【ソウル=島谷英明】北朝鮮の新指導者、金正恩(キム・ジョンウン)氏への権力集中を狙った長距離弾道ミサイルの発射。13日の打ち上げは失敗に終わり、正恩氏の賭けは裏目に出た。日米韓などの制止を振り切って、ミサイル発射に走った北朝鮮に国際社会はどう臨むのか。13日の動きを追った。
■発射――韓国、54秒で確認
北朝鮮の金日成主席と金正日総書記の銅像除幕式に出席し、大歓声に手を振って応える金正恩第1書記(中央、13日午後、平壌)=共同
黄海を巡航していた韓国のイージス艦「世宗大王」。そのレーダーが北朝鮮から打ち上げられたミサイルをとらえたのは13日午前7時39分。発射から54秒後だった。
それから間もなく、青瓦台(大統領府)で物価情勢の説明を受けていた李明博(イ・ミョンバク)大統領のもとに、国家危機管理室長が駆け込んだ。大統領は直ちに外交安全保障閣僚会議の招集を指示する。「ミサイルが発射された。成功かどうかは確認中だ」。午前7時55分、国防省の記者室で、報道官は記者団にこう語った。
平壌市の羊角島ホテルに設けられた北朝鮮のプレスセンター。現地入りした共同通信によると、ミサイル発射を伝える海外のニュースは午前8時前から伝わっていた。だが、発射を伝えるはずの大型スクリーンには何も映らない。外国人記者に詰め寄られた北朝鮮の当局者は戸惑うばかり。「われわれも指示を待っているんだ。とにかくここで待機してください」
■失敗――北朝鮮が臨時ニュース
各国政府が情報確認を急いでいたころ、米国の早期警戒衛星は黄海の上空で高熱が放たれたのを感知していた。北朝鮮のミサイルは発射から数分後に爆発。20個あまりの破片になって海上に落ちた。米本土をも射程にとらえるミサイルで軍事力を誇示し、正恩氏への権力継承を確実にする――。北朝鮮の思惑は裏目に出た。
午前9時から始まった韓国株式市場。ミサイル失敗の報道を受け、韓国総合株価指数(KOSPI)は上昇。値上がり幅は1%を超え、韓国ウォンも買われた。
北朝鮮に動きが出たのは正午過ぎ。午後0時11分、国際会議「主体思想世界大会」を放映していた朝鮮中央テレビの画面が唐突に変わる。映し出された女性アナウンサーは沈痛な表情で原稿を読み上げた。「午前7時38分に実用衛星『光明星3号』を発射したが、軌道進入は成功しなかった」「科学者、技術者、専門家らが現在、失敗の原因を究明している」。臨時ニュースは40秒ほどで終わった。
■非難――日米韓、包囲網急ぐ
「明確な国連決議違反だ。関係国と緊密な連携を……」(野田佳彦首相)
「強力に糾弾しなければならない」(韓国の金星煥=キム・ソンファン=外交通商相)
国際社会の制止をよそにミサイルの打ち上げを強行した北朝鮮を日韓は批判。金外交通商相はクリントン米国務長官に電話を入れ、国連安全保障理事会で問題を取り上げることを確認した。
ニューヨークの国連本部。午後11時(現地時間午前10時)ごろ、安保理に出席する大使が集まり始めた。その1人、中国の李保東大使は記者団に「すべての関係国は冷静にならなければならない」と発言。日米韓が訴える対北朝鮮包囲網をけん制した。対照的に米国のライス大使は記者の質問には答えず、無言のまま。硬い表情で会議場へと向かった。
一方の北朝鮮。動静が再び伝えられたのは午後6時を過ぎてから。朝鮮中央通信が13日の最高人民会議で正恩氏が新設の「国防委員会第1委員長」に就いたと報じた。
とはいえ、実績不足の正恩氏にとって頼みの綱は故正日氏の威光。求心力を高めて実権を握るには軍事面での「成果」が欠かせない。国際社会に背を向けながらも、ミサイルや核実験で経済支援を引き出す戦略は変わりそうにない。
13日午後3時から韓国で開かれた国防委員会。金寛鎮(キム・グァンジン)国防相はミサイルの分析などを公表したうえでこう語った。「北朝鮮は(打ち上げ失敗の)挽回のために追加的なミサイル実験や核実験に動くだろう」。ミサイル失敗で朝鮮半島の地政学リスクが小さくなったと考えるにはまだ早い。
■発射――韓国、54秒で確認
北朝鮮の金日成主席と金正日総書記の銅像除幕式に出席し、大歓声に手を振って応える金正恩第1書記(中央、13日午後、平壌)=共同
黄海を巡航していた韓国のイージス艦「世宗大王」。そのレーダーが北朝鮮から打ち上げられたミサイルをとらえたのは13日午前7時39分。発射から54秒後だった。
それから間もなく、青瓦台(大統領府)で物価情勢の説明を受けていた李明博(イ・ミョンバク)大統領のもとに、国家危機管理室長が駆け込んだ。大統領は直ちに外交安全保障閣僚会議の招集を指示する。「ミサイルが発射された。成功かどうかは確認中だ」。午前7時55分、国防省の記者室で、報道官は記者団にこう語った。
平壌市の羊角島ホテルに設けられた北朝鮮のプレスセンター。現地入りした共同通信によると、ミサイル発射を伝える海外のニュースは午前8時前から伝わっていた。だが、発射を伝えるはずの大型スクリーンには何も映らない。外国人記者に詰め寄られた北朝鮮の当局者は戸惑うばかり。「われわれも指示を待っているんだ。とにかくここで待機してください」
■失敗――北朝鮮が臨時ニュース
各国政府が情報確認を急いでいたころ、米国の早期警戒衛星は黄海の上空で高熱が放たれたのを感知していた。北朝鮮のミサイルは発射から数分後に爆発。20個あまりの破片になって海上に落ちた。米本土をも射程にとらえるミサイルで軍事力を誇示し、正恩氏への権力継承を確実にする――。北朝鮮の思惑は裏目に出た。
午前9時から始まった韓国株式市場。ミサイル失敗の報道を受け、韓国総合株価指数(KOSPI)は上昇。値上がり幅は1%を超え、韓国ウォンも買われた。
北朝鮮に動きが出たのは正午過ぎ。午後0時11分、国際会議「主体思想世界大会」を放映していた朝鮮中央テレビの画面が唐突に変わる。映し出された女性アナウンサーは沈痛な表情で原稿を読み上げた。「午前7時38分に実用衛星『光明星3号』を発射したが、軌道進入は成功しなかった」「科学者、技術者、専門家らが現在、失敗の原因を究明している」。臨時ニュースは40秒ほどで終わった。
■非難――日米韓、包囲網急ぐ
「明確な国連決議違反だ。関係国と緊密な連携を……」(野田佳彦首相)
「強力に糾弾しなければならない」(韓国の金星煥=キム・ソンファン=外交通商相)
国際社会の制止をよそにミサイルの打ち上げを強行した北朝鮮を日韓は批判。金外交通商相はクリントン米国務長官に電話を入れ、国連安全保障理事会で問題を取り上げることを確認した。
ニューヨークの国連本部。午後11時(現地時間午前10時)ごろ、安保理に出席する大使が集まり始めた。その1人、中国の李保東大使は記者団に「すべての関係国は冷静にならなければならない」と発言。日米韓が訴える対北朝鮮包囲網をけん制した。対照的に米国のライス大使は記者の質問には答えず、無言のまま。硬い表情で会議場へと向かった。
一方の北朝鮮。動静が再び伝えられたのは午後6時を過ぎてから。朝鮮中央通信が13日の最高人民会議で正恩氏が新設の「国防委員会第1委員長」に就いたと報じた。
とはいえ、実績不足の正恩氏にとって頼みの綱は故正日氏の威光。求心力を高めて実権を握るには軍事面での「成果」が欠かせない。国際社会に背を向けながらも、ミサイルや核実験で経済支援を引き出す戦略は変わりそうにない。
13日午後3時から韓国で開かれた国防委員会。金寛鎮(キム・グァンジン)国防相はミサイルの分析などを公表したうえでこう語った。「北朝鮮は(打ち上げ失敗の)挽回のために追加的なミサイル実験や核実験に動くだろう」。ミサイル失敗で朝鮮半島の地政学リスクが小さくなったと考えるにはまだ早い。
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