●11月6日(火)13−00 京橋<テアトル試写室>
M−132『東ベルリンから来た女』Barbara (2012) the match factory / schramm film 独
監督/クリスティアン・ベッツウォルト 主演/ニーナ・フォス <105分> ★★★☆☆
まるでサイレント映画のように台詞の少ないサスペンス充満の恋愛映画だ。
1980年の夏。ベルリンの東西が分断されていた時代の、東ドイツのバルト海岸の町。
自由思想に憧れた看護婦ニーナは左遷されて、東の秘密警察の監視下での病院勤務にあった。
恋人は西側にいて、彼女を脱出させるために密会していたが、<シュタージ>という秘密警察の執拗な目が光る。
風の音、ひとのささやき、時計の秒針、犬の遠吠え、自動車の通過音、階段の靴音、・・・・。
まるで試写室が、その彼女の心境の低迷を感じさせるような、沈黙のサスペンスが見事だ。
初期のヒッチコックや、フリッツ・ラングのスパイ映画を思わせる、異様な緊張感が続くのだ。
しかしこれはスパイ映画ではなく、美しい感性のロミオとジュリエットのような密会ラブストーリー。
普通なら、最後まで自由思想に憧れて、この禁断の恋を貫く脱出ドラマになる筈だが、・・・これが違った。
まるで北朝鮮と韓国のような背景だが、ニーナの心は、少しづつ社会主義のつつましさにも共感していく。
この大胆な発想が、この新作の鋭さで、早くも次回アカデミー賞外国語部門に推薦選出された。
必ずしも自由主義だけが、人間の幸福を支えるのだろうか。という疑問を囁く新作。
スパイものでも、ラブストーリーでもなく、人間の本質に迫った、異色作だ。
■痛打がファーストのベースに当たってブルペンに転々のツーベース。
●2013年1月下旬、Bunkamuraル・シネマなどでロードショー