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第2部(5)世界が買いにきた鉄鉱山 激化する資源争奪戦
鈍色(にびいろ)に光る広大な鉄鉱山は、高純度の鉄分を含んだ土のにおいでむっとしていた。コマツの大型パワーショベルがうなり、巨大なダンプが砂ぼこりを立てて行き交う。ブラジル中部ミナスジェライス州の鉱山地帯にある「ナミザ鉱山」。
この鉱山の一部が2008年に売り出され、ロシア、インド、中国という当時のBRICsの企業が買いにきた。国際入札の結果、日本の商社・製鉄6社と韓国1社の企業連合が激しい争奪戦を制した。出資総額は約31億ドルと当時の為替レートで2815億円。近年のわが国の対伯投資としては突出している。
得られた権益は、鉄鉱石を100%輸入に頼るわが国の国内需要の1割に当たる。最大の40%を出資した伊藤忠商事で当時、買収を手がけた鷲巣寛執行役員(53)は「中国の製鉄会社は背後に政府系ファンドがついていた。資金力はけた違いで最後まで競り合った」と振り返り、続けた。
「世界の成長を支えているのは先進国間ではなく新興国間であることを日々実感している。商社が収入源にしようとしているのは資源であり資源高の状況を作っているのは中国だ。われわれは中国へ対抗すると言いつつ中国で稼いでいる」
中国から巨額投資
ブラジル中央銀行の統計によれば、中国の対伯直接投資は01~09年の9年間で計2億1500万ドル(173億円)にすぎなかった。
昨年に入り、鉄鉱山や油田の権益、農地の取得、送電会社の買収といった数十億ドル規模の投資が相次ぎ明らかになった。判明分の総額は150億ドル(1兆2093億円)ともいわれ、国別でトップに躍り出たが、ブラジル中銀の統計上は3億9200万ドル(316億円)で20位となっている。
ジェトロ(日本貿易振興機構)中南米課の二宮康史課長代理(36)は「タックスヘイブン(租税回避地)など中国外から投資しているのだろう。中国からの巨額投資はブラジル人に脅威に映る。こうした印象を薄める行動ではないかと推測される」と指摘する。
04年5月、中国への主力輸出品である大豆の輸送船が中国へ入港する際、農薬で汚染されていたとして中国政府が受け取りを拒否した。ブラジルでは、買い取り契約を高値で結んだ中国側が、契約を履行したくないため言いがかりをつけたとして猛反発が起きた。拒否は翌月に解除された。
ブラジル外務省の元官僚は7年たった現在も「中国はこうした行いを平気でする国だ」と話す。
決断遅い日本人
リオデジャネイロの旧市街に、知日派の重鎮を訪ねた。エリエゼル・バチスタ元鉱山エネルギー相(87)。世界最大の鉄鉱山会社「バーレ」の総裁を長く務め、日伯協力事業の大半に携わった。
「今の日本人はよく分からない。決断のスピードが遅いために、ブラジルで築いてきた資産を失いつつある。逆に中国人、韓国人のアグレッシブな戦略は30~40年前の日本人のようだ」
子息の実業家、エイキ・バチスタ氏(54)は資源会社「EBXグループ」を率い、米誌フォーブスの長者番付で資産300億ドル(2兆4186億円)と世界8位。昨年相次いだ中国からの鉄鉱山や油田への巨額投資を複数受け入れ、リオデジャネイロ州で建設が進む港湾施設「アス・スーパーポート」にも工場や造船所が進出するという。
エリエゼル氏は子息の活躍ぶりに目を細めつつ、親愛の情を浮かべてこう語った。「多くのブラジル人は今でも日本人に信頼を置いている。日本人さえ決断すれば、まだ遅くはない。往年以上の緊密な関係が築けるだろう」
=第2部おわり
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