細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『母の身終い』の静寂で孤高な決断への賛否。

2013年11月01日 | Weblog

10月30日(水)13-00 京橋<テアトル試写室>

M-138『母の身終い』 Quelques Heures de Printemps (2012) TS productions / arte france cinema 仏

監督・ステファンヌ・ブリゼ 主演・ヴァンサン・ランドン <108分> 配給・ドマ・ミモザフィルムズ ★★★☆☆

ひとりの孤独で重病な老母の、ひとつの決断を描いた作品で、その死を見つめた決意の強さに動揺する。

麻薬の密売にテを出して塀の中にいた48歳の息子が出獄した。トラックの運転手だが、何も手につかぬまま母の家に居候する。

もともとソリの合わない母と息子はロクに口もきかない。お互いに勝手にキッチンで冷えたスープを飲んでいる。

フランスの田舎町。父親の死後は、手に負えぬバカ息子の世話をやく母親も、実は重度の脳腫瘍の大病が進行していた。

沈黙のドラマだが、お互いに生きる問題と、死に行く問題に沈黙している空気が重い。まるでベルイマン映画のような肌寒さだ。

母は、先のない人生に、自分なりにケジメをつけて、家のなかの私物を黙々と整理しているが、隣の老人だけは二人の亀裂を理解している。

あまり口をきかないホームドラマなので、そこは暗黙の演出で、ドラマの進行を予測するしかないが、とにかく悲劇は進行する。

そして医師の最終的な通告を聞いた母は、独断でスイスにある安楽死の施設に身じまいの契約をする。おそらくこれは彼女の強い意志の結論だ。

ま、日本にはこのような施設はないので、病院で無為な延命処置をするのだろうが、この映画の決断は、まさに即決なのだ。

そして<甘味な処刑>のように、その施設では契約後、立会人の承諾で、その日のうちに、甘い毒薬を渡すのだ。

ベッドで横になり、「ああ、眠くなってきたわ・・・」と彼女は呟いて、逝く。別れの言葉もない。

サム・ペキンパ監督の名作「昼下がりの決闘」のように、四方の紅葉を見るでもない。よくあるような感動の瞬間もない。

人生の幸福感と終焉のなりゆきはその人と、神のみぞ知る。だが、この老嬢は、すべてを自分の意志で選択して、最期の日を決めるのだ。まるでいつもの夜のように、ベッドに横になり目を閉じる。

賛否両論だろう。でも、わたしは個人的には賛同できる。自分だけの人生ではないのだが、それでも必ずその日は来るのだ。

ニック・カサベテス監督の「ミルドレッド」同様に、異論は多いだろうが、ひとはひと。わがままでいい、と思う。感銘した。

 

■バットに当てたボールが投手のグラブを痛くはじいて、ファールラインを越えたヒット。

●12月下旬より、シネスイッチ銀座で正月ロードショー