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池上彰 バブルの崩壊で格差は拡大した。「一億総中流」が過去のものとなった日本は世界で唯一、成功した「社会主義国」だったのか?

2023年09月14日 06時33分42秒 | 行政
「第二次世界大戦後の現代史は歴史的価値が定まっていないことが多いためか、学校で学ぶ機会が少ない」と話すのがジャーナリストの池上彰さん。その池上さんいわく「バブル崩壊後に格差が拡大し、『一億総中流』の意識も過去のものとなった」そうで――。政治、経済、外交、安全保障、エネルギー……。授業では教えてくれない現代史を池上さんが解説します。

日本は「世界で唯一、成功した社会主義国」?

高度経済成長で豊かになった日本は「世界で唯一、成功した社会主義国」と皮肉をこめて呼ばれることがあります。

これはもともと旧ソ連のゴルバチョフ書記長の言葉です。大統領制を作って自ら大統領になったので、ゴルバチョフ大統領とも呼ばれます。そのままソ連が崩壊してしまったので、最初にして最後のソ連大統領でした。

ゴルバチョフはソ連共産党のトップとしてソ連の停滞に危機感を抱いていました。

1917年にロシア革命が起こり、5年後にソ連が成立しました。70年近く社会主義を続けてきたものの経済は停滞するばかり。

そこで、1986年に立て直し(ペレストロイカ)を掲げ、その柱として情報公開(グラスノスチ)を進めました。ゴルバチョフは国民にソ連の実態を知らせることで奮起を促そうとしたのでしょう。

ソ連の崩壊

しかしソ連国民は「こんなにひどかったのか。我々は騙されていた!」とやる気を失い、働かずにウォッカを飲んでばかり。それでも全員公務員ですからクビになることはありません。

ウォッカの値段を上げたり、販売を制限したりしたことでゴルバチョフの人気は地に落ち、結果としてソ連は崩壊します。

 
 

ゴルバチョフは東西冷戦を終わらせた立役者として西側では高く評価され、ノーベル平和賞を受賞していますが、ロシア人にとっては国を崩壊させた張本人であり、国内での評判はよくありません。

2022年にゴルバチョフが死去した時、日本を含む西側では大きなニュースになりましたが、ロシア国内ではきわめて冷ややかに扱われていました。

「ノルマ」という言葉はロシア語

ゴルバチョフが変えようとしたかつてのソ連は社会主義国を標榜していました。社会主義では国が経済の計画を立て、コントロールします。

たとえば5カ年計画を立て、1年間に全国で生産すべき自動車の台数を決め、それぞれの労働者にノルマを割り当てます。ちなみに現在も使われている「ノルマ」という言葉はロシア語です。労働者は決められた自動車だけを作っていれば給料が保証されました。

国がすべて決めるので、自動車の性能を上げようとか、作業を効率化しようとか考える必要はありません。サボってもクビになるわけではありませんが、頑張っても頑張らなくても給料は変わりません。みんなが平等に働いて、平等に給料をもらえるのです。

みんなが平等というと一見、美しい社会に思えますが、こうした環境では働くモチベーションが上がらず、経済は発展しません。

実際、社会主義計画経済で発展した国は人類史上ひとつもありません。

「一億総中流」の意識はもはや過去のもの

平等になるどころか、権力が集中する共産党幹部がぜいたくな暮らしをするようになり、格差が固定化。労働者は同一賃金であるためやる気をなくし、経済は低迷しました。

一方、日本は資本主義国なのに、社会主義国のように5カ年計画を立てて経済活動を行なってきました。国の規制が強く、自由競争とは言えないという意味でも多分に社会主義的です。

こうした状態でも労働者は夜遅くまで喜んで働き、経済発展を実現することができました。そして、ほとんどの人が「自分は中流」だと意識できるような平等で豊かな社会を作り上げることができたのです。

ソ連が失敗した社会主義が日本で成功をおさめている。この状態をゴルバチョフは「成功した社会主義国」と皮肉ったのです。

もっとも、日本経済もバブル崩壊後はふるいません。格差が拡大し、「一億総中流」の意識も過去のものとなりました。

一時的には「成功した社会主義国」に思えましたが、最終的にはこちらも崩壊したと言えるかもしれません。

※本稿は、『池上彰の日本現代史集中講義』(祥伝社)の一部を再編集したものです。

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