●4月18日(金)13-00 京橋<テアトル試写室>
M-040『私の男』(2014)日活、文藝春秋、キリシマ一九四五、ハピネット
監督・熊切和嘉 主演・浅野忠信 <129分> 提供・日活映画配給グループ ★★★☆☆
真っ黒のスクリーンに、ギシギシっという音が聞こえ、次第にスクリーンに流氷の氷原が見えてくる。
北海道、奥尻島。大地震による津波で多くの家が流されて、ひとり救出された少女ハナは、遠い親戚だと名乗り出た浅野と暮らすことになる。
まるで親子のように年齢の離れたふたりだが、やがて少女が高校生になった頃のふたりは「男とおんな」の秘められた生活が孤立していた。
4年もの歳月が過ぎても、その不思議な関係にあるふたりを危惧して、遠縁の男がハナを説得しようとしたが、流氷の流れに姿を消してしまう。
直木賞受賞の桜庭一樹の原作を、「夏の終り」の熊切監督が演出したこの映画は、隔絶された北の厳寒に住む男と少女の、異様なラブストーリー。
凍てつく流氷のロケーションが、いかにも閉ざされた人間の情欲を凍らせ、独特のエモーションに生きざるを得ないような人間の哀しみを抉って行くのだ。
大島渚監督の「愛のコリーダ」に出演した藤竜也が、この孤立したふたりに接近するという設定が、いかにも情欲のミステリーのムードを深めて行く。
しかし、その男の凍死事件のあとに、ふたりが上京してから、その足跡を追って来た警察官が登場。映画は氷結の世界から東京貧民の泥沼生活となる。
おそらく原作では、その地域の落差がふたりの心情を濃密に書き込まれているのだろうが、映画の方は、どうも後半は「事件もの」の展開に見えてくるのが惜しまれる。
浅野は「雪国」の池部良のように、いや「飢餓海峡」の三国連太郎のように、情欲と犯罪に押し流されて行く男の、放心したような狂気を滲ませて好演。
しかしタイトルのように、主役は少女からファム・ファタールに変身していく二階堂ふみの、まさに氷結された流氷のような冷たくも激しい欲情のモンスターぶりだろう。
男が、この転落していく情欲の地獄に、次第に自我を狂わせていくのに、その表情を冷たく嘲笑して生きて行くラストの「氷の微笑」のハナは、肌寒い。
■痛烈なセカンドゴロを、野手が弾いてしまい、ヒット。
●6月14日より、新宿ピカデリー他で全国ロードショー