いよいよ次は掘り始める。
コンクリートの厚さ10cm、その下に砂利を敷くのでもう10cm。計20cmの深さで掘る。
道路に面した場所で掘っていると、いろいろな人が声をかけてくる。
挨拶だけの人もいれば、立ち止まって自分の家のドライブウェイの話をする人もいる。
こういう人間のふれあいは嫌いではない。
地面を掘り始めるとミミズなどの虫が出てくる。元気なミミズにボクは語りかける。
「おお、お前たちよ。違う場所で一働きしてくれ」
そしてボクはそのミミズを菜園に埋める。
シャベルでちょん切ってしまったものにも語りかける。
「スマンスマン。このまま成仏してくれ」
そしてそれらはニワトリのご馳走となる。
こんなことをやりながら掘るのでなかなかはかどらない。
ある程度掘っていくと下から粘土質の層が出てきた。こうなると虫も住んでいない。
そして掘りやすい。さくさくと作業は進む。
掘り終わったら、そこに10cmの厚さで砂利を敷く。
家の近くに砂利屋さんがあり、そこでトレーラーを借りて砂利を積んでもらう。
家に持ってきたら、スコップでそれを下ろす。娘にも手伝わせる。
平らに均したら次は転圧である。地面をいじったら圧をかけなきゃダメだ、と昔働いた土方のオヤジも言っていた。
近所のレンタル屋へ行き、転圧機を半日借りる。さすがにアイヴァンも自分用の転圧機は持っていない。
これも昔、土方でやったことがある。特に難しいものではない。
学校が終わった娘に作業するところを写真に撮らせる。
親父はこういうこともできるんだぞ、という事をアピール。こういう時に親父の株を上げとかないとな。
さていよいよ次はコンクリート打ちだ。
友達のサダオが夏の仕事を終え、クライストチャーチに来るというので手伝ってもらう。
サダオはルートバーンでトレッキングガイドをやっている男で、NZの夏が終わるとスイスでトレッキングガイドをする。
以前、白馬やトレブルコーンやカドローナで働いていたこともあり、スキー業界にも詳しい。
ヤツはスイスに行っている間、ボクの家に車やマウンテンバイクやスキーなどを置いていく。
『昆虫宇宙人説』を展開したり、「土星の輪の上をマウンテンバイクで走りたい」などと面白い事を言い出すヤツだ。
もう4年ぐらいの付き合いだが、西海岸に住むタイと同じぐらいボクは彼を買っている。タイと全くタイプは違うが、サダオにはサダオの良さがある。
この二人は北村家一軍の若きホープであり、ボクがこの二人に言う言葉は一つだけ。「どんどんやりなさい」だけである。二人にはそれで充分。
そんなサダオが家にいる間で天気の良さそうな日を選んで日取りを決める。
コンクリートミキサー、こてなど一式をレンタル屋で借りる。
そして6月のある週末に作業が始まった。
ボクがコンクリートミキサーでセメントと砂利と水を混ぜコンクリートを作る。
サダオがそれを一輪車で運ぶ。
女房がこてでそれを均す。
深雪がそのへんをうろちょろして写真を撮る。
家族総出の作業だ。
作業は楽ではないが、やりがいはある。
やった分だけ奥からきれいに均されていく。
だがこの労力を考えるならば、次回はミキサー車でコンクリートを買おうと思った。
日も傾きかけた午後、いよいよ終盤というところで問題発生。
コンクリートを作る砂利が足りなくなってしまった。
広さにして畳一枚分ぐらいか。
「何故だろう?ちゃんと計算して余るぐらいに土を用意したのになあ。」
サダオが冷静に言う。
「聖さん、聖さん、あのですね、砂とか土って空気が含まれていますよね。コンクリートには隙間がないですよね。だから2立方メートルのコンクリートを作るには2立方メートル以上の砂が要るんじゃないでしょうか?」
「なるほど、一理あるな」
理屈は分かったが、今から買いに行こうにも店は閉まる時間だ。
まあ足りない分はボクが1人で1日あればできるぐらいの量だろう。
日も暮れてきたし、その日の作業は終了。
コンクリートをやった後はちゃんと水で洗っておかないと、コンクリートが固まってこびりついてしまう。
日が暮れると気温は一気に下がる。
冷たい風が吹く中、ボクは道具を洗い、サダオは細々した片付けをする。
こういった細かな作業も、ヤツは自分で考え行動ができる。こういう人と一緒に仕事をするとボクも楽だ。
対照的に全てを人に聞く、という人も世間にはいるが、そういう人はボクの近くに寄ってこない。来たとしてもすぐに去ってしまう。
一人で行動できない人が何人集まっても何も始まらないが、一人で行動できる人が集まると物事はどんどん進む。
日を改め再び土をトレーラーで買ってきて、足りなかった分のコンクリートを打つ。
今度はミキサーはなし。サダオもスイスへ旅立った後で一人の作業だ。
一輪車の上でチマチマと混ぜ、空いているスペースに流し込む。
こてで均し再びチマチマ混ぜる。
朝から始めなんとか1日で作業は済み、パッチができたがなんとか第一区画のコンクリート打ちが終わった。
端っこには深雪の手形と日付をいれた。
やっぱり親バカなのである。
続
ひび割れと段差直しをして毎朝門扉を閉めるとき、夕方閉めるとき、必ず目に付くところにプレート状に隆起までさせちゃいました。手形のへこんだところにペイントまで流し込んで・・・
それにしても大規模にやるなぁ
トーマスのことだから、マメにやったんだろうなあ。
深雪の手形は言われなければ分からないくらいにひっそり。
ペイントしちゃうってのはアイデアだね。