◎sin(サイン)の由来
★3角法で基本となるのは正弦関数 sin である
○3角法の起源について、はっきりしたことはわかっていないが、天文学の計算の必要から生まれたとされる
・最古のものは、バビロニアの天文学上の目的で、3角法の前身のようなものが存在した可能性が考えられる
バビロニア天文学は、紀元前5世紀頃には体系化されたと推定されている
バビロニア数学では60進法の採用が見られ、天文計算は60進法で行われた
バビロニア数学では、位取りによる数表記が発明されたが、「ゼロ」にあたる記号がなかったため完全な位取り記数法ではなく、数表記にあいまいさがあった
「黄道12宮」という概念はバビロニアで生まれた
バビロニアで円周が360度と定義された
360度の天体図を30度ずつの「黄道12宮」に分けたものに基づいて1年を360日と決めていた
現代で時間や角度の単位で60進法を使っているのは、バビロニア数学の名残りである
●ヒッパルコス(紀元前150年頃)
円の角とそれに対する弦の長さの問題の研究を始めたのは、アレクサンドリアのヒッパルコスであるとされている
・ギリシア(アレクサンドリア)のヒッパルコスは、鋭角に対する正弦表(円の中心角に対してその弦の長さを計算した表)を作った
ヒッパルコスの実際の表は残っておらず、その一部がプトレマイオスの「アルマゲスト」(2世紀)に載っている(1/2度ごとの弦の長さが与えられている)
●インドの3角法
アレクサンドリアで、ヒッパルコス、メネラオス、プトレマイオスなどの天文学者によって3角法の基礎が築かれ、インドに伝えられた
インドでの初期の3角法は、天文学に必要な1分野だった
インド天文学は当時の最先端の天文学だった
・アールヤバタ(476年生まれ)の「アールヤバティーヤ」
古い天文書「シッダーンタ」の結果を修正して体系化したもの
数学を扱った第2章で、半弦表を用いた計算によって3角法を導入している
アールヤバタは円周率の近似値として3.1416を用いた
・ヴァラーハミヒラ(505~587年頃)の「スールヤ・シッダーンタ」
3角法についての解説がある
3角法の3個の関数ジュヤ(半弦、またはインドの正弦)、コジュヤ(余弦)、ウトゥクラマジュヤ(正接)が与えられている
正弦は半径1の円の中心角xに対する弦の長さであった
その半分、半弦の長さが現代での正弦sin xに相当する
・ブラフマグプタ(598年生まれ)の「ブラフマースプタ・シッダーンタ」
正弦表で与えられている角度の中間にあたる角度の正弦を得る方法を述べた
・マーダヴァ(1340~1425年頃)
マーダヴァは3角関数の無限級数を、ニュートンより約300年前に発見したかもしれない
正弦級数および余弦級数が初めてヨーロッパに現れたのは、1676年に王立協会総裁オルデンバーグにニュートンが出した手紙の中である
マーダヴァの正弦級数および余弦級数は、天文計算用の精度の高い正弦・余弦表を作るために用いられたのであろう
○cos
cos(余弦)は、補足の正弦(sinus complement)を短くしたco-sinusからきたようである
余弦にcosを使ったのは、16世紀イギリスのグンデルである
●アラビアの3角法
インドの3角法はアラビアに伝えられ、アラビア経由でヨーロッパへ入る
3角関数がアラビアに伝えられたのは、8世紀にアッバース朝(749~1258年)の第2代カリフ アル・マンスールの宮廷を訪れたインドの使節団がもたらした天文書によるとされている
○正接(tan)と余接(cot)の起源はアラビアである
タンジェント(tan)をつけ加えたのは、9世紀のアラビアの天文学者アル・ハースィブである
アラビアの天文学者は天文計算のために、インドの正弦表より精密な正弦表の必要性を感じるようになる
アル・ハースィブは1度の間隔で、10進法で5位まで正確な正弦表と正接表を作った
●サインsin の語源
インドの数学者たちは、3角関数の研究に半弦(現代での正弦)をよく用いていた
インドの3角法の半弦を表すサンスクリットはjyardha(ジャヤールダー)またはardhajiva(アルダージーヴァ)であるが、短縮されてjya(ジュヤ)またはjiva(ジーバ)となった
jivaがアラビアに入ったとき、jiba(ジーバ)となるのだが、アラビア語の母音省略のルールによってjibと書かれていた
アラビア文献の翻訳者だったチェスターのロバートが、それをjaib(ジャイブ)だと思い込んでしまった
アラビア語のジャイブには、女性の衣服での胸もとの折り返しの意味がある
ジャイブは12世紀にラテン語のsinus(シーナス)に訳された
「シーナス」はローマ人の衣服のトーガを「たたむ」「胸」「入江」「曲線」などいろいろな意味を持っていた
それが現在のsin(サイン)となったわけである
○以上、おもに「非ヨーロッパ起源の数学」ジョージ・G・ジョーゼフ、講談社ブルーバックス
「なっとくする数学記号」黒木哲徳、講談社
「天文学の誕生」三村太郎、岩波書店
によります
★3角法で基本となるのは正弦関数 sin である
○3角法の起源について、はっきりしたことはわかっていないが、天文学の計算の必要から生まれたとされる
・最古のものは、バビロニアの天文学上の目的で、3角法の前身のようなものが存在した可能性が考えられる
バビロニア天文学は、紀元前5世紀頃には体系化されたと推定されている
バビロニア数学では60進法の採用が見られ、天文計算は60進法で行われた
バビロニア数学では、位取りによる数表記が発明されたが、「ゼロ」にあたる記号がなかったため完全な位取り記数法ではなく、数表記にあいまいさがあった
「黄道12宮」という概念はバビロニアで生まれた
バビロニアで円周が360度と定義された
360度の天体図を30度ずつの「黄道12宮」に分けたものに基づいて1年を360日と決めていた
現代で時間や角度の単位で60進法を使っているのは、バビロニア数学の名残りである
●ヒッパルコス(紀元前150年頃)
円の角とそれに対する弦の長さの問題の研究を始めたのは、アレクサンドリアのヒッパルコスであるとされている
・ギリシア(アレクサンドリア)のヒッパルコスは、鋭角に対する正弦表(円の中心角に対してその弦の長さを計算した表)を作った
ヒッパルコスの実際の表は残っておらず、その一部がプトレマイオスの「アルマゲスト」(2世紀)に載っている(1/2度ごとの弦の長さが与えられている)
●インドの3角法
アレクサンドリアで、ヒッパルコス、メネラオス、プトレマイオスなどの天文学者によって3角法の基礎が築かれ、インドに伝えられた
インドでの初期の3角法は、天文学に必要な1分野だった
インド天文学は当時の最先端の天文学だった
・アールヤバタ(476年生まれ)の「アールヤバティーヤ」
古い天文書「シッダーンタ」の結果を修正して体系化したもの
数学を扱った第2章で、半弦表を用いた計算によって3角法を導入している
アールヤバタは円周率の近似値として3.1416を用いた
・ヴァラーハミヒラ(505~587年頃)の「スールヤ・シッダーンタ」
3角法についての解説がある
3角法の3個の関数ジュヤ(半弦、またはインドの正弦)、コジュヤ(余弦)、ウトゥクラマジュヤ(正接)が与えられている
正弦は半径1の円の中心角xに対する弦の長さであった
その半分、半弦の長さが現代での正弦sin xに相当する
・ブラフマグプタ(598年生まれ)の「ブラフマースプタ・シッダーンタ」
正弦表で与えられている角度の中間にあたる角度の正弦を得る方法を述べた
・マーダヴァ(1340~1425年頃)
マーダヴァは3角関数の無限級数を、ニュートンより約300年前に発見したかもしれない
正弦級数および余弦級数が初めてヨーロッパに現れたのは、1676年に王立協会総裁オルデンバーグにニュートンが出した手紙の中である
マーダヴァの正弦級数および余弦級数は、天文計算用の精度の高い正弦・余弦表を作るために用いられたのであろう
○cos
cos(余弦)は、補足の正弦(sinus complement)を短くしたco-sinusからきたようである
余弦にcosを使ったのは、16世紀イギリスのグンデルである
●アラビアの3角法
インドの3角法はアラビアに伝えられ、アラビア経由でヨーロッパへ入る
3角関数がアラビアに伝えられたのは、8世紀にアッバース朝(749~1258年)の第2代カリフ アル・マンスールの宮廷を訪れたインドの使節団がもたらした天文書によるとされている
○正接(tan)と余接(cot)の起源はアラビアである
タンジェント(tan)をつけ加えたのは、9世紀のアラビアの天文学者アル・ハースィブである
アラビアの天文学者は天文計算のために、インドの正弦表より精密な正弦表の必要性を感じるようになる
アル・ハースィブは1度の間隔で、10進法で5位まで正確な正弦表と正接表を作った
●サインsin の語源
インドの数学者たちは、3角関数の研究に半弦(現代での正弦)をよく用いていた
インドの3角法の半弦を表すサンスクリットはjyardha(ジャヤールダー)またはardhajiva(アルダージーヴァ)であるが、短縮されてjya(ジュヤ)またはjiva(ジーバ)となった
jivaがアラビアに入ったとき、jiba(ジーバ)となるのだが、アラビア語の母音省略のルールによってjibと書かれていた
アラビア文献の翻訳者だったチェスターのロバートが、それをjaib(ジャイブ)だと思い込んでしまった
アラビア語のジャイブには、女性の衣服での胸もとの折り返しの意味がある
ジャイブは12世紀にラテン語のsinus(シーナス)に訳された
「シーナス」はローマ人の衣服のトーガを「たたむ」「胸」「入江」「曲線」などいろいろな意味を持っていた
それが現在のsin(サイン)となったわけである
○以上、おもに「非ヨーロッパ起源の数学」ジョージ・G・ジョーゼフ、講談社ブルーバックス
「なっとくする数学記号」黒木哲徳、講談社
「天文学の誕生」三村太郎、岩波書店
によります