細越麟太郎 MOVIE DIARY

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●『麦子さんと』に見られる家族という名の疎遠な絆。

2013年11月30日 | Weblog

11月28日(木)13-00 <六本木>シネマートB1・3試写室

M-150『麦子さんと』(2013)プロダクション・ステアウェイ ファントム・フィルム

監督・吉田恵輔 主演・堀北真希 <95分>配給・ファントム・フィルム ★★★☆☆☆

やっと、久しぶりに素敵な日本映画に出会った。ちゃんと人間同士の生き様を正面から見据えた傑作だ。

絶縁状態で長いこと疎遠だった母親(余 貴美子)が、突然、東京の息子と娘、麦子の住むアパートに転がり込んで来た。

フリーターの兄(松田龍平)にうんざりして、喧嘩ばかりしている妹の堀北も、声優を夢見てアニメショップでアルバイトしている。

カスカスの生活なのに飛び込んで来た母を、兄は「ばばあ」と呼び、妹は「あんた」と呼ぶ。しかし、これも親子である。

実は末期がんだった母は突然死してしまい、困った麦子は、遺骨を持って、故郷の山梨の田舎の墓に行くことになる。

歌手を夢見て、18歳のころに村を出た母は、実は人気のアイドルで現在の麦子にそっくりだったもので、村の大評判になる。

ここで、18歳の頃の母を、娘の麦子が演じるという発想は、とても自然でいいし、村の人々のリアクションも納得できるのだ。

埋葬許可証を忘れて来たために、3日ほどその村で過ごす事になった麦子に、昔、母に熱をあげていたジジイたちは当然のように、親切に尽くすのだった。

軽蔑しきっていた母も、実は大変な人気者だったことを知り、次第に麦子は、不運な人生を送って突然に逝った母の愛情に胸を締めつけられる。

村祭りのステージに上げられて、昔、母が歌った松田聖子の「赤いスイートピー」を音痴で歌う麦子の戸惑いには、不覚にもナミダ。

いまの若者たちの粗暴な言動を、実にリアルに活かして、アニメ感覚も時折カットインする吉田監督の感覚は、すこぶる柔軟で暖かい。

「てめえ、ばかか」「ばばあは死ね」「ぼけ、じゃまだよ」・・・と、乱雑な日常会話が、少しずつ暖かく感じられるようになる演出が素晴らしい。

キャスチィングのアンサンブルも「ばっちり」で、ラスト近くなると、もっと、このドラマが続いていって欲しくなった。

このお正月、一番の、おすすめ邦画の一本だ。

 

■前進守備のレフトの頭上を越えたライナーがフェンスに転々のスリーベース。

●12月21日より、テアトル新宿ほかでロードショー