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ダメな社員は資料でわかる? ノイズ、だらだら長い、接続詞が多い… (おっしゃる通り)
証券会社は情報産業だ。顧客にお金を預けさせるには説得力のある資料が不可欠。
証券界のガリバー野村證券で、当時の社長に「営業の鑑」と言わしめた最年少役員の武器は、
驚異的データと顧客発言を記録した備忘ノートだった。
顧客に刺さる数字・データを盛り込む
野村證券時代、43歳の若さで最年少役員に大抜擢された津田晃氏。
顧客の望む株式銘柄をずばりと推奨するなど資料づくりの提案力がずば抜けていたのだ。津田氏は語る。
「なぜ、その株式の銘柄をお勧めするのか。
説得力を持たせるには的確な数字・データを盛り込むことが重要です。
いくら口で熱く語っても、裏付けがなければ顧客の心を動かすことはできません」
数字に強いことが、証券会社のみならず企業で役員になる必要条件だ、と津田氏。
例えば、推奨銘柄企業の決算報告書や有価証券報告書といったIR資料、
さらに官庁発表の調査報告書など、複数の統計データを随時把握する。
そうすることで、顧客に提出する資料に書き込む数字の精度も上がる。
津田氏は現役時代、数百人の得意客の名前、電話番号、所有する銘柄と
その時点の株価などを頭に入れていた。
「野村證券に入社して営業マンになった直後、僕は『会社四季報』を丸暗記しました。
毎朝、四季報の10ページ(20社分)を切り取って、自宅と会社を往復する通勤電車内やすき間の時間で、
その10ページ分を何度もボロボロになるまで読み込む。当時1冊に掲載されていたのは約2000社のデータ。
四季報は季刊(3カ月に1度)なので、新しいのが出るたびにこれを繰り返しました。
各社の業績や財務内容、株価の動向、従業員数などの数字はおおよそ把握していました」
場合によっては、特定の企業の社史も読み、歴史的背景や財務・労務情報を時系列で
調べることも珍しくなかった。
よって、顧客に突然別の企業のことを尋ねられても、全体像はつかんでおり、データを探し出す苦労も少ない。
「顧客の投げてくる球を何でも打ち返せるようにする」経験と習慣が証券会社での
自分のポジションを高めたわけだ。
ただ、津田氏の「資料づくり」は数字に強いからといって数字尽くしにはしない。
グラフは余計な「ノイズ」を消しシンプルに
「数字をシンプルな形に見せないと顧客を惑わせます。例えば、資料の折れ線グラフ。
5本も6本も線があったら、こちらが強調したい線がどれかわかりにくい。
だから、強調したい線以外のものは“その他”としてまとめて1本の線にすれば、すっきりする。
ノイズを消せば、顧客も直感的に理解してくれます」
また、数字をそのまま資料に書くのなら、「絶対数」か「伸び率(%)」か、
顧客に与えるインパクトをイメージすることも数字入り資料づくりの基本だと津田氏は語る。
「事実(数字)を曲げたり、改ざんしたりしてはいけませんが、
自分たちのプレゼンのストーリーに合うよう数字を加工して、それを際立たせるような工夫は必要です」
ダメな社員はプレゼン資料が総花的
さらに、資料ビジュアルにおけるシンプル化の法則は、文書にも当てはまる。
「一文一文がだらだら長かったり、接続詞が多く、
言いたいことがいくつもあったりする文では客は読んではくれないでしょう。
同じように、資料全体が厚いのもよくない。
はなから読む気が失せます。
どうしても厚くなってしまうなら、エッセンスを最小限の枚数にまとめ、
詳細や資料データは別添の資料として提出すればスマートです」
多くの部下の資料を長年見てきた津田氏によれば、長い文書の資料はとかく、
つくる側の意見や願望ばかり書き連ねるケースが目立ち、
聞く側(顧客)の願望を叶えたり抱える課題を解決したりすることにはつながりにくいという。
「結局、提案する資料は、こちらが顧客に何かをしてあげるための売り込みのツールというよりも、
客のソリューションの手伝いをするためのツールなんです。そこを絶対勘違いしてはいけません」
もし、プレゼンや営業の機会が複数回あったら、最初はとにかく、相手の要望をよく聞くこと。
潜在的な欲求までも感じ取り、それも踏まえて資料を修正し、再提案する。
「出世できない社員に共通していることは何度プレゼンをしても、資料の内容がずっと総花的であること。
その点、優秀な社員の資料は徐々に的がしぼられていきます。
資料の文の表現も簡潔になり、資料の量も少なくなります」
資料再提出のレスポンスを早くすることも顧客の好感度を高め、
ひいては出世の階段を上っていくために重要ポイントとなるのだ。(大塚常好=文 堀 隆弘=撮影)
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