こんばんは、へちま細太郎です。
今日は、討ち入りの朝、ということで、辞世の句の話しをしている。
「あらたのしおもいははるるみはすつるうきよのつきにかかるくもなし」
「ひらがなで言うな、わかんねえだろ」
「あら楽し~ 思いは晴るる身は捨つる~ 浮世の月にかかる雲なし~」
「百人一首か」
「辞世の句が、なんで百人一首になるんだ」
というわけで、体育教官室は先生たちで大賑わい。
「あ、それいいねえ、お正月に辞世の句のかるた取り」
「縁起でもねえ」
「そういえば、田吾作さんの辞世の句ってなんだ?」
急にふられて藤川先生はどっきり。
「テレビの美都田吾作でも言わないよね」
「言えるもんか、恥ずかしくて」
「公表してないのか」
「できるかよ」
「あ、俺も知らねえ」
けんちゃん先生も手を挙げ、
「おまえ、きいてっか?」
と、のぶちゃん先生に顔を向けると、
「知らん」
と、のぶちゃん先生も顔を横に振った。
「教えろ」
「なんだ、その言い草は。仮にも次期当主に向かって無礼だぞ」
「うるさい、俺は兄貴だ」
藤川先生がのぶちゃん先生につかみかかるのを、金本先生が押さえて、
「いい加減にしろや、辞世の句を詠みたいか」
と、怒鳴ると二人はおとなしく座った。
「いいから、早く教えろ」
黒田先生もすごんだ声で命令すると、
「あらうまし…」
と、いつもとはうってかわったような蚊の鳴くような声で言い始めた。
「なんだ、聞こえねえぞ」
金本先生、腕組みして催促。
こっちでのぞいていて、けっこうこわいや。
「あらうまし 鍋の海にて ワタリガニ 踊れ前足 忍びさし足」
…。
一瞬、静けさがあたりを覆った。
「何だ?」
黒田先生が目をぱちくりさせている。
「ワタリガニがどうって言ってなかったか?」
「前足がどうのって?」
「は?」
「あらうまし 鍋の海にて ワタリガニ 踊れ前足 忍びさし足」
藤川先生はやけになったのか、今度は外の体育館にも響き渡るようなどなり声で、あの有名な美都田吾作の辞世の句を叫んだ。
体育館も静かになったんだけど、次は爆音のような大爆笑が広がった。
先生たちも笑いまくっていて、息もできないって様子だ。
僕もおんなじだけど。
しかし、美都田吾作がいくら食いしんぼっていったって、踊れ前足 忍びさし足はないだろ。
まったく、これが天下に聞こえた美都藩2代藩主っていうんだから、呆れちゃうよなあ。
僕だって、詠める、この程度なら。
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