい弟だ。
春分の日の今日は、菩提寺の須庭寺(すていじ)で、大法要会が行われる。
親戚一同、家臣団も集まってきていやはや誰が誰なんだかひとっつもわからん。
つくばった山の棒斐浄寺の尼さんもいる…が、隣にいるのは、なんとのぶちゃんこと前田先生だ。ご丁寧に坊さんの衣装まで着込んでいる。
あの野郎…、何しに来たんだ?
俺の不可解な表情を見て一番上の姉がやってきて、
「尼御前(あまごぜ)の隣の背の高いの、誰よ」
と、俺をつついた。
「あ~?ありゃ、うちの中学の体育ののぶちゃんだ」
「あ~、去年失踪騒ぎをしでかした…、いい男じゃん」
確かにのぶちゃんはいい男だ。男好きの姉の好みのタイプには違いない。姉に食われないことを願うばかりだ。ほ~ら早速、姉が声をかけに行っている。
(・_・;)
法要の中心は現当主であるおやじで、右隣に俺が座り、ひいおばあさまとじいさんばあさんがそのうしろに座った。
須庭寺の住職の読経は長ったらしくて、毎度毎度うんざりする。
俺の代になったら絶対に墓参りだけですましてやる。
結婚式もハワイの教会であげてやる。
家臣団も代替わりすりゃ、誰もくるめぇ。
…俺は、毎回毎回こんな行事のたびに誓うんだが、いつまでも元気なじいさんに竹刀で小突かれ、そんな勇気も失せてしまうんだな。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする