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日本株売り抜け、海外勢の誤算と「最終手段」

2014年02月06日 07時30分42秒 | 経済
 2012年秋から始まったアベノミクス相場をけん引しているのは外国人投資家です。東京証券取引所が発表する投資部門別売買動向をみると、13年に15兆円強を買い越しています。一方で売りの主役は個人投資家と金融機関で、それぞれ約8.7兆円、5.8兆円の売り越しとなっています。 つまり外国人が買い越した金額と、国内の個人と金融機関などの機関投資家が売り越した金額はほぼ一致しています。

 この数字を見る限り、アベノミクスに期待して日本株を買ったのはもっぱら外国人だけで、日本の投資家は海外勢の買いで株価が上がったのをこれ幸いとばかりに保有株を大量に売却した、という構図が見えてきます。これは外国人にとって大きな誤算だったに違いありません。

 日本の投資家(特に機関投資家)はこれまで、株価が上昇すればするほど「バスに乗り遅れるな」と積極的に買いに動いてきました。現物株を売買する個人の長期投資家は株価が大きく下がれば買い、上がれば売る。信用取引を利用する短期投資家はその逆、という傾向です。これに対して外国人は、日本株が大きく値下がりするほど積極的に買い、大きく値上がりすれば売っていました。

 ところが昨年は、外国人と日本の機関投資家はこれまでと逆の投資スタイルをとったのです。つまり株価が上がるほど外国人は積極的に日本株を買い、日本の機関投資家は売ってくるという傾向が顕著に出ています。

 日本の機関投資家は、これまで大きな評価損を抱えていた保有株で久々に利益が出るようになったため、いまのうちにお荷物を減らしておこうと考えたようです。個人も長年塩漬けになっていた現物株の損失が減ったり利益が出たりするようになったため「やれやれの売り」を出したのでしょう。
 その背景として、投資に対する税制の変化が大きく影響したのは間違いありません。証券優遇税制が13年末で終了し、14年からは譲渡益にかかる税金がこれまでの10%から20%に引き上げられたからです。

 いくら株価が大きく上がっても、 利食い売りしなければ利益を確定することはできません。安倍晋三首相がアピールした「バイ・マイ・アベノミクス」(アベノミクスは「買い」だ)に乗って日本株を積極的に買い増してきた外国人は、おそらく日本の公的年金も株式による資産運用を増やすことを期待したと考えられます。120兆円に上る資産のうち株式の比率を10%高めれば12兆円、5%でも6兆円もの新規投資が期待できます。

さらに1月から始まった少額投資非課税制度(NISA)で、個人の日本株や株式投資信託の新規投資が増えることもかなり期待していたはずです。

 しかし公的年金は株式の運用比率を高めたとしても、高値を追って買い上がることはありません。そんなことをすれば運用成績が悪化し、公的年金を安定的に維持することが難しくなりかねないからです。

 NISAも、外国人による利食い売りの受け皿になるほどの買いは見込めません。NISA口座を利用する個人は初心者など経験の浅い投資家が多いためです。

 日本株を大量に買い越した外国人投資家が利益を確定するには、「出口戦略」は2つしか残されていません。(1)長期投資を基本とする年金基金など別の海外勢が積極的に買ってきたタイミングを見計らう(2)先物取引をうまく利用する――のどちらかで売り抜ける手です。

 1990年代初めにバブルが崩壊して日本株が急落したとき、引き金を引いたのは外国人でした。先物取引で大量の売りを出した後に現物株を大量に売却し、大きな利益を得たといわれています。
 日本がバブル崩壊の直前に株価指数先物取引を導入したのは、大量の株式を保有している日本の機関投資家が相場急落で巨額の損失を出さないためのヘッジを可能にする、というのが主たる目的でした。ところが先物取引の経験と知識が乏しかった機関投資家はこれをうまく利用できず、もっぱら外国人が巧みに使って利益を得たのです。

 1月も機関投資家は日本株の売り越しが続いているものの、個人は買い越し、外国人は売り越しに転じています。個人の買い越しがどこまで続くか分かりませんが、個人だけでは外国人の大量売りの受け皿となるのは不可能です。

 海外勢が株価指数先物を大量に売ったうえで含み益のある現物株を大量に売りに出せば、日経平均株価や東証株価指数(TOPIX)は暴落し、先物と現物の両方で大きな利益を手に入れることができます。仮に現物で損が出ても、先物でそれ以上の利益をあげられるのです。

もし外国人が残された2つの「最終手段」のどちらかで日本株の大幅な売り越しに転じれば、株式市場にさらなる激震が走ることは間違いありません。最近は先物主導で株価が乱高下するケースが増えています。バブル崩壊時に株価が急落した構図と重なる部分もあるだけに、気になるところです。


<筆者プロフィル> 1942年愛媛県生まれ。中央大学法学部を卒業後、株式専門誌などの編集・記者を経て、87年に経済ジャーナリスト・経済評論家として独立。証券、金融、不動産から経済一般まで幅広い分野で活躍中。的確な読みとわかりやすい解説に定評があり、著書は90冊を超えている。「もっともやさしい株式投資」「『相場に勝つ』株の格言」「世界で最も読まれている株の名著10選」(日本経済新聞出版社)などがある。
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