本編に入る前に著者は日本の農業の現状を記している。農業就業人口は2000年の389万人1000人から18年
には175万人3000人と半減、このうち65歳以上の高齢者が120万人で、平均年齢も2000年の61.1歳から、
18年には66.8歳に上昇している。という、驚くべき結果だ。稼ぎも少なく15年のデータで家族経営の農家
における1時間当たりの所得、簡単にいうと、時給はたったの722円。これを知って農業に勤しむ決断をす
る人は少ないだろう。
しかし、本書で著者が出会う農業をする人々は世間の印象にあるイメージとは全く違う。例えば「世界一」
の落花生で究極のピーナッツバターを作る杉山氏は実働8時間で、ひと瓶1400円ながら完売続出とい
う状況だし、世界のスターシェフを魅了するハーブ農園の梶谷氏は週休二日、午前5時から11時までの働き
方で年収1500万円、年2回、長期海外旅行に行く。勿論彼らの異能とたゆまぬ努力の結果だが、日本農業
の未来に可能性を感じさせるもんだ。
そもそも日本の農業は生産者→農協→卸売市場→スーパーなどの小売業者という順路がほぼ変わらず、生産
者の視点が完全に欠けている。何しろ
・自分が作った作物を誰が食べているのか、顔が見えない
・農協などに卸すとほかの生産者の作物とまとめて出荷される
・売り場の都合に合わせて、未熟な状態で出荷しなくてはならない
・「中抜き」によって最終的に生産者の手取りは販売価格の30%程度しかない
・作物の味や香りではなく、市場が求める色、形、大きさが重視され、基準にそぐわない作物は廃棄せざ
るを得ない
・豊作になると、市場価格を守るために、「生産調整」という名目で大量廃棄される
という問題がある。以上に上げた項目の冒頭に「質の高い野菜を作っても」という言葉を入れると分かり易
いと著者は上げている。
本書に登場する農業に携わる人々は本当に見事で、感動した。日本にはまだまだこういう人が居るのだと思
うと本当に嬉しくなってしまう。この事実をもっと沢山の人に知ってほしい。
農業新時代 川内イオ 文春新書