細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『私が愛した大統領』秘め事が美徳とされていた、いい時代のエピソード。

2013年07月18日 | Weblog

●7月17日(水)15−30 築地<松竹映画3F試写室>
M−085『私が愛した大統領』Hyde Park on Hudson (2012) focus features / film 4 / daybreak pictures
監督/ロジャー・ミッチェル 主演/ビル・マーレイ <94分>配給/キノ・フィルムズ ★★★☆
大不況と第二次世界大戦の板挟みにも、長い政権を維持したアメリカ32代大統領ルーズベルト。
そのプライバシーは、当時から報道規制で謎に包まれていた。
むしろ悪妻賢女のエレノア・ルーズベルトの存在のほうが、当時はクローズアップされて、映画にもなっていた程だ。
この映画は政治とは関係なく、ニューヨーク郊外のハイドパークでの、夏の休暇の日々をスケッチしている。
持病の小児麻痺で、病弱で孤独な大統領の心を癒すために、老母は親戚の娘デイジーを呼び寄せて、切手趣味の大統領の話し相手を頼む。
ストーリーは、そのデイジーが99歳で亡くなった際に見つかった彼女の日記から構想されたという。
まだプライバシーや秘密が、公然と明かしてはいけないという、暗黙のルールのあった、いい時代。
わたしだって子供の頃だが、敵国アメリカ大統領の持病のことなどは知らなかった、という、暗黙の時代だった。
その日、あの「英国王のスピーチ」で有名になったイギリス国王のジョージ6世が、別荘を訪問した。
大戦勃発の非常時に、アメリカの軍事援助を頼むための重要な訪問だったが、病人同士のふたりは歓談した。
おかしいのは、翌日の昼食会に、ホットドッグと先住民の踊りでもてなした際の、イギリス国王側の反応だ。
日本なら、おにぎりと鹿踊りのような庶民性でもてなしたようで、本来なら国賓には失礼なところ。
そこをデリケートなユーモアで流したというエピソードは、いちばんアメリカっぽくて面白かった。
クーパーの名作「秘めたる情事」のように、高齢者のささやかな恋情というのは、とくに当時は多かった筈。
ゲレン・ミラーの「ムーンライト・セレナーデ」を流すだけで、オールドタイマーにはジーンとくる心情が伺われた。
カクテル「オールド・ファッション」の、あの枯れた上品な美味である。

■ボテボテだが、セカンド塁上をゴロで抜けたシングル・ヒット。
●9月、TOHOシネマズ・シャンテなどでロードショー