日向で雪遊び

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読参~「機動戦士ガンダム 一年戦争史」~ 第7・5回 (外伝) 北米での微風

2008年05月19日 | 読参小説(ガンダム 一年戦争史)
 清潔に整った広大な空間・・・。そこで一人、安っぽいお茶を事務的に機械から取り出すと、心なしか音が強く響くような感じがした。
 かつては喧噪のあった日々のこの場所も、今となってはその主人も失せ、その広い空間とテーブル達が往時の姿を偲ばせている。
 ジャブロー攻略失敗。どうにか無事に帰還できたものの、その結果の一端を垣間見えるようで、トウヤは虚しくなって溜め息をついた。
 
 どこかしら居たたまれない。そんな気持ちがあったのか、外に出て風を浴びる。
 地球に降りて以来、天然の風というものは何故か心地良く沁みわたる。
 それは、トウヤにとっては、最も大きな収穫の一つなのかもしれない。

 それなりに気持ちが切り換えられると、握られたカップから、浅い琥珀にも似た色の雫が落ちていたのに気づく。
 どうやら余程頭が飛んでいたらしい。
 手にかかった幾許かを見つめると、勢いのままに飲み干されるそれ。正直、あんまり美味くない。
 
「問題は、これからか・・・さて・・・」

 眠い、というのとは少々違う。ジャブローでの激戦のせいか、どこかぼんやりしているのが自身でわかる。
 既に、トウヤたちの部隊は宇宙への転属が決まっている。間違いなく激戦地だろう。
 一瞬、今の内に上官と挨拶でも交わしておくかと考え、即座に馬鹿馬鹿しいと首を振った。

 この男。普段は口数も少なく、人とも必要以上には混じわらない。そして表情も無愛想で近寄りがたく、オマケにパイロット特有の馬鹿騒ぎや女遊びなどの必要悪さえも見かけないのである。
 正にこっちくんなフィールド全開。まあ例外として、自分のチーム連中とは相応に話したりしている。
 そんな訳で、彼は異動先の上官にとって微妙に扱い辛いのだが、毎度毎度ある程度の戦果をあげているのだから、嫌でも上手く使わざるを得ない。
 ぶっちゃけ、配属替えで一番喜んでるのはそんな上官殿だろう。

「どうしたんですか? 中尉。こんなところで」

 紫紺の髪に陽気で人懐っこい声。見慣れたその少年は部下であるトーマ曹長だ。

「ああ・・・いや、風を浴びて頭冷やしていた。こうしているのも悪くはないな、と」
「そういえば、アジアの時も出撃前とかはよくそんなことをしてましたっけ。珍しかったのでよく覚えてますよ」
「あらあら? それは初耳ね。麗しい殿方だけの秘密ってとこかしら♪」

 振り返ると、そこには悪戯っ子の微笑を浮かべ、鮮やかな長い麻色が飛び込んでくる。 
 年上の女性ながらも同じく部下であるシズネ少尉だ。
 
「変なこと言わないでくださいよ、少尉!
 確かにトウヤ中尉は女っ気がない上に女遊びしませんけど、きっと大丈夫・・・なはず、ですよね?」

 フォローになってないフォローな上、半信半疑。てか、むしろ疑の方が強いんじゃね?
 仲間のそれに若干ため息をしつつ、トウヤはどうでも好さ気に解答を出す。

「疑問符付けるな、疑問符を。
 俺にとってはどうでもいいだけだ。女遊びなんか興味ないんだよ」
「じゃ!? じゃあ、やはり男しょ・・・がふっ!?」
「・・・少し、頭冷やすか?」

 大変珍しいことだが、口より先に手が飛び出した。次いで、脅し文句を+α
 この場合、後で雑用増やすわよん?とかの軽いことではなさそうだ。曹長は慌ててそれを訂正した。

「あら、残念ね。トウヤ中尉の場合、それはそれで面白そうだったのに」
「シズネ、勘弁してくれ。俺は、単にそういうことに線を引いてるだけだよ。それに、ユキのことも気になるし・・・」

 若干、げんなりしたご様子の中尉殿。
 しかし、そんな彼の零したとある単語を、シズネ少尉は興味深げにつつき出す。

「へぇ~・・・恋人がいたなんて知らなかったわ。私としては是非ともお聞きしたいですねぇ、ユキギリ中尉?」

 変わらぬ口調ながらも、不思議と笑顔が怖いです。てかさ、呼び方変わってるよ。
 でもって、トーマは遠巻きににやにやと楽しんでるし。

(別段、仲間というだけで極端に親しくもないし、何故怒った風なのだろう?)

 そんな風にトウヤは疑問に思いつつも、溜息交じりの返答をする。

「恋人なんかじゃないよ。ただの仲間だ。だが、人事異動の都合、オデッサから離れ離れになってね。以来、どうにも気になってるんだ」
「なんだ、そうだったんですか・・・・・・・・・・・つまらないなぁ」
「・・・聞こえてるぞ、曹長。詰まらなくて悪かったな」
「わぁあ!? そんなに睨まないでくださいよ。しかし、オデッサですか。酷い戦闘でしたね」

 うんざりした表情で誰へともなく呟くトーマ。アジアに逃れる際に聞いた話では、彼も結構な目にあったらしい。
 
「ま、どこも酷いものよ。私もアジアでは苦労したしね。トウヤ中尉が来てくれてそれなりに助かったんだけど」
「まさか、そのままチームを組むとは思わなかったけどな」

 その言葉を聞いてくすりと笑うシズネ。
 機嫌が直ったのか、用意していたプルトップが軽く放られる。同時、缶の水滴がいくつか飛んだ。よく冷えている証拠だ。
 慌ててそれを受け取るも、ラベルを見て開けるかどうか躊躇する。うん、酒だよ、これ。

「・・・ここじゃ飲めんだろ。他の連中に悪い」

 外とはいえ、ここはあくまで基地の一角である。
 専用の酒保でもなく、働いてる連中もちゃんといる。そんな中で酒を飲んでいたら、流石に罰則もんだろう。
 しかしそんなことなど見越していたのか、ふふんと得意げに猫を連想させるような悪戯っぽいな微笑が向けられる。

「ええ。だから、中で飲みましょ。働きづめでぶっ倒れられたら困るのよ。
 それとも、おね~さんのお誘いを断るのかしら♪」

 猫の笑顔からととんと一転。無邪気な笑顔にウインク一つ。
 大抵の男ならまず魅力的に映るであろうそれがセットでは、さしものトウヤも断ることはできなかったらしい。
 そして何より、自分を思ってくれてのことが嬉しかった。

「わかったよ。ただ、程々にしてくれ。そんな酒は強くないんだ」
「それじゃあ飲みましょうか! 折角なんですし!!」
「・・・聞いちゃいないな」
「ふふっ、まあいいじゃない。こんな日があっても、罰は当たらないわよ」

 手を引かれるように連れていかれる我らが中尉殿。
 しかしその内では、こんな日も悪くないのかな、とまんざらでもなかったとかなんとか・・・。




 
 え~・・・ごめんなさい。ソロモン戦とかなんとかいいながら、結局外伝書いてしまいました。
 いあ、地上にいるんですし、こういうほのぼのとしたのがやってみたくなったというか…。
 殺伐とした戦場だけだとどうにも物足りないんですよね。
 戦争中の凪の様なものとご解釈くださいませ。

 しかし、トウヤんが大分丸くなったような・・・(汗)
 まあ、戦場に入ったらすぐに切り替わりそうですが。

 あっ、書き方大分変わってるのは仕様です。こういう回では相応の書き方のが楽しいですので(オイ)
・・・・・・・・・・コミカルチックに描いてる方が合うんでしょうかねぇ。こういうの好きですし。

 では!!

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