ひょっとしたら友だちになれたかもしれない、と主人公の類(ルイ)のことを思う。生活力がなく、常にだれかに依拠し、しかし詩心を失わない……文学者として名を成すよりも、ひたすら静かに生きていたいと願った男。
しかし彼は、森鴎外の息子という、逃れられない宿命を背負ってもいた。
長男の於菟、長女の茉莉、次女の杏奴のいずれも著作家として名を成している森一族もすごいが、出来の悪い末っ子が次第に生きていく術を身につけていく(非常に遅くはあるけれど)過程は読みごたえがある。
森茉莉が週刊新潮にテレビ評を連載していたのはわたしもリアルタイムに覚えているので(同学年である朝井まかてにとってもそれは同様だろう)、この長大な末っ子の物語はついこの間のことのように思える。鴎外、意外に近年の人だったのかも。文豪だけど。
にしても鴎外のネーミングセンスはすごい。オットー、フリッツ(次男で早世した不律)、マリー、アンヌ、ルイである。令和の世ならきっとキラキラネームをつけたんじゃないかしら。文豪だけど。
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