<ヤスの備忘録より転載>
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米国債格下げと金融危機
8月5日、格付け大手のスタンダードアンドプアーズは、突然と米国債をこれまでの最高ランクの「AAA」から、ひとつ下の「AA+」に引き下げたことを発表した。発表の後、市場は混乱し、ダウも日経も大きく下げ、世界同時株安の様相を呈した。
しかし翌日には、ダウは大きく上昇して値を戻したものの、次の日にはまた大きく下げながらも、11日にはまた値を戻すという不安定な状況が続いている。
一方、金は1オンス、1800ドルを突破した。これは史上最高値である。すでにメルマガで紹介したが、エドガー・ケイシーの霊と交信して予言するダグラス・ジェームス・コトレル博士の予言のとおり、8月中に1850ドルまで高騰する可能性も十分に出てきた。
さらにドル安もどんどん進行している。1ドル、76円台の史上最高値を更新し続け、70円台前半から60円台後半まで将来は上昇する可能性すら指摘されている。
金融危機の引き金となる米国債の下落
しかし、株安やドル安が原因で金融危機が発生するとは考えにくい。金融危機が実際に発生するとすれば、それは米国債の下落が引き金になるはずである。これは、2007年の前半から始まった金融危機のメカニズムと比較すると分かりやすい。
2007年前半から始まり、2008年9月15日のリーマンショックで頂点に達した金融危機は、周知のように、低所得者用の住宅ローンであるサブプライムローンの破綻が発端だった。サブプライムローンは出所を分からなくされ、優良、不良を含めさまざまなローンをミックスした「債務担保証券(CDO)」という金融商品の一部として販売された。
「債務担保証券」にはムーディーズなどの大手格付け会社から最高ランクの「AAA」として格付けされ、また他の金融商品に比べて利率も極端に高かったため、それこそ飛ぶように売れた。なかには、元本が80%保証されるものさえあった。世界のほとんどの金融機関や膨大な数の個人投資家が購入した。
そのため、サブプライムローンが破綻し「債務担保証券」が暴落すると、これを保有している膨大な数の金融機関や個人投資家は莫大な損失を被った。この損失のため資金繰りに困り、破綻する金融機関や投資家が続出した。
破綻を免れた金融機関も大きな損失を出したので、資金繰りに困り、顧客への貸し渋りや貸し剥しを行い自己資本を守る行動に出た。これが多くの企業の破綻を誘発したので、景気は一気に低迷し、失業率は上昇した。
これが2007年前半から2008年の前回の金融危機の簡単なあらましである。
被害を受たのは民間、政府は無傷
これから始まる新たな金融危機を理解するために重要なポイントは、前回の金融危機で被害を被ったのは民間の銀行や証券会社、そして投資家であり、各国の政府は基本的に無傷であったということだ。基本的に各国の政府は「債務担保証券」を購入対象の金融資産とは見ておらず、ほとんど保有してはいなかった。そもため、「債務担保証券」の暴落で政府が大損することはなかったのである。
救済者としての政府
政府が無傷であったため、政府は、収縮する経済に対する外部からの救済者としてふるまうことはできた。2008年当時、各国政府の財政はいまよりもはるかにましな状態にあったため、政府は巨額の財政支出を行い破綻しつつある金融機関を救済し、また大規模な経済刺激策を実施することが可能であった。以下は2008年度に実施された各国の財政出動の総額である。
アメリカ 総額200兆円程度
EU 50兆円程度
中国 100兆円程度
日本 15兆円程度
こうした巨額の財政出動の甲斐があって、各国の経済はなんとか持ち直し、低いながらもプラスの成長率を確保することができた。失業率の上昇も抑制され、大規模な暴動のような社会不安が発生することもめったになかった。
今度は政府が問題
このような前回の金融危機と、米国債の格下げから始まる可能性のある今回の危機とを比べると、様相はかなり異なっている。
まず、今回際立っているのは、将来大きく下落する可能性のある金融商品が米国債であるという点だ。
「債務担保証券」は、儲けが期待できる優良な金融商品として多くの民間の金融機関や投資家が保有していた。それに対して米国債の最大の保有者は各国の政府である。米国債は過去70年以上にわたってもっとも信頼できる優良な金融商品とされてきたので、各国の政府が保有する額も半端ではなく大きい。
したがって、米国債が大きく下落した場合、もちろん民間の金融機関や投資家も大きな損失を受るが、もっとも大きな被害を被るのは各国の政府なのである。
実際に下落するとどうなるのか?
では実際に下落するとどういうことが起こるのだろうか?それは、債券市場全体の下落である。
米国債は、あらゆる国債の頂点に位置するもっとも信頼性の高い金融商品である。
一方、現在財政が健全な国は非常に少ない。どの国も、膨れ上がる社会保障費を国債の発行で工面し、予算をやり繰りしているのが現状だ。したがって、もっとも評価が高い米国債すらも格下げされ、それが下落するなら、他の国の国債でも同様なことが起こってもまったくおかしくないと市場は判断するはずだ。その結果、あらゆる国債の売りが加速し、債券市場は大きく下落してしまう可能性がある。
予算の捻出が困難になる政府
債券市場の下落は、各国の政府にとっては死活問題だ。どの政府も予算の工面は国債の販売に依存している。債券市場そのものが下落してしまうと、国債の販売は思ったように運ばず、資金は政府の計画したようには入ってこない。このため、どの政府もこれまで以上に深刻な資金難に直面することになる。
民間の金融機関の莫大な損失
もちろん、民間のあらゆる金融機関と投資家も債券市場の下落で天文学的な損失を被る。政府の国債はさまざまな投資信託や金融商品に組み入れられているので、国債全般の下落はこうした金融商品全体の下落を誘発する。この下落による損害は、かつての「債務担保証券」の比ではないはずだ。
最後の救済者としての役割を果たせない政府
しかし前回の金融危機のように、政府が破綻する金融機関や金融システムの救済者となることはできない。2008年の時点では、債券市場そのものが暴落することはなかった。そのため、高い格付けの国債は問題なく販売できたため、主要な先進国は、金融システムの崩壊をくい止め、失速する経済を下支えするために必要となる資金はかならず確保することができた。
ところが、債券市場が大きく下落し、国債が思うように販売できなくなれば、各国の政府は途端に資金の工面に困り、最後の救済者としての役割を果たすことはできなくなる。そうなると、金融危機が実際に起こった場合、歯止めとなる機関は存在しないことになる。
債券市場が下落する場合、2008年のときのような、金融危機が引き起こす金融システムの連鎖的破綻と崩壊を止める有効な手立てを失ってしまうのだ。
市場の原理では動かない政府
今回、米国債は史上初めて格下げされた。では、これで、米国債が下落してそのまま金融危機に突入し、債券市場の暴落から金融危機が一気に拡大するのかといえばそうではない。米国債の格下げは、すぐには米国債の下落には直結しないのだ。
それというのも、米国債の場合、各国の政府は市場の合理性にしたがってこれを購入しているわけではないからである。つまり各国の政府は、一般の金融機関や投資家のように、利益を上げることを目的に米国債を買っているわけではなく、政策的な考慮から購入を決定しているからである。
それというのも、現在でもアメリカは世界最大の消費市場であり、そうしたアメリカの経済を、景気刺激策などの財政支出によって強力に牽引しているのが米政府だからだ。
このため各国政府は、自国の経済の米国市場への依存度が高ければ高いほど、米国債を積極的に購入し、米経済を外から支える必要性に迫られる。もし各国の政府が一般の投資家と同じように行動していたのなら、格下げによる損失を回避するために、いっせいに国債を手放し、そのため米国債は大幅に下落していたであろう。
このようなことになっていないのは、米国債の暴落による米経済の失速を恐れた各国の政府が、米国債を手放すどころか、これを積極的に買っているからである。おそらく、この間行われたG7の緊急ミーティングでも米国債の継続的な購入が合意されたと思われる。
米国債の売りは政治判断
もし各国の政府による米国債の大量の売りがあるとすれば、それは市場の合理性にしたがった判断ではなく、あくまで政府の現実的な戦略に基づいた政治判断だということになる。
もちろんそうした政治判断があれば、米国債は大幅に下落し、債券市場は暴落するだろう。そうなれば、リーマンショックを上回る金融危機は避けられない。各国の政府も予算の資金繰りに困り、金融システムの救済者の役割を果たすことはできなくなる。そのため、金融危機の拡大はリーマンショックをはるかに越えた規模になることは間違いない。
そのような政治判断はあり得るのか?
では、保有している米国債をあえて売るという政府の判断はどのような状況なら成り立つのだろうか?普通では難しい。
そのような政治判断があり得るとすれば、それは、ある政府が、現在のドルを基軸通貨とした世界経済のシステムを放棄し、新しいシステムの導入を決意したときだろう。
このような判断はあまりに唐突に聞こえるかもしれないが、さほど非現実的なものではない。その引き金になるのは大幅なドル安だ。
いまドルは、各国の通貨に対して下落し続けている。もし大幅なドル安がこれからも続くと、各国の輸出にとって大きなブレーキとなる。そのため各国は、ドル安の影響を受けない安定した通貨で、貿易やサービスの決済をする強い動機を持つようになるだろう。
このような動機が背景となり、新しい決済システムの導入を意図するような国が出てこないとも限らないのだ。
<転載終わり>
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8月5日に米国債が格下げされてから、面白いことに米国債は下落するどころか上昇しています。ところがその影響でドルが下落しています。先週は519ドルも下げる日もありましたが、また買われて戻したりと、一進一退を繰り返しています。ドルが徐々に下がっていますので、当然円はドンドン上がり、政府介入も全く意味も無く、76円台となっています。これでは輸出で稼いでいる企業はたまったものではありません。円高倒産も増えていると報道されています。
これから先も、ドルがドンドン安くなっていくと、日本や中国のように主に輸出で稼いでいる国は相当不利になってきます。そうなればドルで決済するのではなく、別の通貨に変更する国が出て来る可能性もあると高島先生は言われています。それがどのような形で出て来るのかは分かりませんが、アメリカはドル安に仕向けて、自国を守っていますが、そんなことばかりしていると、愛想を尽かす国も出て来る可能性もあるということです。それだけアメリカは苦しいので、ドル安政策を続けるしかないということです。高島先生は、それを発表する国が8月18日、19日に出てくるかもしれないと言われています。あと2日、3日ですね。