日本推理作家協会賞短篇部門の受賞作「#拡散希望」を含む5篇を収録。とにかく絶対に読者をだましてやる、という気概がみっちりつまっています。そのおかげで本屋大賞ノミネート、ベストセラー街道驀進中。
たいがいのミステリ作家は、特に短篇の場合はオチを決めてから書き始めるんだろうと想像するけど(赤川次郎さんは書きながら考えるんですって!)、この人はその傾向が特に強い。真相に読者が気づかないように慎重に書き進めているのだ。
暗いエンディングであっても、だまされた爽快感がそれを上回る。ベストセラー納得。
日本推理作家協会賞短篇部門の受賞作「#拡散希望」を含む5篇を収録。とにかく絶対に読者をだましてやる、という気概がみっちりつまっています。そのおかげで本屋大賞ノミネート、ベストセラー街道驀進中。
たいがいのミステリ作家は、特に短篇の場合はオチを決めてから書き始めるんだろうと想像するけど(赤川次郎さんは書きながら考えるんですって!)、この人はその傾向が特に強い。真相に読者が気づかないように慎重に書き進めているのだ。
暗いエンディングであっても、だまされた爽快感がそれを上回る。ベストセラー納得。
白井智之を三連発。タイトルはもちろんそれぞれ「死霊のはらわた」「悪魔のいけにえ」「そして誰もいなくなった」のもじり。
この人の特徴は、まずはグロいことらしいんだけど(笑)、近作は本格風味が強まり(というかグロの風味が薄まり)、だから年末のミステリランキングでも上位に入るようになったようだ。
さて、どんなものかしらと読み始めたらこれが面白い面白い。「屍人荘の殺人」などの異常設定ミステリがお好みの人なら、絶対に喜んでいただけるはずだ。いやしかしちょっとやっぱりグロいので覚悟して読んで。
きわめて島田荘司らしい作品。最初に圧倒的な不可思議な状況を提示し、後段で(強引ではあっても)その謎を解き明かしていく……多くのミステリがそうなってるじゃないかと思われるかもしれない。
しかし一度は社会派ミステリに押されて衰退した本格を、新本格として復活させたのが島田の「占星術殺人事件」である以上、当然のことだ。彼がルールブックだったのだし。けれん味たっぷりの筆致といい、わくわくさせてくれる。
世界中で人気を博す、生きる伝説のバレリーナ・クレスパンが密室で殺された。
1977年10月、ニューヨークのバレエシアターで上演された「スカボロゥの祭り」で主役を務めたクレスパン。警察の調べによると、彼女は2幕と3幕の間の休憩時間の最中に、専用の控室で撲殺されたという。しかし3幕以降も舞台は続行された。
さらに観客たちは、最後までクレスパンの踊りを見ていた、と言っていて……
……3幕目以降は死者が踊っていたのか、という大ネタ。確かに、3幕目以降は頭から出血しているのを関係者が目撃している。終幕後、彼女はカーテンコールに出てこない。休憩室は内側から施錠されており、ドアを破壊してなかに入ると、クレスパンは頭部を殴られて殺されていた。完璧な密室。しかも廊下にはボディガードが眼を光らせていて、誰も休憩室には入らなかったと証言する。
いやーかましてますね。しかもこの謎を解くのが名探偵御手洗潔なのである。待ってました!
ただ、ネタバレになるんですけどこの作品はミステリでやってはいけないこと(たとえば有名なノックスの十戒の)を少なくとも二つはやっちゃってます(笑)。
しかし、バレリーナが高く跳んだように見せるために、バレエシアターの舞台は少し傾斜しているとか、コクのある展開がうれしい。至福の読書でした。
むかし話をツイストしたシリーズとして4作目。赤ずきんちゃんが探偵役となるのはこれで2作目だ。
今回は、タイトルどおり身体の多くを奪われたピノキオを赤ずきんちゃんが拾い、あいかわらず死体と遭遇しまくるお話。
毎回毎回死体が出てくるのを、「そういうのが得意」な赤ずきんちゃんが名探偵として犯人を指摘する。「なんて杜撰なの」とバカにして(笑)。
ネタになっているのは「白雪姫」「ハーメルンの笛吹き男」「三匹の子豚」など。嘘をつくと鼻が伸びるピノキオの特性が徹底的に生かされています。
作品とは関係ないのだけれど、わたしはこのミステリを、山の上にある保養所の駐車場の車のなかで読んでいた。その保養所で妻が念仏の講習を受けていたもので。
陽射しをさけて、木陰に駐車したのはいいのだけれど、いつ熊が出てくるかとひやひやでした。
田舎に住んでいるものだから、家に鍵をかけるという習慣がなかった。不用心にもほどがあるけれども、三世代同居なのでたいがい、うちにはだれかいる。いなかったとしても、田舎だから村全体が相互監視しているようなものなので(笑)、よからぬ考えの持ち主が侵入すると目立って仕方がない側面もある。
しかし、うちの猫が外でケンカして大けがをしたこともあって、きちんと戸締りをすることになった。つまり、うちの場合は外からの侵入を防ぐよりも、内から外へ“出さない”ための施錠なのである。やれやれ。
3年ぶりのリンカーン・ライム。今回の犯人は開錠の天才。
その天才は、ねらった住居に侵入し、ほとんどなにもせずに施錠していく。彼がなぜそんなテクニックを身につけたかは、うちの猫と同じような理由だったので笑える。
ディーヴァーらしいミスディレクションの連続。コルター・ショウのシリーズとはレベルが違う。終盤のどんでん返しの連続には、さすがにやりすぎじゃないかと思いましたが。
ディーヴァーらしさがもうひとつ。徹底した取材によって“鍵”というものの歴史やコンセプトが惜しみなく開陳され、読者を満足させてくれます。サックスとライム夫婦の会話も絶好調。娯楽小説とはこれだ。
「タルト・タタンの夢」「ヴァン・ショーをあなたに」につづくビストロ・パ・マルのシリーズ3作目。軽い気持ちで読み始めたら最初の「コウノトリが運ぶもの」に泣かされてしまった。こりゃあ西島秀俊主演でドラマ化された「シェフは名探偵」を見なければ。
前作「ジャパンタウン」で、日本のある地方に暗殺者の村があるというとんでもない設定で笑わせていただいた私立探偵ジム・ブローディのシリーズ第2弾。今回は、第二次世界大戦中に中国でなにごとかを行った年寄りたちが次々に殺されていくというお話。
舞台が日本で、探偵がアメリカ人、そこに中国が關係してくるあたり、前作同様に楽しめる。ちょっとネタバレだけど、真犯人の邪悪さは比類がない。
「ネヴァー・ゲーム」につづく、懸賞金ハンター、コルター・ショウものの第2作と第3作。ここまでで第1期が完結。
1作目がわたしはどうも合わなかったのだが、どんどん面白くなっています。
行方不明の人間を探し出して懸賞金をうけとるという、ほんとにそんな商売が成り立つのかなと思いながらも、あらゆる手段を駆使して目的を達成するコルター。そして彼自身も、兄の行方を捜しているのだが……
常に確率を意識して行動する冷静さ、兄につらい思いをさせたのではないかと後悔する繊細さが同居するコルターにどんどんひきこまれていきます。読者の予想を常に裏切るディーヴァーの腕前はあいかわらず。
さて、つぎはリンカーン・ライムの新作にとりかかりましょうか。
「ハンティング・タイム」につづく。