『人様のお金』
Other People‘s Money
厚生年金基金って、何んだ?
平成12年8月脱稿
高野 義博
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第4章 厚生年金基金経営上の諸問題
(4)<人様のお金>
【昨日の続き】
ある事態に遭遇した際には、このように質問してみるとよいです。「すべての受託者、
母体企業、確定給付型年金加入員が剰余金の所有権は誰のものかについて合意している
のですか? 」 もし答えが『否』であれば、年金契約は不明確ですといえる。
K.P.アンバクシア・D.ドン エズラ
『エクセレントな年金経営の条件』
さらに、「事業主が給付の最終責任を負う」というなら、代行返上論者の口上に対して何か発言があっても良さそうですが、それが聞こえて来ないのは利益供与でも図ったつもりでいるのでしょうか。それとも、恫喝的に官からの収奪を可能にする仕掛けを提供するから黙って受け取っておけ! とでも言うのでしょうか。ともかく、現実には「事業主が給付の最終責任を負う」という事態とは逆に、代行返上や廃止が騒がしいのをどう聞かれているのでしょうか。
日本の年金基金資産は、この意味では虎の威を借りた業者により掠め取られ、限定列挙方式の行政により「死に体」にされ、企業の政治権力の介入によりスポイルされて、資産の積立不足もさることながら加入員等の年金受給権など風前の灯になっています。30年余もの長い期間にわたって、このような外部勢力の再々の介入により基金の資産はズタズタにされてしまいました面もありますが、反面そのような経験を踏まえて逞しくなった面(資産運用規制撤廃の獲得、資産運用基本方針の制定、受託者責任概念の導入等々)もあるのが現実であり事実です。さらに、そのような厳しい現実の打擲を受けつつ日本経済の土壌改善を果たしつつあること、つまり、使い捨ての従業員への縁切りとしてしか考えられていなかった退職一時金制度に対して厚生年金基金を通じて<終身給付年金の理念>を普及させた点が最大の貢献でしょう。
今は逆に、規制緩和、金融ビッグバン、国際会計等の追い風が基金に吹き始めていると考えていいでしょう。いよいよ、真正面から基金問題を考える土俵が整ったということでありましょう。この国では、長いこと倫理や仏心や商いの道など口に出来ないほど、人心が汚染されてきましたのが現実でしたが、ようよう土壌改良が始まり出したというところでしょう。
規制緩和→
国際会計→ 行政 業者 ←金融ビッグバン
←自主・独立
───────
年金基金
──────
企業 加入員等
大学と卒業後の研修時代を通じて、一言でも「倫理」という言葉を耳にしたこと
はなかった。70年代後半のビッグビジネスが中心だった時期には、道徳は問題に
されなかった。自由で、過激で、人間的な60年代は去り、社会は実利主義に方向
転換していた。
私はウィルキスに対して「内部情報に基づく売買取引は間違っている」と答える
べきであった。しかし、そう答えるかわりに、こうすれば私も余分な金を稼げるん
だと考えた。
D.レビン/W.ホファ-『インサイドアウト』
-ウォ-ル街証券マンの栄光と転落
要するに、<確定給付型年金>の積立金は、誰にも属さない資金ではなく、単に顔が見えがたい不特定多数の集合資産であり、それは、明らかに例え代行制度があってもハルブレヒト氏の言を待つまでもなく、加入員・年金受給者、それに受給待期者に帰属する資産であります。
もし年金基金が従業員に帰属しないのなら誰に帰属しているのであろう?
P.ハルブレヒト『年金基金とその経済的な権力』1960
企業は、掛金を拠出しました段階で所有権の移転が発生するし、厚生省行政は免除料率を提供した段階で同様なことが発生しているのです。法的な帰属を契約上主張する信託銀行や生命保険会社等は委託されました本質(trustee や fiduciary)を理解し負託された信認の社会的使命を達成しなければならないでしょう。大蔵省の耳打ちにあって資産配分をコントロ-ルしたような信託・生保、さらに、それを金融行政としていました大蔵官僚の姿勢には<人様のお金>を<自分たちの金>としてしまう構造的横領が蔓延っていたということでありましょう。
そのような理解・認識がないまま従来方式を引きずるようであれば、基金サイドに勃興しているもの(お任せ運用から戦略アセツト・ミックス運用へ展開)によって自然淘汰されるのは必然でしょう。そのような商品特性は、年金資産運用に不適合なだけです。未だに、エンドユ-ザ-にカストマイズドしない商品の生き残る道があるとでも考えているのでしょうか。
個人勘定で形成される確定拠出型年金が顔の見える年金ですとすれば、顔の見えないと言われる確定給付型年金は、資産の帰属もさることながら、加入員にとって自分の年金の現在価値が明らかでないですという面もあります。この点については、30年余の技術インフラの蓄積により、現在では「加入員台帳」(加入記録のヒストリ-と現時点の年金額等を一表にしたもの-各基金は全加入員のそれの作成を義務付けられている。基金の最も基本のデ-タ)の随時提供も低コストで容易に出来るようになってきています。(源泉徴収票のように。ぺ-パ-以外にも、Eメ-ル等での提供も可能)後は、trustee や fiduciary の観念がどれだけ基金に醸成されているかによる段階にきていると考えられます。
ちなみに、ABC基金では、平成11年度に試験的に希望者に配布を始めています。これを、定期的に、例えば毎年4月に全加入員に配布することを継続すれば、幾分かは顔の見える確定給付型年金となるでありましょう。
この場合とは少々性格が異なりますが、或るコンサルタントは、会社へのインセンティブを高めるために個々人の給料支給明細書に会社負担経費の明細を併記することを提案しています。
当時日本の金融機関が存在感を誇示し、世界から恐れられたのは、金融技術の水
準の高さや経営者の資質の優位からではない。国内からあふれ出た豊富な資金量に
よるものである。いわば、質ではなく、量であった。その量の優位が、不良債権の
処理と円安で見る見る縮んでしまった。
西村吉正『金融行政の敗因』
従来の日本のインフラは何も「顔のみえない厚生年金基金」に限ったことではないですが、客観的論理展開がなく、合理性に欠け、曖昧なところが多く、逆に負託を押しつけることが当たり前になっていました。お上意識、官の知らしめずの世界で足りていたのがここにきて綻びはじめ、ディスクロ-ズを求められてきているのは多くの人が承知の事実です。
とは言いつつも、確定給付型年金が、例え「加入員台帳」等が配布されるようになって個々人が自分の年金額を把握できるようになったとしても、機関として資産運用を行い年金支給を行う仕組みが無くならない限り、確定拠出型年金との資金性格は明確に異なるでありましょう。
要するに、確定給付型年金の資金は政府・企業の手を離れました<人様のお金>であり、確定拠出型年金の資金は個々人の<自分たちの金>なのです。いずれも、政府・企業というスポンサ-の手を離れた資金ということです。
つまり、過去は問わないにしても、<確定給付型年金>の積立金は、加入員・年金受給者、それに受給待期者に帰属する資産であるという基本認識をベ-スにして、つまり、受給権保護の立法化を図りつつ日本の資産運用のインフラ・ノウハウを構築すべきでしょうということになります。
ロッキィ-ズ物語
8 ホ-ルド・アップ
バット片手に血相を変えて私が少年のソバに走り寄ると、少年は体を固くして立
ちつくす。
-どうして好い加減にやるんだよォ。風邪でもひいているのか? 手抜きなんか
するな!
-・・・・・・・
-コ-チ達は、お前に遊んでやっているんじゃないぞ!
-・・・・・・・
-みんなが上手くなるようにと、血を出し・・・・・・(事実、私は、少年たち
に打たせるフリ-・バッティングで1時間もキャッチャ-をやっていると、脱
肛になりユニフォ-ムまで血が染みだすことが再々あった。その時、それを隠
すための私の擬態の滑稽さ、不様まさ。痛いし、汚いし、恥ずかしいし。)
-ホ-ルド・アップ、手を上げて! 穴バットだ。
-・・・・・・・
それは、グローバル・スタンダードである国際会計基準、強いては退職給付債務のPBOの考え方が導入されたことにより決定的な事案となったということでもあります。このことは、退職金は功労報酬ではなく後払い賃金ですと断定したということを意味しており、その給付は終身給付を原則とするということでもあります。
私自身が人にたよらない独立の思想家として本当にスタ-トしたのは、私は常に
この時の討論からだと考えている。思索の方面で私が今までにして来た、あるいは
これからするであろう、すべての仕事のもとになっている一つの精神的習慣、それ
は難問の半分だけの解決を決して全面的解決として受け入れぬということ、謎を中
途で放棄してしまうことなく、はっきりするまでは何度でもくり返してそこにもど
ってゆくこと、ある問題の曖昧な隅々をそれが重要と思えないからといって決して
未踏査のままに残さぬこと、ある問題の全体を理解するまではその如何なる部分を
も完全に理解したとは考えぬこと、というようなことだが、そういう習慣を私が身
につけた、あるいは非常に強化したのも、これらの討論を通じてであった。
J.S.ミル『ミル自伝』 朱牟田夏雄訳
要するに、退職時の一時金としか思料されていなかった日本の退職金は、グローバル・スタンダードとは異質な類稀な制度ですと断案され、そのようなロ-コストの従業員使い捨て手法は地球的規模で経済活動を行う者にはまかりならぬと判定されたのです。世界レベルのル-ルに反するということです。
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●ここまで、ご覧頂き、誠にありがとうございました。
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