●月夜の終わりと日差しの始まり
6機ものMSが、大地を震わせて突き進む。
時は ルナツー作戦の頃より約2か月ほど経った頃。
それは、大規模なオデッサ反攻作戦が展開されようとしている時期である。
「まだまだ先は長そうだ。トウヤ准尉、力を抜け。今、変に気を張る必要はない」
「諒解です、少佐殿・・・」
抑揚のない声。それが部隊指揮官であるフェープ少佐へと返答される。それを聞き、少佐は胸の内でため息をついた。以前、地上でとある作戦を共にした彼は、トウヤが感情を表に出そうとしないことを知っている。しかし、今はその時以上だ。
今回の作戦目的、それがトウヤを駆り立てているのが嫌が応にもわかる。
彼らに下された命令。それは、独立特殊部隊によるレビル将軍への奇襲である。
敵味方が入り混じっては乱れるルナツーの戦場。その中から帰還したトウヤには、為さねばならないことが幾つもあった。
そして今、そのうちの最も過酷な義務をなさなければない。その時である。
「そん・・・な・・・嘘、ですよね・・・? 嘘、嘘・・・嘘だと言ってください!!? お願いだから・・・嘘と言って・・・」
愕然とした様。それから更に段々と負へと転じていく感情。涙がこぼれ、その場所に崩れてしまった彼女へ、自分は何といえばいいのだろう。
あの時交わした約束を果たすことができず、トウヤはただ拳を握りしめる。
「大尉、大尉・・・」
「・・・・・・すまない、ユキ」
絞り出すように口に出せたのは、その一言。それ以上は、全て言い訳でしかない、そう感じた。
あの時の苦すぎた出来事は、決して忘れることはないだろう。
その後もユキとは何度も轡を並べたが、今はどうしているのやら。
狭いコクピットの中で、トウヤはそんな事を考えていた。そして、頭を切り替えると、改めて機体データを見返した。
今回の作戦のため、新しく支給された新機体。だが、果たして「新しい」と呼べるのかどうなのか…。
―――MS-06D デザートザク―――
砂漠戦用に開発された、初期の地上専用機。
今回は悪路の走破ということもあって駆動面での向上と、奇襲ということを考慮し、装甲の構造を変更、強化が施されている。
武装には120mmと、戦車の砲塔を流用したマゼラトップ砲を備えさせた。これは、射撃が得意なトウヤの希望によるものだ。他のメンバーは、従来のザクバズーカや120mmを装備させている。
しかし、この機体で果たして奇襲が可能なのか? その点においては疑問符が付くだろう。
既にジオンは、新規の機体を幾つも開発、投入している。生産都合はあれど、それでも尚、今回のような作戦にこの機体を投入する理由は見当たらない。
ならば、浮かぶものは2つ。ただの捨て石か、或いは囮か・・・。もし、本気で狙おうと考えるのなら、それは酔狂というものだろう。
だが、トウヤにとってそんなことはどうだっていい。
これは、与えられたチャンスなのだ。名実ともに連邦の象徴であるレビル。それを自分が討つ。それが実行できるのならば、何一つ不都合なことはないではないか。
(大尉、行きます。俺が、この手で、必ず・・・ッ!)
●戦場前の。
(トウヤ・・・今頃、どうしてるんだろう)
幾つものMSが立ち並ぶ格納庫。その中で、思わず溜め息が出てしまう。
ルナツー後も幾つかの戦場を共に回ったが、特別部隊の一人として彼は引き抜かれた。詳しいことは機密なので分からない。
(生きていて欲しい。大尉の時みたいなのは、もういやだよ・・・)
ルナツー戦以降、トウヤは変わった。以前は若干取っ付きにくい程度の印象があったが、あの戦場を超えると、殆んど感情を投げ捨てたかのようになってしまった。
そしてもう一つ。それは、率先して危険な任務を行っていったという事実。絶えず仲間の盾となり、誰よりも武器として動く。任務遂行のためには命など顧みない。
それ故の高い戦果。一時は上官殺しと誹謗もされたが、それすら行動でねじふせた。引き抜かれたのも当然とも思える。
しかし、それだけにユキは彼が心配でならなかった。
「…尉・・・准尉? 聞こえていますか?」
「えっ!? なんでしょうか?」
「もう、しっかりしてくださいよ。恋人のことで頭がいっぱいなんですか?」
「っ!? わ、私に恋人なんかいません!? ラサ曹長、ふざけてると怒るわよ!」
「はいはい・・・全く、こんな時でもそうやってられる准尉は肝が据わっているというか・・・」
新しく配置された部隊。そこで知り合った同年代の整備兵、ラサ曹長が軽口をたたくと、すぐさまユキ准尉が口をとがらせて反論する。
そんな慌てている准尉にさせて互いの緊張を紛らわせるのは、彼女なりの楽しみでもあった。
「折角新しいのが回ってきたんですし、壊さないようにしませんとね。以前のは、酷いぼろぼろというか・・・」
やれやれと言わんばかりに肩をすくめる曹長。そして彼女は、回された機体に目を移した。
―――MS-07B グフ―――
陸戦、そして格闘戦に特化させた青い機体。電磁鞭と5連装75mmマシンガンを標準装備。
従来のザクよりも汎用性は低下しているが、それでもその性能はJ型の比ではない。
オデッサ防衛の一環として支給された機体である。
「そうね。パイロットとしては、愛機が壊れるのは忍びないもの。でも、誰かを守れるのなら、別にいいかな」
「整備班をあんまり泣かせないで下さいよ~。無茶な使い方は程々に・・・」
「分かってるわよ。ちゃんと、戻ってくるつもりなんだから」
沈んだ表情はもうない。良かった、いつもの明るい准尉だ。
ちゃんと帰ってきてくださいよ? まだまだからかい足りないんですからね。
●ガードナー
爆音。同時に地面が抉られ、そして1体のデザートザクが吹き飛ばされる。
不意打ち気味に行われたそれに、フェープ少佐はすぐさま散開の命令を下すと、敵の射撃方向を確認する。
―――RGM-79(G) 陸戦型ジム―――
並のジムとは異なり、頑強なルナチタニウム装甲を使用した陸戦特化のMS。
3体で現れたそれは、内2体が180mmを装備している。
護衛か、探索か。いずれにせよ厄介極まりない。オマケに、敵の攻撃地点はかなり距離がある。
マシンガンにバズーカ。汎用性の高い武器を揃えたのが災いした。こちらもすぐに応戦するが、命中は期待できない。確実に当てるならばもっと近づかなければ。そしてそれは、相手がまず許さないだろう。
更に一機のザクが破壊される。少佐は舌打ちをするも、突撃の命を下そうとした。
相手のジムが崩れ落ちたのは、まさにその時であった。
「行ってください・・・この中で残るのは自分が適任です」
●示されたものへの敬意
敵は3体。砲炎から見て、2体が長射程武器・・・こちらでそれに対応できるのは自分だけ、か。
結論はすでに出ている。くそっ! クソ野郎!! この手で叩き潰したかったが、状況が許さないのかよ!!
ああ、そうだ。あの人は仲間のために戦った。そして自分は、あの人の部下であり、大事なことを教わった。だから、だからこそ!!
「行ってください・・・この中で残るのは自分が適任です」
長射程のマゼラ砲が更に火を噴く。先ほどとは違い、今度は当たらない。
流石にもう油断等はしていない、か。
「何を馬鹿な。第一、准尉。君はその手で・・・」
淡々としたトウヤの言葉に驚きつつも、少佐は冷静な声で彼に問う。
今回の作戦に入れ込む理由、それをフェープ少佐は既にトウヤから聞いている。自分のために犠牲となった上官の敵討ちだと。そして、それにどれ程の押し殺した感情を込めているのかも。
「レビルの首を取る!! その想いは今でも変わっていません!!
ですが、仲間を見捨ててそれは絶対にありえません!! そして、この場で対処できるのは自分だけです!! 行ってください!!」
もはや一刻の猶予もない。この場に居続ければ、増援が来る可能性もありうる。
少佐は歯噛みするも、自分の任務を天秤に掛ける。何が最適で、何が最悪か。そして、何を優先するべきかを・・・。
「・・・分かった。残りの連中は私に続け!! 准尉の意地を無駄にするな!!」
早口に激を飛ばす少佐。そしてもう一つの命令を口にした。
「死ぬことは許さんぞ! 危険と判断したらすぐに引け!!」
「・・・諒解!! フェープ少佐!!」
少佐の命令が聞こえ、トウヤは僅かに目を開き、そして口元を歪ませる。
当たることがないであろう援護射撃を放ちつつ、残った3機は更に足を進めていく。
そして、それを見て相手の一機が前に突出して来た。2対1の状況。援護を受け、どうやら一気に潰す気らしい。
「いいだろう。相手をしてやる」
援護をかわしつつ、残弾を向かってくる陸ジムに叩きこむ。一撃では崩れないが、それなりの被害が入った。
次に重いマゼラ砲を投棄。120mmに切り替えると、機体を左右にぶらしながら、ひたすらに限界ぎりぎりの高機動を行う。急激なGに身体が悲鳴を発しているのが分かる。が、今は嫌が応でも聞かせてやる。
後衛の180mmと、前衛の100mmマシンガン。それらが自機を襲う。幾つもの砲火が向けられ、けたたましい音が周囲を覆った。濛々と土砂が舞い上がり、周囲が茶の色に染められた。
だが、当たらない。当たっても、致命傷は確実に避けている。そして、ダメージ軽減には、強化装甲も一役買っていた。
「こんなもんじゃない。ルウムもルナツーも!! この程度じゃなかったんだよ!!」
ショルダーシールドを盾に、勢いのまま前衛を吹き飛ばすと、立ち直る前にコクピットへと弾を叩き込む。
そして120mmを連射。ライン上に撃ち、土煙を隠れ蓑にしつつ、トウヤは残りのもう一機へと襲いかかった。
結果は、既に付いているようなものだった・・・。
3機のジム、その全てを撃破。だが、ここで状況が変わる。周囲に敵の増援が見受けられた。
しかし、焦りはない。足元に転がっているジムの180mmを手に、トウヤは笑う。さも、当然のように。
「ありがたいね! こっちにくる分だけ、任務成功率が上がるんだからな!!」
戦いは、まだ終わらない・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――
真っ暗な操縦室の中で、うっすらと意識が開かれる。どうやら気絶していたらしい。コンピュータを見るも、機体はボロボロ。損傷具合から撃破されたと見ていい。
「う・・・作戦は・・・どう、なった・・・」
作戦の有無、次によく助かったものだと思うも、更に別のことが浮かぶ。
どれだけ時間が経ったのだろう? そして、何故捕虜などにはならずに?
幾つかの疑問がよぎるが、まずは外へ・・・。
そこに、一つの答えがあった。
「こ、これは・・・っ!?」
物言わぬ愛機を這い出て見た最初の光景。それは、あまりにも異形だった。
解き放たれてはいけない力。
中世紀の時代、2度、実際に使われ、そして多くの人を焼いた焔。
幾つもの茸状に膨れた紅蓮と煙。それによって吹き荒れるオデッサの風は、戦慄と禍々しさを孕み、存分に数多の地獄を創りあげていた。
南極条約によって禁止された兵器。「核」が使われたのだ。
●少女、戦い中
電磁鞭が回路を焼き、崩れた機体に90mmマシンガンが打ち込まれる。
残ったジムから銃口が向けられたが、それは弾をばらまく前に僚機によって潰された。
ユキ准尉が巨大な雲を見ることになったのは、そんな戦争のまっただ中の時であった。
「核爆発・・・!? そんな!? ・・・うっ!? けほけほ・・・なに、この感覚!?
くっ・・・戦況は、一体どうなっているの!?」
目の前で起きた光景に、吐き気のような感覚が沸いてくる。
よくわからないそれを打ち払いつつ、ユキは僚機へとすぐさま確認を取る。そして、運よく答えは帰ってきた。
「准尉、作戦に変更が出たぞ。連邦が混乱しているうちに、全軍後退とのお達しだ。俺たちは、アジア方面へと移動する。
しかし・・・全く、司令官殿はとんでもない物を持ち出しやがる! くそが!!」
同僚のさも嫌そうな声を聞き、頭の中で同意する。
目的のためには手段を選ばない。それが唯一のルールになるのならば、一時の勝利が戦争全ての敗北になりかねない。
果たして、司令官殿はそのことを理解しているのだろうか。
「諒解です。・・・ん、もうちょっと頑張って。私のグフ」
頭を振り、すぐに切り替え。どうするのかを考えなくては。
そしてこの先、機体をさらに酷使するであろうことに対し、曹長の言葉がよぎる。
またなんか言われちゃうなぁ・・・。でも、ちゃんと帰るって言った以上、その約束は守ってみせないとね!
●つわものどもがゆめのあと
オデッサはジオンの敗北で幕を閉じた。しかし、まだこれが終わりというわけではない。
あの後、トウヤはどうにか友軍に拾われアジア方面へと逃れた。それはある意味奇跡と言ってもよく、またこれから先も続くであろう戦争を考慮するならば、不幸ともいえるのだろう。
しかし、トウヤ自身はそれを不幸だとは思わない。それは自分が為すべき義務だと考え、そして戦う。
アジアへと逃れた際、一つの話を聞いてその気持ちは更に強固なものへと変わった。
オデッサ反攻作戦、その中の一角。交戦中のとあるビッグトレーを中破させたという話だ。そしてそれは、壊れかけた2機のザクが護衛を振り切り、相討ち的に行ったのだという。
そしてもう一つ。オデッサ陥落後の一時期、レビル将軍が公の場に見られなかったという噂だ。
確かな証拠はない。あるのは状況だけで、偶然なのかもしれない。
しかし、トウヤは確信する。それは、紛れもなくフェープ少佐達だと。確かにその刃は届いたのだと。
(戦争は終わらない。だが、俺は生きている。ならば、何度でも戦うだけだ・・・何度でも! 何度でも!!)
表面を覆う押し殺した感情。だが、胸の内では危うい程に滾るそれ。
消えることのない意思を胸に、次の戦場へ、次の次の戦場へと、トウヤは目を向けさせた。
●今回の大雑把な結果
・ジオン
オデッサを墜とされるも、連邦に痛烈な打撃を与えることに成功。
このため、戦局は油断できずも、天秤はジオン側に有利となる。
(これの有利不利によって兵器開発・兵量などに影響あり)
・連邦
オデッサの奪還に成功。ただし、総数で約3:1だったので、勝てて当たり前とのこと。
レビル、負傷。
マ・クベの核が3,4発ほど実際に使用される。
エルランの裏切り発生。これの捕獲に失敗。
今回の選択機体:MS-06D、MS-07B
当時の選択可能なジオンの機体(ただし、物によって、階級、記章などの制限あり)
・MS-06K(ザクキャノン)
・MS-06S
・MS-06V(ザクタンク)
・MS-07B(グフ)
・MS-09 (ドム)
・ズゴック
・アッガイ
・ドップ
・マゼラアタック
はい。かなり遅くなりましたが、オデッサ作戦をお送りいたしました。
さて、今回、トウヤは極めて変な部隊におりましたが、これはユキギリの創作ではなく、「特殊返信」によるものです。
この特殊返信ですが、結構貴重だったのか、読参時にお世話になったまとめサイト様にも載っておりませんでした。
以下、原文になります。
★作戦終了後、母艦に帰投した君は上官に呼び出しを受けた。
辞令によるとオデッサ方面に配属され、新型機で編成される独立部隊に編入されるらしい。
「装甲を強化したザクの改良型を支給する。貴様はこれでレビルの横腹を突くのだ。戦果を期待している」
-撃破されるまで、“デザートザク”に搭乗できる。
データ/MS-06Dザク砂漠戦仕様(地上専用)。装備はザクシリーズのものを使用。
今回“部隊欄”赤で[奇襲]と記入の事
・・・初めての特殊返信でしたので、当時は嬉しいと思ったものですが、今見るとデザートザクはねぇだろと小一時間。
もうドムも実装されてるんですよ? せめて奇襲部隊らしく、飛行型グフとかよこせよ!!(核)
とまあ、劇中で捨て石だの何だのと言った理由はお分かりになられたと思います。
また、微妙にカスタムされていた理由ですが、特殊返信に即してそれっぽいものを追加させていただきました。
「装甲を強化」とありましたしね。
尚、今回トウヤが機体をやられておりましたが、これは返信で機体破壊判定を食らったことになります。
また、劇中に描かれているビッグトレーとレビルの件は、ゲームギャザ本誌で実際に中破・負傷の描写のあった事を合わせてになります。
それも含めまして妄想を重ね、こういう形になった次第です。
・・・しかし、初の機体破壊が特殊返信によるというのも実にアレですね(ぁー)
次回はアジアとなります。
天秤的にはジオン有利となりましたが、依然予断を許さない状況です。さて、結果は如何に?
※尚、この回の結果は「ゲームギャザ 2000:7月号 vol.11(HOBBY JAPAN)」に収録されたものとなります。
6機ものMSが、大地を震わせて突き進む。
時は ルナツー作戦の頃より約2か月ほど経った頃。
それは、大規模なオデッサ反攻作戦が展開されようとしている時期である。
「まだまだ先は長そうだ。トウヤ准尉、力を抜け。今、変に気を張る必要はない」
「諒解です、少佐殿・・・」
抑揚のない声。それが部隊指揮官であるフェープ少佐へと返答される。それを聞き、少佐は胸の内でため息をついた。以前、地上でとある作戦を共にした彼は、トウヤが感情を表に出そうとしないことを知っている。しかし、今はその時以上だ。
今回の作戦目的、それがトウヤを駆り立てているのが嫌が応にもわかる。
彼らに下された命令。それは、独立特殊部隊によるレビル将軍への奇襲である。
敵味方が入り混じっては乱れるルナツーの戦場。その中から帰還したトウヤには、為さねばならないことが幾つもあった。
そして今、そのうちの最も過酷な義務をなさなければない。その時である。
「そん・・・な・・・嘘、ですよね・・・? 嘘、嘘・・・嘘だと言ってください!!? お願いだから・・・嘘と言って・・・」
愕然とした様。それから更に段々と負へと転じていく感情。涙がこぼれ、その場所に崩れてしまった彼女へ、自分は何といえばいいのだろう。
あの時交わした約束を果たすことができず、トウヤはただ拳を握りしめる。
「大尉、大尉・・・」
「・・・・・・すまない、ユキ」
絞り出すように口に出せたのは、その一言。それ以上は、全て言い訳でしかない、そう感じた。
あの時の苦すぎた出来事は、決して忘れることはないだろう。
その後もユキとは何度も轡を並べたが、今はどうしているのやら。
狭いコクピットの中で、トウヤはそんな事を考えていた。そして、頭を切り替えると、改めて機体データを見返した。
今回の作戦のため、新しく支給された新機体。だが、果たして「新しい」と呼べるのかどうなのか…。
―――MS-06D デザートザク―――
砂漠戦用に開発された、初期の地上専用機。
今回は悪路の走破ということもあって駆動面での向上と、奇襲ということを考慮し、装甲の構造を変更、強化が施されている。
武装には120mmと、戦車の砲塔を流用したマゼラトップ砲を備えさせた。これは、射撃が得意なトウヤの希望によるものだ。他のメンバーは、従来のザクバズーカや120mmを装備させている。
しかし、この機体で果たして奇襲が可能なのか? その点においては疑問符が付くだろう。
既にジオンは、新規の機体を幾つも開発、投入している。生産都合はあれど、それでも尚、今回のような作戦にこの機体を投入する理由は見当たらない。
ならば、浮かぶものは2つ。ただの捨て石か、或いは囮か・・・。もし、本気で狙おうと考えるのなら、それは酔狂というものだろう。
だが、トウヤにとってそんなことはどうだっていい。
これは、与えられたチャンスなのだ。名実ともに連邦の象徴であるレビル。それを自分が討つ。それが実行できるのならば、何一つ不都合なことはないではないか。
(大尉、行きます。俺が、この手で、必ず・・・ッ!)
●戦場前の。
(トウヤ・・・今頃、どうしてるんだろう)
幾つものMSが立ち並ぶ格納庫。その中で、思わず溜め息が出てしまう。
ルナツー後も幾つかの戦場を共に回ったが、特別部隊の一人として彼は引き抜かれた。詳しいことは機密なので分からない。
(生きていて欲しい。大尉の時みたいなのは、もういやだよ・・・)
ルナツー戦以降、トウヤは変わった。以前は若干取っ付きにくい程度の印象があったが、あの戦場を超えると、殆んど感情を投げ捨てたかのようになってしまった。
そしてもう一つ。それは、率先して危険な任務を行っていったという事実。絶えず仲間の盾となり、誰よりも武器として動く。任務遂行のためには命など顧みない。
それ故の高い戦果。一時は上官殺しと誹謗もされたが、それすら行動でねじふせた。引き抜かれたのも当然とも思える。
しかし、それだけにユキは彼が心配でならなかった。
「…尉・・・准尉? 聞こえていますか?」
「えっ!? なんでしょうか?」
「もう、しっかりしてくださいよ。恋人のことで頭がいっぱいなんですか?」
「っ!? わ、私に恋人なんかいません!? ラサ曹長、ふざけてると怒るわよ!」
「はいはい・・・全く、こんな時でもそうやってられる准尉は肝が据わっているというか・・・」
新しく配置された部隊。そこで知り合った同年代の整備兵、ラサ曹長が軽口をたたくと、すぐさまユキ准尉が口をとがらせて反論する。
そんな慌てている准尉にさせて互いの緊張を紛らわせるのは、彼女なりの楽しみでもあった。
「折角新しいのが回ってきたんですし、壊さないようにしませんとね。以前のは、酷いぼろぼろというか・・・」
やれやれと言わんばかりに肩をすくめる曹長。そして彼女は、回された機体に目を移した。
―――MS-07B グフ―――
陸戦、そして格闘戦に特化させた青い機体。電磁鞭と5連装75mmマシンガンを標準装備。
従来のザクよりも汎用性は低下しているが、それでもその性能はJ型の比ではない。
オデッサ防衛の一環として支給された機体である。
「そうね。パイロットとしては、愛機が壊れるのは忍びないもの。でも、誰かを守れるのなら、別にいいかな」
「整備班をあんまり泣かせないで下さいよ~。無茶な使い方は程々に・・・」
「分かってるわよ。ちゃんと、戻ってくるつもりなんだから」
沈んだ表情はもうない。良かった、いつもの明るい准尉だ。
ちゃんと帰ってきてくださいよ? まだまだからかい足りないんですからね。
●ガードナー
爆音。同時に地面が抉られ、そして1体のデザートザクが吹き飛ばされる。
不意打ち気味に行われたそれに、フェープ少佐はすぐさま散開の命令を下すと、敵の射撃方向を確認する。
―――RGM-79(G) 陸戦型ジム―――
並のジムとは異なり、頑強なルナチタニウム装甲を使用した陸戦特化のMS。
3体で現れたそれは、内2体が180mmを装備している。
護衛か、探索か。いずれにせよ厄介極まりない。オマケに、敵の攻撃地点はかなり距離がある。
マシンガンにバズーカ。汎用性の高い武器を揃えたのが災いした。こちらもすぐに応戦するが、命中は期待できない。確実に当てるならばもっと近づかなければ。そしてそれは、相手がまず許さないだろう。
更に一機のザクが破壊される。少佐は舌打ちをするも、突撃の命を下そうとした。
相手のジムが崩れ落ちたのは、まさにその時であった。
「行ってください・・・この中で残るのは自分が適任です」
●示されたものへの敬意
敵は3体。砲炎から見て、2体が長射程武器・・・こちらでそれに対応できるのは自分だけ、か。
結論はすでに出ている。くそっ! クソ野郎!! この手で叩き潰したかったが、状況が許さないのかよ!!
ああ、そうだ。あの人は仲間のために戦った。そして自分は、あの人の部下であり、大事なことを教わった。だから、だからこそ!!
「行ってください・・・この中で残るのは自分が適任です」
長射程のマゼラ砲が更に火を噴く。先ほどとは違い、今度は当たらない。
流石にもう油断等はしていない、か。
「何を馬鹿な。第一、准尉。君はその手で・・・」
淡々としたトウヤの言葉に驚きつつも、少佐は冷静な声で彼に問う。
今回の作戦に入れ込む理由、それをフェープ少佐は既にトウヤから聞いている。自分のために犠牲となった上官の敵討ちだと。そして、それにどれ程の押し殺した感情を込めているのかも。
「レビルの首を取る!! その想いは今でも変わっていません!!
ですが、仲間を見捨ててそれは絶対にありえません!! そして、この場で対処できるのは自分だけです!! 行ってください!!」
もはや一刻の猶予もない。この場に居続ければ、増援が来る可能性もありうる。
少佐は歯噛みするも、自分の任務を天秤に掛ける。何が最適で、何が最悪か。そして、何を優先するべきかを・・・。
「・・・分かった。残りの連中は私に続け!! 准尉の意地を無駄にするな!!」
早口に激を飛ばす少佐。そしてもう一つの命令を口にした。
「死ぬことは許さんぞ! 危険と判断したらすぐに引け!!」
「・・・諒解!! フェープ少佐!!」
少佐の命令が聞こえ、トウヤは僅かに目を開き、そして口元を歪ませる。
当たることがないであろう援護射撃を放ちつつ、残った3機は更に足を進めていく。
そして、それを見て相手の一機が前に突出して来た。2対1の状況。援護を受け、どうやら一気に潰す気らしい。
「いいだろう。相手をしてやる」
援護をかわしつつ、残弾を向かってくる陸ジムに叩きこむ。一撃では崩れないが、それなりの被害が入った。
次に重いマゼラ砲を投棄。120mmに切り替えると、機体を左右にぶらしながら、ひたすらに限界ぎりぎりの高機動を行う。急激なGに身体が悲鳴を発しているのが分かる。が、今は嫌が応でも聞かせてやる。
後衛の180mmと、前衛の100mmマシンガン。それらが自機を襲う。幾つもの砲火が向けられ、けたたましい音が周囲を覆った。濛々と土砂が舞い上がり、周囲が茶の色に染められた。
だが、当たらない。当たっても、致命傷は確実に避けている。そして、ダメージ軽減には、強化装甲も一役買っていた。
「こんなもんじゃない。ルウムもルナツーも!! この程度じゃなかったんだよ!!」
ショルダーシールドを盾に、勢いのまま前衛を吹き飛ばすと、立ち直る前にコクピットへと弾を叩き込む。
そして120mmを連射。ライン上に撃ち、土煙を隠れ蓑にしつつ、トウヤは残りのもう一機へと襲いかかった。
結果は、既に付いているようなものだった・・・。
3機のジム、その全てを撃破。だが、ここで状況が変わる。周囲に敵の増援が見受けられた。
しかし、焦りはない。足元に転がっているジムの180mmを手に、トウヤは笑う。さも、当然のように。
「ありがたいね! こっちにくる分だけ、任務成功率が上がるんだからな!!」
戦いは、まだ終わらない・・・。
―――――――――――――――――――――――――――――
真っ暗な操縦室の中で、うっすらと意識が開かれる。どうやら気絶していたらしい。コンピュータを見るも、機体はボロボロ。損傷具合から撃破されたと見ていい。
「う・・・作戦は・・・どう、なった・・・」
作戦の有無、次によく助かったものだと思うも、更に別のことが浮かぶ。
どれだけ時間が経ったのだろう? そして、何故捕虜などにはならずに?
幾つかの疑問がよぎるが、まずは外へ・・・。
そこに、一つの答えがあった。
「こ、これは・・・っ!?」
物言わぬ愛機を這い出て見た最初の光景。それは、あまりにも異形だった。
解き放たれてはいけない力。
中世紀の時代、2度、実際に使われ、そして多くの人を焼いた焔。
幾つもの茸状に膨れた紅蓮と煙。それによって吹き荒れるオデッサの風は、戦慄と禍々しさを孕み、存分に数多の地獄を創りあげていた。
南極条約によって禁止された兵器。「核」が使われたのだ。
●少女、戦い中
電磁鞭が回路を焼き、崩れた機体に90mmマシンガンが打ち込まれる。
残ったジムから銃口が向けられたが、それは弾をばらまく前に僚機によって潰された。
ユキ准尉が巨大な雲を見ることになったのは、そんな戦争のまっただ中の時であった。
「核爆発・・・!? そんな!? ・・・うっ!? けほけほ・・・なに、この感覚!?
くっ・・・戦況は、一体どうなっているの!?」
目の前で起きた光景に、吐き気のような感覚が沸いてくる。
よくわからないそれを打ち払いつつ、ユキは僚機へとすぐさま確認を取る。そして、運よく答えは帰ってきた。
「准尉、作戦に変更が出たぞ。連邦が混乱しているうちに、全軍後退とのお達しだ。俺たちは、アジア方面へと移動する。
しかし・・・全く、司令官殿はとんでもない物を持ち出しやがる! くそが!!」
同僚のさも嫌そうな声を聞き、頭の中で同意する。
目的のためには手段を選ばない。それが唯一のルールになるのならば、一時の勝利が戦争全ての敗北になりかねない。
果たして、司令官殿はそのことを理解しているのだろうか。
「諒解です。・・・ん、もうちょっと頑張って。私のグフ」
頭を振り、すぐに切り替え。どうするのかを考えなくては。
そしてこの先、機体をさらに酷使するであろうことに対し、曹長の言葉がよぎる。
またなんか言われちゃうなぁ・・・。でも、ちゃんと帰るって言った以上、その約束は守ってみせないとね!
●つわものどもがゆめのあと
オデッサはジオンの敗北で幕を閉じた。しかし、まだこれが終わりというわけではない。
あの後、トウヤはどうにか友軍に拾われアジア方面へと逃れた。それはある意味奇跡と言ってもよく、またこれから先も続くであろう戦争を考慮するならば、不幸ともいえるのだろう。
しかし、トウヤ自身はそれを不幸だとは思わない。それは自分が為すべき義務だと考え、そして戦う。
アジアへと逃れた際、一つの話を聞いてその気持ちは更に強固なものへと変わった。
オデッサ反攻作戦、その中の一角。交戦中のとあるビッグトレーを中破させたという話だ。そしてそれは、壊れかけた2機のザクが護衛を振り切り、相討ち的に行ったのだという。
そしてもう一つ。オデッサ陥落後の一時期、レビル将軍が公の場に見られなかったという噂だ。
確かな証拠はない。あるのは状況だけで、偶然なのかもしれない。
しかし、トウヤは確信する。それは、紛れもなくフェープ少佐達だと。確かにその刃は届いたのだと。
(戦争は終わらない。だが、俺は生きている。ならば、何度でも戦うだけだ・・・何度でも! 何度でも!!)
表面を覆う押し殺した感情。だが、胸の内では危うい程に滾るそれ。
消えることのない意思を胸に、次の戦場へ、次の次の戦場へと、トウヤは目を向けさせた。
●今回の大雑把な結果
・ジオン
オデッサを墜とされるも、連邦に痛烈な打撃を与えることに成功。
このため、戦局は油断できずも、天秤はジオン側に有利となる。
(これの有利不利によって兵器開発・兵量などに影響あり)
・連邦
オデッサの奪還に成功。ただし、総数で約3:1だったので、勝てて当たり前とのこと。
レビル、負傷。
マ・クベの核が3,4発ほど実際に使用される。
エルランの裏切り発生。これの捕獲に失敗。
今回の選択機体:MS-06D、MS-07B
当時の選択可能なジオンの機体(ただし、物によって、階級、記章などの制限あり)
・MS-06K(ザクキャノン)
・MS-06S
・MS-06V(ザクタンク)
・MS-07B(グフ)
・MS-09 (ドム)
・ズゴック
・アッガイ
・ドップ
・マゼラアタック
はい。かなり遅くなりましたが、オデッサ作戦をお送りいたしました。
さて、今回、トウヤは極めて変な部隊におりましたが、これはユキギリの創作ではなく、「特殊返信」によるものです。
この特殊返信ですが、結構貴重だったのか、読参時にお世話になったまとめサイト様にも載っておりませんでした。
以下、原文になります。
★作戦終了後、母艦に帰投した君は上官に呼び出しを受けた。
辞令によるとオデッサ方面に配属され、新型機で編成される独立部隊に編入されるらしい。
「装甲を強化したザクの改良型を支給する。貴様はこれでレビルの横腹を突くのだ。戦果を期待している」
-撃破されるまで、“デザートザク”に搭乗できる。
データ/MS-06Dザク砂漠戦仕様(地上専用)。装備はザクシリーズのものを使用。
今回“部隊欄”赤で[奇襲]と記入の事
・・・初めての特殊返信でしたので、当時は嬉しいと思ったものですが、今見るとデザートザクはねぇだろと小一時間。
もうドムも実装されてるんですよ? せめて奇襲部隊らしく、飛行型グフとかよこせよ!!(核)
とまあ、劇中で捨て石だの何だのと言った理由はお分かりになられたと思います。
また、微妙にカスタムされていた理由ですが、特殊返信に即してそれっぽいものを追加させていただきました。
「装甲を強化」とありましたしね。
尚、今回トウヤが機体をやられておりましたが、これは返信で機体破壊判定を食らったことになります。
また、劇中に描かれているビッグトレーとレビルの件は、ゲームギャザ本誌で実際に中破・負傷の描写のあった事を合わせてになります。
それも含めまして妄想を重ね、こういう形になった次第です。
・・・しかし、初の機体破壊が特殊返信によるというのも実にアレですね(ぁー)
次回はアジアとなります。
天秤的にはジオン有利となりましたが、依然予断を許さない状況です。さて、結果は如何に?
※尚、この回の結果は「ゲームギャザ 2000:7月号 vol.11(HOBBY JAPAN)」に収録されたものとなります。