(この記事は、当ブログ管理人が「レイバーネット日本」の書評コーナー「週刊 本の発見」に寄稿した内容をそのまま転載したものです。)
「不可能なものは不可能。中止一択」とわかる画期的な1冊~『超電導リニアの不都合な真実』(川辺謙一・著、草思社、1,700円+税、2020年12月)評者:黒鉄好
2020年12月の発売直後に買っていたが、今回、レイバーネットTVでリニア中央新幹線を特集するにあたり、予備知識を持っておかねば、と慌ただしく読んだ。本書を読破すれば、問われているのは世間一般で思われているような建設の「是非」ではないとわかる。そもそも技術的に不可能なのだ。
本書が明らかにした事実は多岐にわたるが、さしあたり、最も深刻なのはリニアにとって致命的な「クエンチ現象」を克服できないまま今なお建設が続いていることだ。リニアは、電気抵抗がゼロになる「超伝導状態」を維持することで車体を地上10cmの高さに浮上させ、高速走行することができる。クエンチとは、この超伝導状態を維持できなくなる現象であり、完全に防止できる技術的めどは立っていないという。超電導技術自体はMRIなど医療現場で使われる機械にも導入されているが、クエンチはここでも起きている。ただし、固定した建物内で関係者が常時監視しながら対処できる医療機器と異なり、監視要員のいない場所を走るリニアでクエンチが発生しても対処する方法がない。クエンチ状態が長く続けばコイルが発熱し火災の恐れもある。山梨実験線ではクエンチは発生していないとするJR東海の「公式見解」に反し、実際には1999年に発生していたことは、地元紙「山梨日日新聞」でひっそりと伝えられた。
川辺氏は、JR東海が実施している山梨実験線での試乗体験もしている。「揺れすぎて気分が悪くなった」「思ったほど揺れなかった」と試乗体験者の評価は二分している。揺れに関しての評価は主観的にならざるを得ず、私からこれ以上のコメントは避けるが、気圧の変化で耳がツンとなる現象が酷く、同乗した川辺氏の連れ合いは「二度と乗らない」と宣言した。浮上走行から減速し、ゴムタイヤで軌道に「着陸」する際に生じる飛行機のような「ドスン」という衝撃も、浮上式走行である以上完全には除去できない。利用者に優しいことが公共交通機関の最低限クリアすべき基準だとするなら、先入観のない体験試乗者がそのような判断を下すものは公共交通にふさわしくない。
山梨実験線の延伸区間が単線で現在まですれ違い走行試験をしていないこと、磁気浮上式走行には不要なはずの電柱が同区間に建てられており、架線柱に転用可能なことから、JR東海はとっくにリニア方式をあきらめ、通常の新幹線方式に転換するつもりではないかと川辺氏は疑う。それが可能であることも、JR東海関係者の過去の証言を丹念に調べ確認している。
最終章で川辺氏は(1)あくまでリニア方式で開業を目指す (2)通常新幹線方式に転換 (3)事業中止――の3つの選択肢を示した上で、事業中止が最も適切と結論づける。リニア方式は技術的に無理であり、通常新幹線方式への転換では政府が目指す3大都市圏連結(スーパー・メガリージョン)構想を達成できないため、消去法で事業中止しか残らなかった。技術的に不可能なものを不可能と言う――そんな当たり前のことがなぜこんなに難しいのか。そこに日本社会の病理を感じるが、リニアに限らず、屁理屈を並べて事業続行を目指す推進側に忖度なく中止を打ち出した著者の姿勢こそ私は高く評価したい。
「不可能なものは不可能。中止一択」とわかる画期的な1冊~『超電導リニアの不都合な真実』(川辺謙一・著、草思社、1,700円+税、2020年12月)評者:黒鉄好
2020年12月の発売直後に買っていたが、今回、レイバーネットTVでリニア中央新幹線を特集するにあたり、予備知識を持っておかねば、と慌ただしく読んだ。本書を読破すれば、問われているのは世間一般で思われているような建設の「是非」ではないとわかる。そもそも技術的に不可能なのだ。
本書が明らかにした事実は多岐にわたるが、さしあたり、最も深刻なのはリニアにとって致命的な「クエンチ現象」を克服できないまま今なお建設が続いていることだ。リニアは、電気抵抗がゼロになる「超伝導状態」を維持することで車体を地上10cmの高さに浮上させ、高速走行することができる。クエンチとは、この超伝導状態を維持できなくなる現象であり、完全に防止できる技術的めどは立っていないという。超電導技術自体はMRIなど医療現場で使われる機械にも導入されているが、クエンチはここでも起きている。ただし、固定した建物内で関係者が常時監視しながら対処できる医療機器と異なり、監視要員のいない場所を走るリニアでクエンチが発生しても対処する方法がない。クエンチ状態が長く続けばコイルが発熱し火災の恐れもある。山梨実験線ではクエンチは発生していないとするJR東海の「公式見解」に反し、実際には1999年に発生していたことは、地元紙「山梨日日新聞」でひっそりと伝えられた。
川辺氏は、JR東海が実施している山梨実験線での試乗体験もしている。「揺れすぎて気分が悪くなった」「思ったほど揺れなかった」と試乗体験者の評価は二分している。揺れに関しての評価は主観的にならざるを得ず、私からこれ以上のコメントは避けるが、気圧の変化で耳がツンとなる現象が酷く、同乗した川辺氏の連れ合いは「二度と乗らない」と宣言した。浮上走行から減速し、ゴムタイヤで軌道に「着陸」する際に生じる飛行機のような「ドスン」という衝撃も、浮上式走行である以上完全には除去できない。利用者に優しいことが公共交通機関の最低限クリアすべき基準だとするなら、先入観のない体験試乗者がそのような判断を下すものは公共交通にふさわしくない。
山梨実験線の延伸区間が単線で現在まですれ違い走行試験をしていないこと、磁気浮上式走行には不要なはずの電柱が同区間に建てられており、架線柱に転用可能なことから、JR東海はとっくにリニア方式をあきらめ、通常の新幹線方式に転換するつもりではないかと川辺氏は疑う。それが可能であることも、JR東海関係者の過去の証言を丹念に調べ確認している。
最終章で川辺氏は(1)あくまでリニア方式で開業を目指す (2)通常新幹線方式に転換 (3)事業中止――の3つの選択肢を示した上で、事業中止が最も適切と結論づける。リニア方式は技術的に無理であり、通常新幹線方式への転換では政府が目指す3大都市圏連結(スーパー・メガリージョン)構想を達成できないため、消去法で事業中止しか残らなかった。技術的に不可能なものを不可能と言う――そんな当たり前のことがなぜこんなに難しいのか。そこに日本社会の病理を感じるが、リニアに限らず、屁理屈を並べて事業続行を目指す推進側に忖度なく中止を打ち出した著者の姿勢こそ私は高く評価したい。