細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『キャタピラー』の凄惨な介護戦争の果て。

2010年06月10日 | Weblog
●6月8日(火)15-30 銀座<TCC試写室>
M-069『キャタピラー』Caterpillar (2009) 若松プロ/日
監督/若松孝二 主演/寺島しのぶ ★★★☆
今年のベルリン国際映画祭で、銀熊賞(最優秀女優賞)を寺島しのぶが授賞した話題作。
戦争中に戦場で負傷して両手両足、そして言語障害まで背負った夫が帰還した。
勲章は貰ったものの、その日の食事にも困っている農村の妻は、ほぼ植物人間のような、生きたダルマともいえる夫の介護に忙殺され、困惑する。
食べること。寝ること。そしてセックスと排泄。これしか生きていてやることはない。
まったく、希望や未来もない、暗黒の現実。これも戦争被害なのだ。
とくに、妻や家族の絶望感は、戦死の報よりも辛いのがわかる。
若松監督は舞台劇のように、悲惨な夫婦の日常を淡々と描いて行く。とくに悲劇的なドラマ性を強調した描写はないが、この異常な生活はそれだけで強い反戦のメッセージではある。
アラン・コルビの秀作『かくも長き不在』では、記憶を喪失した夫が戦地から戻って、妻は絶望した。
たしかに『ジョニーは戦場に行った』のような、もどかしい気持ちは募るが、あえて今、こうして反戦を詠うならば、わたしはもう少しストイックな側面の方が見たかった。

■痛烈なライナーだが、惜しくもショートのファインプレーに阻まれた。
●8月15日より、テアトル新宿などでロードショー